AR、VR、MRの違いは何だろうか。これらXRを業務に活用するために、それぞれの違いを理解しよう。
イマーシブテクノロジー(没入型技術)の進歩はとどまるところを知らず、さまざまな産業に変化をもたらしている。企業に大きなメリットをもたらすXR(エクステンデッドリアリティー)だが、それぞれの特徴を理解していないと活用は難しい。
AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、MR(複合現実)の違いを理解するのは難しいようにも感じるが、こういった技術に注目が集まっている背景には「既に多くの人々がこれらに慣れ親しんでいる」ということがある。それぞれの没入型技術は、従業員のデジタル体験を向上させるポテンシャルを持つ。
以下は各技術の説明とそれぞれのユースケースだ。
ARは「ユーザーの物理環境にデジタル画像を重ねて表示する技術」だ。
好例に「アイアンマン」の登場人物、トニー・スタークが装着しているアイアンマンヘルメットのスクリーンがある。そこにはオブジェクトとの距離や自身の高度、動いている敵のスピードといった情報が表示される。
エンターテインメント業界では、プレイヤーが自分のスマートフォンを使ってデジタルキャラクターと現実世界で触れ合える人気アプリ「Pokemon GO」がある。
ARはエンターテインメント業界だけでなく、ビジネスでも活用されている。製造業の中には、作業員の研修やメンテナンスの実施にARを活用しているところもある。
ARヘッドセットには、機械のモデルやシリアル番号、取扱説明書、修理の手順といった製造現場で役立つ情報を表示できる。ARヘッドセットはタブレットやPCと同期でき、現場監督は作業員が見ているものを自分でも確認し、必要に応じて機器の使い方や修理の仕方を口頭で指示できる。また、ARヘッドセットには特定の作業方法や機器の修理方法をアニメーションなどで表示できる。
とあるレストランでは、客が注文するときにARでメニューの内容を確認できる取り組みを進めている。ARを利用することで、料理のボリュームなどが分かりやすくなり、客の満足度向上につながる。また、紙のメニューを印刷する必要性も無くなり、経費削減につながる。
ARは物流倉庫業界にも業務改善をもたらす。倉庫作業員がARスマートグラスを使えば、顧客が注文した商品を取りに行くまでの最短ルートを示してくれる。作業員が目的地に到着すると、ARスマートグラスがそのことを通知し、棚の上にある商品の実際の位置を教えてくれる。
VRは「現実世界の物理的感覚を完璧に模倣する、コンピュータが生み出す完全没入型の世界」だ。においをVRで体験できるようになるにはまだ時間が必要だが、現時点でも有用な技術であることは間違いない。
VRは「コンピュータがシミュレートする3D環境」のことで、マウスをクリックする、あるいはヘッドセットや専用グローブなどを使うことで、ユーザーはデジタルオブジェクトとやりとりできる。消費者向けの代表的なVR製品としては、Googleの「Cardboard」や、Meta Platformsの「Oculus Rift」、Sonyの「PlayStation VR2」などがある。
製造業者は設備の分析や製造工程の評価、作業員の研修などに、専用のVRヘッドセットを活用できる。例えば、製造工程をバーチャルに再現して、VRシミュレーションでそれを詳しく調べれば、特定の機械をより効率的に動かせる方法などを確認できる。
また、ある製品のバーチャルモデル(デジタルツイン)を構築することで、そのライフサイクルを観察し、内部構造に関するインサイトを得ることも可能だ。
ヘルスケア業界もVRに有用性を見いだしている。VRがPTSDを患う退役軍人の暴露療法や神経障害に苦しむ患者のリハビリ治療に役立つ可能性が指摘されている。
拡張現実と仮想現実の違いが混乱を引き起こすことがある。ARとVRの主な違いには以下のようなものがある。
拡張現実をさらに進化させ、ユーザーが仮想オブジェクトを操作したり仮想情報をやりとりしたりできるようにするのがMRだ。MRヘッドセットには、ユーザーの物理的環境と一致する情報などが表示され、ユーザーはその情報をデジタル環境でやりとりできる。例えばMRヘッドセットが仮想キーボードを机の上に映し出し、ユーザーがそれを使ってタイプするといったことが可能だ。
MRとARの主な違いは、MRが「ユーザーがデジタル表示と相互作用できる点」だ。例えばARヘッドセットを装着した技術者は、エンジンのホログラフィック画像を見ることはできるが、それをバーチャルで分解することはできない。
MRヘッドセットを装着した技術者は、エンジンなどのホログラフィック画像を確認し、バーチャルで分解してその内部構造を調べることが可能だ。MRを活用すれば時間を節約でき、実際のエンジンを検査するツールもいらない。
小売業者は店舗のレイアウトなどにMRを活用できる。「販促用のディスプレイを店の前に設置したらどういうふうに見えるか」などをMRで視覚化して確認できる。
学生は3Dプロジェクションや3Dシミュレーションを使ってバーチャルコンテンツとやりとりし、学習能力を高められる可能性がある。例えば、博物館で働くためのスキルを学んでいる学生は、MRを活用して貴重な遺物を損傷することなく、その洗浄作業の練習ができる。
XRは「現実と仮想の側面を結び付けるコンピュータが生み出す体験」のことだ。XRには拡張現実と仮想現実、複合現実が全て含まれ、メタバースのような他の没入型技術もそこに組み込める。
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