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適性検査を採用だけで使うのは“もったいない” トレンド、選定ポイント、意外な活用を解説

企業の多くが導入している適性検査にもコロナ禍を経て変化の波がある。製品トレンドや選定ポイント、採用活動以外の活用方法を解説する。

» 2024年01月29日 07時00分 公開
[平 行男合同会社スクライブ]

 コロナ禍をきっかけにオンラインでの面談が一般化するなど、採用活動は大きく変わった。すでに多くの企業が導入している適性検査にも変化が生じている。近年のトレンドも踏まえた適性検査サービスの選定ポイントを、日本で多くの企業で導入されている適性検査「SPI3」を提供するリクルートマネジメントソリューションズの仁田光彦氏(測定技術研究所 所長)に聞いた。

受検者は“気付かない”進化をしている適性検査

 近年の適性検査のトレンドとして、紙での受検が減り、遠隔からの受検が普及してきたことが挙げられる。遠隔からの受検方式は、自宅のPCなどを使って受ける「Webテスティング方式」と、検査会場で受ける「テストセンター方式」の2つに分かれる。コロナ禍の環境下ではWebテスティングでの受検が一時的に主流となったものの、本人確認が難しく、なりすましなどの不正行為を防ぎにくいという弱点が指摘されていた。そこでアフターコロナでは、テストセンター方式受検の適性検査を選ぶ企業が増加している。

 SPI3の対策を例に挙げると、全国にあるテストセンターのPCで受検する方式だけでなく、自宅からオンライン会場で受検するオンラインテストセンター方式も提供している。自宅からの受検者は、顔写真付き本人確認書類を利用して本人認証を行い、Webカメラ付きのパソコンから専用システムを使って受検する。受検者の様子は、リアルの会場で行う試験のように試験官によってモニタリングされている。これによりオンライン受検であっても不正行為が行われるリスクを排除する。本人認証を重視する企業は、このようなオンライン会場を含めたテストセンター方式を利用する傾向があるという。

 また、近年の適性検査は受検者への負荷を減らす機能も取り入れている。適性検査には大きく分けて「能力検査」と「性格検査」があるが、「能力検査」において、設問ごとに受検者のレベルを測定し、受検者のレベルに合った設問を出題する機能だ。視力検査のように、簡単すぎず難しすぎない設問が提示され続けることで、受検者の負担を軽減しながら迅速・正確に能力を判断できる。

 また適性検査とは少し異なるが、採用シーンに生成AI(人工知能)を活用するサービスも増えてきた。AIが動画で候補者の面接し、パーソナリティーを診断するといったものだ。ただしこれらのサービスは登場したばかりの段階であり、今後実績を積み重ねることで効果が実証されていくものと考えられる。

 仁田氏によれば、海外では候補者のSNSを分析することでパーソナリティーを可視化する取り組みも実験的に進められているという。しかしこうしたサービスを導入するには問題もある。SNSはインターネットに公開されている情報だが、個人情報の取り扱いという観点で懸念があるからだ。また、そのようなサービスを逆手にとって「就職活動用のSNSアカウントを作る」といった偽装行為が横行する可能性もあり、効果のほどは未知数と言えそうだ。

適性検査の選定ポイントは?

 今後、適性検査を導入したい、あるいは今使っている適性検査を見直したいといった場合、どのような観点でサービスを選べばいいのか。

採用したい人材を明確にする

 「まずは、自社が採用したい人材の特徴や必要な要素をはっきりさせておくことが大切です。その上で、求める人材像に合致した特徴を測定できそうな適性検査を選ぶとよいでしょう。また、自社の用途に合った機能があるかどうかも重要です。採用の初期スクリーニングだけであれば適性検査の結果のみで事足りる場合もありますが、面接や入社後の育成で活用したい場合は、用途に合わせた詳細な報告書や情報が提供されるサービスを選ぶ必要があるでしょう。自社の具体的な活用イメージに合致した仕様の製品を選択することがポイントです」(仁田氏)

α係数などで信頼性を検証

 適性検査の品質を確認することも大切だ。適性検査の品質を測る観点には「信頼性」や「妥当性」がある。信頼性は検査の一貫性や安定性を意味する。信頼性を測る指標の一つが「α係数」だ。α係数は「最低0.7以上、できれば0.8を超えることが望ましい」と仁田氏は言う。なおα係数の公開・非公開はサービスによって異なるが、Webなどで公開されていない場合はサービス事業者に問い合わせてみるといいだろう。

