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削減時間と効果は比例しない? RPAの不都合な真実

RPAの導入企業は実際にどれくらいの効果を感じているのか。効果が「ない」とした企業の言い分とは。

» 2023年09月26日 08時00分 公開
[キーマンズネット]

 業務自動化の現在地を探るために、キーマンズネットは「業務自動化に関する意識調査2023年」と題してアンケート調査を実施した(期間:2023年7月20日〜8月31日、有効回答数:606件)。本連載は、全8回にわたってアンケート調査から得られた結果を紹介する

 第7回となる本稿のテーマはRPA(Robitic Process Automation)プロジェクトの「効果」だ。RPAの導入企業は実際にどれくらいの効果を感じているのか。効果が「ない」とした企業の言い分とは。

RPAの効果が想定を下回る理由は?

 まず、RPAを導入済みの企業に対して、RPAが期待通りの効果を挙げているかどうかを聞いた。「想定以上の効果を挙げている」(4.6%)と、「おおむね想定通りの効果を挙げている」(74.0%)とした企業を合わせて78.6%の企業が効果を感じていた(図1)。

図1 RPAは想定通りの効果を挙げているか

 図2はその具体的な効果について聞いた結果だ。「エラーや人的ミスの削減」(71.9%)が最も回答率が高く、「プロセスの効率化とタスクの自動化による業務プロセスのリードタイム短縮」(48.7%)、「ルーティン業務からの解放による従業員の専門性、創造性向上」(37.1%)が続いた(図2)。これらの効果は相互に関連し合って、従業員の仕事の質や業務への満足度、メンタルの向上につながると考えられる。

図2 RPAで得られた効果(複数回答可)

 RPAはルールベースのタスクを正確に実行するため、従業員はエラーの修正に掛かる時間やストレスから解放される。さらにエラーの削減や業務自動化そのものの効果によってプロセスのリードタイムが短縮されることで、より付加価値の高い仕事に労力を振り向けられるようになり、従業員の専門性や創造性も向上する。

 一方で、「残業時間の抑制」(29.0%)や「人材不足の解消」(15.6%)、「ワークライフバランスの改善」(3.1%)といった項目は4位以下に位置している。RPA導入の目的を聞いた質問(第3回既出)では、「業務時間の削減」が39.7%と最も多い回答を集めたが、業務時間の削減に直接つながるような項目は相対的に回答率が低かった。

図3 RPA導入の目的

 「想定をやや下回る結果だった」(16.5%)、「想定を大幅に下回る結果だった」(4.9%)を合わせた21.4%が効果を感じられないと回答した(図1)。一体なぜか。

 その理由をフリーコメントで聞いた。期待した効果を得られないとした回答者の理由はさまざまだが、シナリオや外部環境の改修といった要因でRPAがエラーを起こして復旧の手間が増える、削減時間の数字は積みあがっているようでもワークフローの一部しか自動化できない、想定していたほど社内業務に適応できず展開が進まない、判断を含む業務への適応できないといったことが導入当初の期待とのギャップにつながるようだ。以下で具体的なコメントの一部を紹介する。

  • 削減時間は勇ましい数字が並んでいるが、もともと余裕のある部門しかRPAに触らないので、利益に対するインパクトがない。
  • 適用できる案件が見込みより少ない。
  • 業務の一部しか自動化できない。
  • 社内展開が進まない
  • 想定していたほど自動化したい業務が見つからない
  • ロボットがよくエラーで停止する。その度に開発依頼先に修正を依頼し、業務が停止する。また、担当者の時間が取られる
  • 結局確認作業やエラーなど業務量が増えてしまった
  • 人間の判断が必要な入力が多いため
  • システムの画面のIN/OUT処理があるが、画面変更に合わせてRPAの保守が必要。
  • よく処理停止するので運用工数がかかる
  • 稼働しているRPA端末のOSアップデート(に伴うRPA処理の再作成など)に手間がかかる
  • 自動化してもソフトウェアのUIがすぐ変わることで、野良RPAになってしまう。
  • 業務時間を減らす事にユーザー部門がベネフィットを感じていない。
  • 現場担当者の改善意識が低い(定型業務の資料作成やデータ確認が自分の仕事だと思っている)
  • 現場が対応すると、その業務フローを変えることなくそのまま自動化するが、業務フローごと見直さないと効率化にはならない

 特に、「削減時間を積み上げても実際にインパクトのある効果を感じられない」というコメントは、KPIを削減時間に置いている企業にとっては気になる課題ではないだろうか。一部の業務を自動化した成果を積み上げたとしても、業務のどこかに人手の作業が残ることで、実際には「現場が楽になった」という実感が得られないケースがあるということだ。この課題に対しては、後述するようなRPA以外の自動化技術との連携が一つの解決策になり得る。

RPAと連携している、させたい機能は?

 上記のコメントに挙がった課題は、組織的な要因やRPAの機能的な要因などさまざまだ。前者については企業個別の事情が大きく絡むものだが、後者についてはUI操作をルールベースで自動化するRPAのコア機能に加えて、API連携やAIの技術をベースとするさまざまな自動化機能を活用すること有効だと言われている。

 RPAを利用する企業は、どのような機能やサービスに注目しているのか。まず、現在RPAと連携させている機能について聞くと、「特にない」(39.3%)が最も多く、「ノーコード/ローコードによるアプリ開発ツール」(18.6%)、「タスクマイニングによってPCの操作ログを入力データとして利用」(18.6%)、「AI-OCRや画像認識AIを組み合わせた自動文字認識とデータ入出力」(17.5%)が続いた(図4)。

図4 RPAと現在連携させている機能

 一方、これから連携させたい機能としては、「AI-OCRや画像認識AIを組み合わせた自動文字認識とデータ入出力」(26.7%)、「特にない」(22.1%)、「ノーコード/ローコードによるアプリ開発ツール」(19.3%)、「生成AIによるドキュメントや画像の生成、処理」(16.8%)が上位に上がった(図5)。

図5 RPAの今後連携させたい機能

 ノーコード/ローコード開発ツールは「連携させたい」「連携させている」ツールともども上位を獲得している。RPAと同様に、システム化できない業務の効率化に適しているが、非定型業務に適応しやすいという点でRPAとは異なる得意領域を持つ。AI-OCRや画像認識AIは、紙やPDFのテキスト情報をRPAが扱える形式で抽出することで、自動化の範囲を一段階拡大できるツールとして長年注目度が高い技術だ。

 一方、「連携させているツール」の2位に上がったタスクマイニングツールは、日常的なタスクを分析し、そのデータから作業のパターンやトレンド、ボトルネックを特定する技術で、数年前から大手RPA製品にも組み込まれている。業務プロセスの改善ポイントやRPAを適用すべきタスクの抽出ができるため、自動化の効果を最大化できるツールとして人気を得ているようだ。

 さらに、生成AIツールが「連携させたいツール」として3位に上がった理由としては、2022年末から続いている「ChatGPT」ブームの影響があるだろう。

 これらのツールをRPAと連携させることで、自動化できる業務の範囲が広がり、場合によってはRPA開発や運用の工数の低下が期待できる。

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