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「優秀なIT人材はこう探す」 人材確保に成功した3社がこっそり教える採用戦略

労働人口の減少やビジネスのデジタル化などによる影響で、多くの企業がIT人材不足に苦しんでいる。IT人材の採用、育成はどのように取り組むべきか。サイバーセキュリティクラウド、pluszero、SHIFT、レバテックによる記者向け勉強会が開催された。

» 2024年09月06日 10時00分 公開
[指田昌夫キーマンズネット]

 労働人口の減少やビジネスのデジタル化などによる影響で、多くの企業がIT人材不足に苦しんでいる。求人当たりの採用倍率は10〜12倍とも言われ、企業が求めるIT人材の数に対して求職者は少なく、人材の取り合いとなっている状況だ。

 IT人材の採用、育成はどのように取り組むべきか。そのヒントを共有するため、2024年7月にサイバーセキュリティクラウド、pluszero、SHIFT、レバテックによる記者向け勉強会が開催された。人材確保に成功している3社の採用戦略を解説する。

会社ぐるみで学び、共有することでIT人材を育てる

サイバーセキュリティクラウド 下村 岳氏

 最初に、サイバーセキュリティクラウドの下村 岳氏(人事部部長)が、自社のIT人材教育の取り組みを中心に説明した。

 サイバーセキュリティクラウドは、2010年の創業以来、Webセキュリティ領域に特化した事業をグローバルに展開している。創業以来毎年2桁成長(年30%以上の成長)を続け、2023年12月期の売上高は30億6000万円、2020年に東証マザーズ市場(現・東証グロース市場)に上場している。従業員数は123人だ。

 同社はセキュリティ製品の開発と運用を内製しているため、全従業員の約半数をエンジニアが占めている。「当社はさまざまなセキュリティ製品を開発しているため、外部から、IT人材が豊富だと思われているが、実はまだまだ足りていない。実際、当社のITエンジニアは、採用時に8割以上がセキュリティの未経験者で、入社後に社内で能力開発をしてきた」と下村氏は語る。

 同社のIT人材の能力開発は「会社ぐるみで学び合う」をコンセプトにしている。「成長の主体は従業員本人にある。研修制度を設けることよりも、社員が組織の中で自主的に学べる環境を作り、知識を循環させることを重視している」(下村氏)

サイバーセキュリティクラウドの能力開発のコンセプト(出典:下村氏の講演資料)

 具体的には業務を通じたOJTと、組織内での学習しやすい環境整備、知識の共有に力を入れている。知識の獲得に必要な書籍の購入費用は、1人月間5500円まで会社が補助し、買った書籍は個人所有してもいい。また資格取得も、IPA主催の国家資格、ITベンダーの資格など26種類を支援対象としており、受験や資格維持の費用を補助する。

 また知識や経験を得る機会として、ベンダー主催の海外イベントへの従業員の派遣や、セキュリティの専門家を招いた勉強会の開催なども実施している。

 獲得した知識を社内で共有し、「組織の記憶」として根付かせる施策にも積極的だ。社内ブログやSNS、動画による技術発表会などで、時事のセキュリティニュースの解説など情報共有を行い、その記録を社内ポータルに留めている。こうした施策を繰り返すことで、全社ぐるみで学ぶ態勢を止めないことが、IT人材の成長につながると同社では考えている。

 今後は、知識の活用先となる業務の充実、情報の移転や解釈がしやすい心理的安全性の確保、ナレッジ保存の一元化などが課題だという。「新しい仕事にチャレンジしたいから、新しい知識が必要だという動議付けが必要だと思う。学びたいと思わせる業務をアサインすることがさらに必要になる」と下村氏は語った。

IT人材の採用はアウトソースしたくない

pluszero 野呂 祥氏

 2番目に登壇したpluszeroの野呂 祥氏(執行役員 事業推進部部長兼CxO室)は、同社のIT人材採用の特徴について説明した。

 企業向けにAIやITの企画開発を行うpluszeroは2018年に創業した。創業から4年後の2022年に東証グロース市場に上場、2024年10月期の売上高は11億8000万円を見込んでいる。従業員数は129人(うち正社員95人)、2023年まで野呂氏は人事担当も兼任しており、もう1人の担当者と2人で同社の採用を切り盛りしてきた。

 直近でAI関連事業が急成長している同社では、AI企業のイメージが強い。実際は、システム開発の比率が過半を占めており、AI、システム開発の両方で人材を採用している。

 年間30人以上を採用している同社に入社する人材の応募チャネルは、一般的な求人サイトや人材紹介企業を利用していない点が非常にユニークだ。最も大きいのが「ダイレクトリクルーティング」で、57%と半数以上を占める。次いでインターン経由の新卒採用が20%、従業員による紹介などが続いている。その理由を野呂氏は次のように語る。

 「一般的に、エンジニアの求人倍率は10倍を超えることが分かっていた。その市場で人材紹介企業に頼んだときに、全てのクライアントの人材が充足することは物理的にありえない。これを外部に託して本当にいいのか、社内で真剣に議論した」

 その結果採った手段が、自社で採用のPDCAを回しきって獲得するダイレクトリクルーティングだった。「媒体は12社使っている。特別なことはしていないが、歩留まりを少しでも上げるため、とにかくメールを書いて送り、それを確認して修正し、また送ることを繰り返した」(野呂氏)

求人倍率が高い中、pluszeroたどりついた工夫(出典:野呂氏の講演資料)

 また新卒採用のためのインターン制度も、最大限の効果が出るように工夫している。まず、最低限のスキルをまとめたリストを作り、それをクリアする学生を毎年30〜50人アルバイトとして雇用しており、インターンとして実際の業務に当たらせる。