トライアルで妥当性を検証

 適性検査を選ぶもう一つの観点「妥当性」は、自社の実施目的に沿った適切な情報が得られるかという考え方だ。妥当性を検証するにはトライアルを利用するのが早い。適性検査の結果とトライアル受検者の特徴を照らして、「結果が妥当か」を確認できる。また、導入後にある程度データが蓄積されてきたタイミングで自社データを用いた分析も推奨される。自社のハイパフォーマー分析などを通じて、自社で確認すべきポイント、自社における適性検査の妥当性を確認できるだろう。

検証・改善が行われているか確認

 また、検査の品質が定期的に検証されているかどうかもチェックしたい。例えばSPIでは、企業から受検者の評価情報の提供を受け、それを分析することで、検査が適切に機能しているかを確認するといった検証を継続的に実施している。そのような検証・改善が行われている適性検査ならば信頼できるだろう。

実施形態が自社に合うか

 実施形態も確認事項の一つだ。Webのテストか、最近では少ないが紙のテストか。紙のテストなら試験会場を自社で準備する必要がある。Webテストなら会場型かオンライン型かで選択肢が分かれる。オンライン型の場合は、本人確認や不正防止策がきちんと採られているかどうかを確認する必要があるだろう。

 なお、適性検査を初めて導入する場合は、自社にとってどのような検査が適しているのか、選定基準を決めることすら困難に思えるかもしれない。そのような企業に対して相談に乗ってくれるか、サポートが充実しているかといった観点も、サービス選定基準の一つといえるだろう。

適性検査を基にマネジメント 採用活動以外での活用も進む

 近年、適性検査はキャリア支援に有用なツールとして捉えられるようになってきた。ビジネス環境の変化が激しい中、変化に対応する柔軟性や適応力が従業員に求められている。そのため企業は従業員に対して、自律的にキャリアをとらえてほしいと考えており、従業員個人も、キャリアは自分で作っていきたいという価値観を持つ人が増えている。

 このような状況下で、適性検査の情報が役に立つ。従業員は適性検査の結果から自分の特性や傾向を知り、どの分野に適性があるか、どのようなスキルを伸ばすべきかを考察できるからだ。そして自分の強みを生かしたり、逆に克服すべき課題に対するアクションプランを立てたりもできる。このように適性検査は、従業員の自己理解促進と、それに基づく行動計画の一環として有効に機能している。

 採用候補者に対してではなく、入社後の従業員向けに適性検査を活用しようという動きもある。従業員への適性検査の活用方法には、「上司のメンバーマネジメント支援」「従業員の自己理解・キャリア自律の促進」「データを活用した人事施策の改善」などがある。

 「上司のメンバーマネジメント支援」とは、例えば上司から個々の部下への声かけを、適性検査の結果を踏まえて実施するといったことだ。同じ仕事を与えても、人によって動機となるポイントは異なる。「専門性を高められる」が動機になる人もいれば、「周りに賞賛される」が動機になる人もいる。上司は適性検査から分かる部下の傾向を理解し、一人一人の動機のポイントに合わせて声かけすることで、部下の意欲やパフォーマンスを最大限引き出すことが可能になる。その他、部下の適性や価値観を踏まえての業務アサインなども行われている。

 適性検査のこのような使い方は、近年注目されている「人的資本経営」の一環とも言えるだろう。従業員の能力、スキル、経験などの人的資本を最大限に活用し、育成・管理・適正配置することが、組織全体の競争力強化につながる。そのように認識する企業が、採用の場面だけでなく入社後にも適性検査の情報を活用している。

 さらに一歩進んで、HRアナリティクス、ピープル・アナリティクスなど、「人事データ分析」に適性検査データを使おうという取り組みも見られるようになってきた。人事データ分析においては、データ数の少ないことやデータが構造化されていないことが分析の課題となっていた。しかし、適性検査のデータは構造化されており、結果の差異から必要な人材像が明確になるなど、分析に活用しやすい。HRアナリティクスを推進している企業にとっては貴重なデータ源になり得る。

 仁田氏は適性検査を使った人事データの分析の注意点を次のように語る。

 「適性検査の情報を活用して、社内で活躍する人材に必要な要件を抽出、分析し、その分析結果を採用に生かすことは大切です。しかし、自社の求める人材の要件と、適性検査の結果にギャップがあったとしても、その採用候補者が自社に合わないと決めつける必要はありません。個人の持つスキルや経験、意識的な行動改善、会社側の教育や丁寧なサポートによって、ギャップを克服できる可能性があるからです。適性検査の情報を面接など、その他の情報とも組み合わせることで、精度の高い意思決定に最大限活用できるのではないか、と考えています」

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