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Dynamics 365が値上げ 新価格とMicrosoftの思惑

MicrosoftはDynamics 365の価格を2024年10月1日から引き上げると発表した日本での新価格や、Microsoftが値上げを実施する背景を解説する。

» 2024年05月21日 07時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]
CIO Dive

 Microsoftは2024年4月8日(現地時間、以下同)の週、「Dynamics 365」の価格を2024年10月1日から引き上げると発表した(注1)。

 「Microsoft Teams」(以下、Teams)が「Microsoft 365」「Office 365」から分離し、新価格が発表されたことは話題となったが、同じタイミングでDynamics 365も値上げされている。

 日本での新価格や、Microsoftが値上げを実施する背景を解説する。

値上げした新価格とMicrosoftの思惑

 Microsoftはブログ投稿で、値上幅について次のように述べた(注2)。

 「値上げは販売や顧客サービス、財務、サプライチェーン管理、人事、その他のDynamics 365ERPのおよびCRMソリューションに影響し、平均11%のコスト増になる」

 以下は価格が改定される製品のリストだ(出典:日本マイクロソフトの公式Web)。

製品 2024年10月1日までの価格 2024年10月1日以降の価格
Microsoft Dynamics 365 Sales Enterprise $95 $105
Microsoft Dynamics 365 Sales デバイス $145 $160
Microsoft Dynamics 365 Sales Premium $135 $150
Microsoft Relationship Sales 3 $162 $177
Microsoft Dynamics 365 Customer Service Enterprise $95 $105
Microsoft Dynamics 365 Customer Service デバイス $145 $160
Microsoft Dynamics 365 Field Service $95 $105
Microsoft Dynamics 365 Field Service デバイス $145 $160
Microsoft Dynamics 365 Finance $180 $210
Microsoft Dynamics 365 Supply Chain Management $180 $210
Microsoft Dynamics 365 Commerce $180 $210
Microsoft Dynamics 365 Human Resources $120 $135
Microsoft Dynamics 365 Project Operations $120 $135
Microsoft Dynamics 365 Operations - デバイス $75 $85

 Microsoftは「Microsoft Copilot」(以下、Copilot)を生成AI戦略の中心に位置付けており、Dynamics 365と「Microsoft 365」のエコシステムにチャットbotアシスタントを組み込んでいる。

 Microsoftは、Copilotを基盤とした生成AI機能の幅広いポートフォリオを着実に構築してきた。このアシスタントは、Microsoft 365の一般的な生産性向上ツールから、機能別ソリューションのDynamics 365まで、同社のソリューション全体に展開されている。

 調査企業であるForresterのケイト・レジェット氏(バイスプレジデント兼プリンシパルアナリスト)は、「今回の値上げは、企業向け製品でCopilotを実行するためのコストに起因する。これらの製品がDynamics 365のユーザーにもたらすコスト削減と効果的な活用に関する価値は、値上げを正当化するものだ」

 Microsoftは2024年4月16日の電子メールで、この発表に関するさらなるコメントを控えると述べた。

 Microsoftは2023年2月に財務、営業、顧客サービス向けにCopilotを展開し(注3)、同年9月にはMicrosoft 365でAIアシスタントを一般提供した(注4)。ブランディングの一環として、「Windows 11」を搭載したPCと「Surface」シリーズにはCopilotキーが搭載される(注5)。

 ツールが普及するにつれ、Microsoftとハイパースケーラーの競合企業は大規模なデータセンター構築に資金を注ぎ込んでいる。AIに最適化されたシリコンハードウェアや、大規模な言語モデルのワークロードを実行するために設計されたGPUサーバを追加し、この投資は必然的にコストを押し上げる。

 調査企業であるGartnerのジェイソン・ウォン氏(バイスプレジデント兼アナリスト)は「これは、データセンターと生成モデルに関連する消費電力を回収するための一つの方法だ」と述べた。

 コストはAIモデルのトレーニングだけにとどまらない。組織がCopilotの機能を活用する際、これらのワークロードは「Microsoft Azure」(以下、Azure)で実行される。

 「これらのビジネスアプリケーションを実行するにはコストがかかり、今回の値上げは追加のコンピューティングの一部をカバーするためかもしれない」(ウォン氏)

 MicrosoftがコラボレーションツールであるTeamsをMicrosoft 365から分離したのはわずか2週間前で(注6)、Dynamics 365の価格設定の発表と重なった。この動きは、同社のソフトウェアライセンスに対する規制当局の監視の強化や、欧州連合(EU)によるクラウド請求の複雑さに関する広範な懸念を促した。

 「企業顧客にとって、Dynamics 365は彼らが対処しなければならない請求の一部に過ぎない。他には、Azureのコンピュートやクラウドストレージ、Microsoft 365や『Power Platform』のビジネスインテリジェンス、Microsoftのサポートなどもある。顧客にとって、これらのサービスのコストを理解したり予測したりするのは難しいかもしれない」(ウォン氏)

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