仕事道具であるPCのユーザー体験が悪いと従業員の不満が集まりやすいものです。業務PCの選定ポイント、特に複数台購入時のポイントについて、アンチパターンを含めたお話をします。
「IT百物語蒐集家」としてITかいわいについてnoteを更新する久松氏が、情シス部長を2社で担当した経験を基に、情シスに関する由無し事を言語化します。
某大学学生団体のアカウントが「X」(旧Twitter)で、「就活では『Windows』のPCは不利。処理が遅く画質が悪い。『Mac』を買いましょう」という旨の投稿をし、炎上しました。OSとPCのスペックは無関係です。しかし、仕事道具であるPCのユーザー体験が悪いと不満が集まりやすいというのは、情シスの皆さんにも経験があるのではないでしょうか。
今回は業務PCの選定ポイント、特に複数台購入時のポイントについて、アンチパターンを含めたお話をしていきます。
早速各ポイントを見ていきます。
最低限避けなければならないのは、「何かしらのトラブルがまとまって発生し、業務が止まってしまう」ことです。トラブルの原因になりやすい項目ごとに整理します。
まずは冒頭でも話題になったOSについてのお話です。導入時の判断ポイントは下記になるでしょう。
エンジニアやデザイナーは開発環境などの都合でMacしか選べない場合があるでしょう。経理部門などであればWindowsしか対応していないソフトウェアもあります。
また、上場や監査の都合で資産管理システムおよびサードパーティー製ウイルス対策ソフトを導入するときにOSが制限されることがあります。幾つかの資産管理システムはWindows、Macの両方に対応しています。しかし、Macでは全ての情報を取得できなかったり機能しないものがあったりするため、監査法人や内部監査室に確認が必要です。
Macに対応していても、OSのメジャーバージョンアップやマイナーバージョンアップに対応するのに時間がかかるものもあります。対応するまでユーザーにアップデートを禁止する必要があるため注意が必要です。
従業員の慣れ具合も重要です。過去に経験したのですが、営業職の方から「触ったことがないけども、格好いいのでMacを使いたい」というリクエストされたことがあります。少し稼働中の実機を見せましたが、電源の入れ方やファイルアクセスも怪しかったので教育コストを鑑みて丁重にお断りしました。
また、Windowsの場合、安さに釣られて「Home」のエディションを購入する企業があります。「Active Directory」の管理外になり、管理コストが上がるので避けましょう。
利用用途によってスペックを変更するのも一案でしょう。
コロナ禍当初、オンラインミーティングが一気に拡がった際、PCのスペックが足かせになりました。現在のバージョンは改良されましたが、以前の「Microsoft Teams」などはCPU消費が激しく、性能が劣るPCだとカメラをオンにした状態でメモアプリにタイピングできないことがありました。「Amazon Chime」も同様に要求スペックに厳しいものがありました。
「Zoom」や「Google Meet」は動作環境に寛容でしたが、バーチャル背景に一定のCPU要求がありました。こうしたスペックの縛りを理由にカメラオフをするスタッフが多々見られました。個人的な見解ですが、カメラオフが状態化したチームは不都合な報告を察知しにくく、業務が炎上しやすい傾向にあります。
また、WindowsはCPUの世代が「Windows 11」に対応しているかどうかがキーになります。将来のOSの入れ替えなどを踏まえて選定しましょう。
MacであればApple一択ですが、Windowsであれば幾つもの選択肢があります。
新製品は予期せぬバグが予想されます。Appleは「M1」や「M2」の初期が該当するように、動作しないアプリケーションがあります。いずれの場合も発表されてすぐに飛びつくのではなく、様子見するのが賢明です。
購入の際はモデル名をWebやXで検索して風評を集めることもお勧めします。私も以前失敗したのですが、タブレット型のタッチパネル液晶を採用したWindowsのPCを購入したところゴーストタッチに悩まされました。どうしようもなかったためにタッチパネルを無効化し、キーボードとマウスを持ち歩かねばならなくなったという苦い経験があります。
特にコロナ禍は、半導体不足とテレワークによるPCの急激な需要拡大から、納期が非常に遅れました。納期を優先するあまり、「手に入れることが可能なモデルをバラバラに集める」という判断をした企業もありました。当然その後のメンテナンスコストは上がります。可能な限り計画的に発注し、予期せぬ納期遅延に備えることが望ましいでしょう。
入れ替えスパンをどの程度にするかという意思決定をして、財務経理部・経営層と合意しておくことをお勧めしています。
ノートPCなどの場合、バッテリーのへたりや持ち運びによるダメージなどを踏まえると、予算に余裕があれば2〜3年で入れ替えたいところです。CPUの世代が新しいものであり、当面のOSバージョンアップに応えられるような状況であれば4年も狙えます。
過去に「Macであれば高級なので10年使える」という経営者にお会いしましたが、ハードウェアの限界やOSなどのEOL(End Of Life)が見えてきます。業務を中断しつつPCの機嫌を見ていくのも業務効率化の叫ばれる昨今ではナンセンスなので、説得しましょう。
リースなどではなく購入を選択している企業の場合、従業員の退職や、非正規社員の入場に合わせて何年間も使い回していくところがあります。OSのEOLなども見据えて選択する必要があります。
財務経理部と相談をしましょう。リースの方が好まれる場合もありますし、10万円以下のPCを消耗品として購入したい場合もあります。
リースは見積もりの際、前述した入れ替えスパンが重要となります。予定よりも延長すると割高になりますので注意が必要です。
購入は、予期せず長期でPCを使い続ける場合があります。計算機の部分は問題ないものの、キーボードなどが保証終了後に破損することがあります。モデルによっては各パーツを比較的容易に入れ替えられることから、部品を取る用途で倉庫にストックしておく想定もしておく必要があります。
見積もりでは、購入であってもリースであってもボリュームディスカウントが期待できるため意識しましょう。
レアケースではありますが、取引先がPCメーカーに関連しており、オフラインで訪問する際に当該メーカーでないと嫌がられるケースがあります。場合によっては取引に悪影響が起きかねないため、注意しましょう。
個人のPCとは違い、複数台購入となると数多くのキーポイントが存在しています。
ここまでのお話でPCの選定はある程度固まってきたかと思います。リースや購入に合わせてセットアップのアウトソーシングをすることも合わせて検討しましょう。経営層とのやり取りのポイントについても言及していますので是非ご一読ください。
エンジニアリングマネージメントの社長兼「流しのEM」。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学で大学教員を目指した後、ワーキングプアを経て、ネットマーケティングで情シス部長を担当し上場を経験。その後レバレジーズで開発部長やレバテックの技術顧問を担当後、LIGでフィリピン・ベトナム開発拠点EMやPjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを行う。
2022年にエンジニアリングマネージメントを設立し、スタートアップやベンチャー、老舗製造業でITエンジニア採用や研修、評価給与制度作成、ブランディングといった組織改善コンサルの他、セミナーなども開催する。
Twitter : @makaibito
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