 「学生にまかせても、最終的に従業員が巻き取れる比較的リスクの低い案件を意識して受注している。案件自体の利益率は低いが、学生にとっては実業務の場が得られ、当社は彼らが就活を始める段階で(従業員にならないかと)声かけができる、Win-Winの関係が築けている」(野呂氏)

 人材が不足する時代、採用や人事の担当者には、従来の人事担当者のスキルとは違った、人材施策の企画やマーケティングのスキルやセンスも必要になっていると、野呂氏は語った。

IT業界への応募を増やすための3つの戦略

SHIFT 中村 悟氏

 3社目は、SHIFTの中村 悟氏(人事本部採用開発グループ採用広報)が、未経験者やシニアなどに対象を広げたIT人材獲得手法を説明した。

 SHIFTは2005年に設立したソフトウェアテストを祖業とするIT企業で、現在はEC支援やITコンサルティングなどDXサービスを拡充させている。東証プライム市場に上場しており、2024年8月期の売上高は1140〜1220億円を見込んでいる。

 IT人材不足が問題となる中、同社は年間10万人の応募があり、2600人以上を採用。従業員数は1万人の大台を超えている。この背景には、自社だけでなく、IT業界全体の人口を増やしたいという思いがある。「日本企業が成長するためにはITの力が不可欠だ。現在のIT人口は、当社の推定で約108万人ほどだが、ITが基幹産業になるためには400万人が必要と考えている。そのためには、業界へのエントリー人口を増やし、逆に他業界への流出を減らさなければいけない」(中村氏)

 そんな同社は、新たな人材源として「未経験」「ベテラン」「地方」の3つの取り組みを強化している。

(出典:中村氏の講演資料)

 まず未経験者に対しては、知識やスキルでなく、ITエンジニアになれる「素養」を図るための独自指標を開発した。「当社の能力開発室が、ITに関する業務プロセスを分解し、どういう素養があれば、社内で活躍できるかを可視化する研究を進めた。その結果作ったのが『CAT検定』だ。IT未経験にこれを受検してもらうことで、2023年度は763人を採用した」(中村氏)

 CAT検定は合格率6%という狭き門だが、IT未経験者でも、IT業界に興味を持つ人に門戸を開くことで採用拡大につながっている。採用後も、自律的に資格を取得し、キャリア、報酬アップにつながる支援制度を設け、意欲のある人がIT人材として活躍できる体制を整備している。

 ベテラン人材の採用にも力を入れる。業界でいち早く70歳定年を導入し、SIerやコンサルティング企業などで、年齢を理由に活躍の場を失った人材の獲得を進める。同社に入社すれば、年齢にかかわらずプロジェクトマネジャー(PM)やアカウントマネジャーなど、経験を生かした役割で働くことができるという。

 「ベテラン人材は、1社で勤め上げて転職経験がない人も多い。いきなり応募を募るのでなく、資料請求やベテラン人材の活躍事例などを案内して、説明会に来ていただくなど、丁寧な採用をしている」(中村氏)

 地方採用も、ベテラン人材と同様に、地方在住というだけで仕事のポジションや報酬に制限がある状況を変えたいという思いから始めている。「仙台、新潟、広島の3箇所に支店を開設した。通常支店は、その地域に取引先が進出するなどが理由で、人材を集めるために作るケースが多いが、当社は、その地域にいる人材を採用することを目的に支店を設けた」

 エンジニアの利点を生かし、仕事はリモートと出勤を組み合わせたハイブリッドなため、地方によるデメリットはない。評価は全国一律なため、地方在住でも年収を下げずに働ける。

 「全国の従業員一人一人に対する絶対評価を、半期に一度実施しており、このために当社の役員は延べ563時間を使っている」と中村氏は、入社した従業員の活躍を支援し、フェアに評価することで定着を目指す同社の仕組みを紹介した。

フリーランスのITエンジニアに注目が集まる

レバテック 小池澪奈氏

 最後は、レバテックの小池澪奈氏(ITソリューション事業部長)が、フリーランスのIT人材活用について、データを交えて紹介した。

 小池氏はまずIT人材不足の現状をデータから説明した。同社の調べでは、IT人材の求人倍率は12倍で、他の業界と比べても高水準だ。特にPMやコンサルティングなど、上流工程を担う人材の不足が顕著だという。企業はIT人材の採用を増やしているが、採用の予算も増加しており、厳しい状況が明らかになっている。

倍率が上がり続けるIT人材の求人(出典:小池氏の講演資料)

 そのなかで、新たにフリーランスのIT人材を採用する動きも出ている。「ミシンメーカーのJUKIは、フリーランスのIT人材を1人採用し、その人を中心にミシンに組み込むソフトウェアの開発組織を新たに立ち上げ、従業員の育成も進めている。またSOMPOホールディングスは、DXに関係する開発を外部のシステム開発会社に依頼しており、スピードの遅さに悩んでいた。そこで内製化を図るためにフリーランス30人の組織を作り、仮説検証(PoC)を社内で回している」(小池氏)

 SOMPOホールディングスの例のように、DXにはスピードが求められるため、必要なときに必要なスキルを得るためのフリーランスの活用は有効な選択肢だ。また、地方自治体などもフリーランス人材に注目している。

 しかしその一方で、雇用契約を正しく結ぶことや、労災の問題など、フリーランスの健全な働き方を守るための制度整備も必要だと、小池氏は言う。小池氏は一般社団法人ITフリーランス支援機構の副理事も務めており、その立場から、政府に対してIT業界とフリーランスの現状を伝え、より良い環境を作っていきたいと話した。

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