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SAP ERPのカスタム盛りデータベースをどうS/4HANAへ移行するのが正解?【移行ベンダーが回答】

S/4HANAへの移行においてデータの取り扱いは重要な要素の一つだ。S/4HANAへの移行に携わるベンダーへのQ&Aから、S/4HANAデータ移行のあるべき姿が分かる。

» 2024年05月27日 07時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

 「SAP ECC」から「SAP S/4HANA」(以下、S/4HANA)への移行において、旧システムから新システムへのデータ移行をどのように処理すればよいのか分からない場合があるだろう。

 S/4HANAへの移行に携わるベンダーへのQ&Aから、S/4HANAデータのあるべき姿が分かる。

S/4HANAデータ移行のあるべき姿を移行ベンダーが示す

 データ移行の問題を正しく理解することは非常に重要だ。古くなったデータや不正確なデータ、冗長なデータを新システムに移行すると、S/4HANAの実装に重大なリスクをもたらす可能性がある。

 旧来のSAPシステムからS/4HANAへの移行の成功は、SAPが「クリーンコア」と呼ぶ、大規模なカスタマイズを必要としない簡素化されたシステムの確立にかかっている。これによって、AIやアナリティクスの新機能をはじめとしたS/4HANAのイノベーションの活用できる。

 しかし、移行サービスを提供するXmateriaのベン・マクグレイル氏(マネージング・ディレクター)は、「SAPの環境には通常、さまざまな種類の大量のデータが含まれているため、顧客はデータ移行の課題に直面する可能性が高い」と述べる。

 本記事のQ&Aでは、S/4HANAへの移行におけるデータの問題について、マクグレイル氏が説明している。

マクグレイル氏が一問一答

――S/4HANAへの移行時の、データに関連する主な課題とは。

ベン・マクグレイル氏

マクグレイル氏: S/4HANAへの移行で顧客が直面しているデータの課題には2つの要素がある。

 1つ目は移行そのもの、2つ目は新しいクリーンコアに向けたデータの再構築だ。SAPは、スタンダードな手法へ回帰するアプローチを積極的に推進している。これには、クリーンコアのERPのS/4HANAを使用し、SAPの「Business Technology Platform」(BTP)を使用して他のクラウドサービスと連携することが含まれる。つまり、データの保存や使用、管理方法に幾つかの変更が必要だ。

――クリーンコアの定義とは。

マクグレイル氏: SAPは、「多くの顧客が、自ら開発した膨大なカスタムコードに課題を感じている」と述べている。例えば、顧客は20年前のSAPのシステムを大幅にカスタマイズしている。何年もかけてさまざまなコードを追加したり、バッジを付与したり、別のものを構築したりしている。これらのシステムは制御を失っている。

 SAPの長期的な目標が、柔軟性やカスタマイズ性に乏しい定型モデルのようなパブリッククラウドに人々を移行させることであるならば、カスタムコードを排除しなければならない。カスタムコードを排除し、よりシンプルなS/4HANAシステムを構築し、標準的なプロセスに戻すか、カスタマイズされたプロセスをSAPの外部にあるものに置き換えることを、SAPは顧客に促している。顧客がよりシンプルで標準化された方法で作業できるようになれば、パブリッククラウドへの移行も容易だ。

 パブリッククラウドであれば、全ての顧客は「Salesforce」や「HubSpot」などのように、毎月または四半期ごとに新機能にアクセスできる。

――システムをシンプルにするための複雑な要因とは。

マクグレイル氏: システムの簡素化とは、SAPの中にあるデータを減らすことを意味するが、それは同時に、データを異なる環境で管理する必要があることも意味する。

 現在、ある顧客は80〜90%のプロセスをSAPで実行しているかもしれない。しかし、コアを単純化すれば、複数の場所で作業することになる。ハブがあり、エッジの周りには、BTPやクラウドハイパースケーラの接続を介してアクセスする他のさまざまなアプリケーションがある。

 これは、現在のデータの整理方法や管理方法とは異なる戦略だ。顧客がBTPを使用してより標準化され、簡素化されたコアに移行するにつれて、一般的なデータ管理の課題が浮かび上がる。

――典型的なSAPのデータ環境はどの程度複雑か。

マクグレイル氏: SAPの財務システムのみを運用している顧客は、持っているデータを把握している。データには、顧客やベンダー、支払い、債権、残高、損益に関連するものがある。

 しかし、世界規模で数百のグループ企業を持つ大規模な製造企業のデータ環境は非常に複雑だ。これらのグループ企業の一部は売却されたかもしれないし、一部は閉鎖されたかもしれず、データ環境が非常に巨大だ。それをS/4HANAに移行しようとする場合、何を移行するのか、何を移行しないのか、何がアクティブで何が非アクティブなのかを決定する必要がある。

 複数のSAPシステムを持っていて、それらを一つに統合し、マスターデータを横断的に比較するとデータ品質の課題が発生する。例えば、同じサプライヤーを4つのシステムで15回使用しているうちの一つだけを新しいシステムに取り込みたい場合がある。そのような複雑なケースではビッグデータに関連する課題があるだろう。

――SAPアプリケーションでAIが普及するにつれて、データ品質の管理は、どの程度重要になるか。

マクグレイル氏: AIであれアナリティクスであれ、基礎となるデータが間違っていたり不完全であったりすると、得られるアウトプットが影響を受ける。

 クリーンコアは、データの品質を高めるのではなく、システムの使い方の簡素化を目的としている。SAP ECCからS/4HANAへの移行は、データをきれいにする一世一代のチャンスだ。システムでそれを実施するのは非常に難しい。人々は引っ越しの例えを使いたがるが、それは少し安直だ。一方で、引っ越しを片付けをする良い機会だと捉えられる。一度引っ越しを終えると、数年後までそれらのデータを見る機会はないだろう。

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