メディア

専門家が解説「生成AI、RAG活用の現実的な進め方」

生成AIの活用メリットは大きいが、その分解決すべき課題も多い。企業における生成AI活用の理想的な進め方を専門家が解説する。

» 2024年09月17日 07時00分 公開
[二瓶 朗グラムワークス]

 内閣府は「AIを人が安全に活用できる状態」を意味する「AI Ready」を掲げている。AIをフル活用する社会を目指して考えられたキーワードだ。

 2023年に経団連が発表した『AI活用戦略 ii』では組織がAI Readyになるためには何を考えるべきかが示され、組織の生成AI活用レベルが5段階に分けて説明されている(図1参照)。内田洋行の坂上道年氏(スマートインサイト事業部 プロダクト&サポート部)は「いきなりレベル4やレベル5を目指すのは難しいので、まずはレベル3を目指しましょう」と説明する。レベル3で目指す姿は「AIやデータを活用して業務フローを自動化する準備ができ、戦略的なAI活用を検討できている状態」だ。

図1 生成AI活用の5つのレベルとそれぞれで人やシステムに必要なこと(出典:ウェビナーのキャプチャー)

 本稿では生成AIとRAG(検索拡張生成)の活用を進め、AI Readyな組織に転換する方法について、内田洋行の坂上氏の解説を基に説明する。

「AI Ready」な組織になるためには 求められることと課題

 生成AI活用レベルを上げ、AI Readyな組織になるために必要な要素と課題について、内田洋行がこれまでの実践で分かったことは次の3つだ。

1.生成AIを使って知識とスキルを向上させる

2.生成AIを組織の情報活用の手段として利用する

3.生成AIを利用するだけではなく、組織内の情報を整理することが必要

   ・適切な情報を使わないと良い答えが得られないので、情報整備と検索の仕組みが必要

   ・情報をバラバラに入れても良い答えが得られないので、情報間のひも付けが必要

   ・組織に解がないことを聞いても回答が得られないので、データ整備の再検討が必要

 既に基盤を整えて生成AIサービスを利用している企業では、要約や翻訳、文書作成など生成AIの得意分野は実行できているものの、情報やドキュメント検索などでは期待通りの結果が得られないことが課題として挙がる。また、そもそも生成AIの利用率が上がらないことも課題となりやすい。RAGを利用して生成AIを情報活用に生かしたいと考えている企業では、回答に必要なデータが適切でなかったり不足していたりすることがある他、文書や「Microsoft Excel」(以下、Excel)に含まれるグラフや画像がうまく扱えないという課題を抱えやすい。

 AI活用戦略 iiのレベル3に相当するAI組織になるためには、「人(従業員)」「システム・データ」において、どのようなことが求められるのか。

 従業員に関しては、生成AI活用人材の教育の他、コミュニティーづくりが重要になる。

 AI活用戦略iiでレベル3で求められる姿は「実務へのAI活用が徹底されている」「手順やツールが整備されている」「従業員へのAI教育を進めている」ことだ。これらを実現するには、業務課題を把握して生成AI活用における懸念や期待を現場目線で整理することが重要だ。

 また、課題に合ったツールの選定の他、利用ルールや手順書を整理し、業務内容に即したプロンプト作成例を準備しておくことも必要だ。従業員に対するAI教育では、専門家によるスキル強化研修やAI活用講座などを受講し、定期的なワークショップの開催が重要だという。

 坂上氏は「(組織にAI活用が)定着するまでワークショップを定期的に繰り返すことが非常に大事だ」とコメントする。生成AIの技術進化スピードは非常に速く、その都度フィードバックをする必要があるからだ。

 次に「システム・データ」についてだ。レベル3の組織におけるあるべき姿は「業務フローや事業モデルがデータ化されている」「業務系に加えて分析系のデータ基盤も整理が進んでいる」「領域特性に応じてAIとRPAなどを使い分けている」状態だ。

 これらを実現するためには、業務課題を把握して(生成AIで)利用するデータを整理し、不足しているデータを把握することが重要だ。また、必ずしも生成AIだけで全ての業務をこなせるわけではないので、課題に合ったツールやサービスを併用すること、データ整理することが重要だ。そのためのツールとして有効なのが、RAGやBIツール、全文検索ツール、テキストマイニングツール、RPAなどだ。

生成AI、RAGを活用した2社の事例

 次に、生成AI活用のケーススタディーが説明された。坂上氏は組み立て製造業での生成AI活用の事例を紹介した。

 ある製造系企業では、過去に発生した設備障害や原因について、どこの工場、ラインで発生した現象か。どの部品が原因で、それに対してどう対応したかなどの情報をExcelファイルにまとめている。Excelにまとめられたこれらの情報を生成AIで活用しようとするとき、Excelの不要な列を排除したり、値に列名を付与したりといったファイルの加工が重要になる。そして、RAGで利用しやすいように報告書のデータ加工してベクトル化し、チャンク分けしたベクトル情報と全文検索情報を検索エンジンに登録する。

図2 組み立て製造業での事例(出典:ウェビナーのキャプチャー)

 次に紹介されたのが、RAGの利用事例だ。

 グローバル企業であれば、日本語のドキュメントだけではなく英語や中国語、さまざまな言語のドキュメントをRAGに利用することがある。

 坂上氏によれば、生成AIで利用する上で「多すぎず、少なすぎず」がポイントになるという。この企業では、日本や海外の法令に関するドキュメントや、不具合報告書をRAGのソースとして利用している。適切な量、適切なカテゴライズのドキュメントを利用することが重要だという。他国語データをカテゴライズ化した上でベクトル化し、検索エンジンに取り込むことが事前準備として必要だ。

図3 グローバル企業での事例(出典:ウェビナーのキャプチャー)

 この事例で説明されたように、生成AIの活用プロセスは(1)データ準備、(2)生成AI/RAG活用、(3)ツールを使った高度なデータ分析の順で進めていくといいだろう。

 坂上氏は「新しい価値の創造は単純な1本道ではなく、試行錯誤を伴うことが多い。データが足りないのはよくある話だ。足りないデータを追加したり、加工したりすることは当社でもよくやること。生成AI活用のためには状況変化への対応を繰り返す『適用型アジャイルアプローチ』で進めるのが重要だ」と話す。

 最後に、坂上氏は「当社ではこうした経験やノウハウを生かした生成AI活用の伴奏型支援サービスを提供している。RAGデータの変換やクレンジング、生成AIのインフラ構築、運用支援、生成AI導入後のサポート、オンライントレーニングなど、10種に及ぶサービスを提供している」と自社サービスを紹介し、セミナーを締めた。

本稿は、内田洋行主催のウェビナー「【生成AI活用セミナー】組織をAI Readyにする為の情報整備とは?」の講演内容を基に、編集部で再構成したもの。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。