内製化を支援するローコード/ノーコード開発ツールに関する調査結果を基に、ツール導入による効果を高く評価する企業とそうでない企業の差がどこにあるのかを明らかにする。
年々導入する企業が増えているローコード/ノーコード開発ツール。前編では、キーマンズネットによる「ローコード/ノーコード開発ツールの利用状況に関する調査」(実施期間:2024年10月11〜30日、有効回答件数:187)の結果を基に、内製化の取り組みの「現在地」に迫った。
後編である本稿は、読者に多く利用されているツールやその利用用途、ツールの評価と利用方法の相関を見ていく。
まず、ローコード/ノーコード開発ツールで開発して利用している、または開発予定のアプリやシステムを尋ねたところ、「開発して利用中」が最も多いのは「承認プロセス、タスク管理などの業務プロセスの自動化」(28.6%)だった。「顧客データベース、製品リストなどのデータ入力と管理」(20.6%)、「売上レポート、パフォーマンスレポートなどの作成」(15.1%)、「従業員情報管理、勤怠管理などの人事管理」(12.7%)が続いた(図1)。
「開発中」と「開発予定」を合計すると、「売上レポート、パフォーマンスレポートなどの作成」(33.5%)、「在庫レベルの追跡、発注管理などの在庫管理」(27.7%)、「プロジェクトスケジュール、進捗管理などのプロジェクト管理」(27.7%)、「従業員情報管理、勤怠管理などの人事管理」(27.0%)が上位に挙がった。
過去も業務プロセス自動化に多くの票が集まっていたが、今回の調査ではレポート作成や在庫、発注管理などの、より広い業務に適用が拡大しつつある様子がうかがえる。
今回の調査で読者が利用しているツールとしてはMicrosoftの「Microsoft Power Apps」(19.8%)やサイボウズの「kintone」(16.6%)が多く挙がった。両ツールは他製品に10ポイント以上の差を付けただけでなく、「導入検討中」「利用したことがある」という回答の割合も他製品に比べて高いことから、今後も市場を牽引するとみられる(図2)。
ノーコードツール/ローコード開発ツール導入による効果を尋ねる設問に対して、全体では「期待通りの効果が出ている」(41.1%)と「期待をそれなりに上回る効果が出ている」(13.7%)、「期待を大きく上回る効果が出ている」(2.7%)の合計が57.5%で、過半数が期待通り、あるいは期待以上の結果が得られたと評価した(図3)。
ちなみに、ツール導入効果の評価軸として回答者が最も重要視したのは「開発スピードの向上」(24.7%)で、「業務プロセスの自動化」(19.2%)、「アプリ開発コストの削減」(17.8)が続いた。企業のDX推進の中で重視される「事業部やユーザー主体での開発による内製化の促進」(9.6%)は4位に挙がった。
特徴的だったのは、ツールの導入効果として「期待通り」以上(「期待通り」「期待をそれなりに上回る」「期待を大きく上回る」の合計)を回答した層は、開発作業を主に実施しているのが「事業部門の業務担当者」である割合が最も高く、全体と比べて10ポイント以上高い割合を示したことだ。
ツールの導入効果を「期待通り」以上と評価した層の特徴はこれだけにとどまらない。N数が少ないため、あくまで参考程度だが、ツールの導入効果を低く評価している層(「期待をわずかに下回る効果にとどまっている」「期待を大きく下回る効果にとどまっている」)で開発を担当しているのは「IT部門・情報システム部門の担当者」が最も多かった。「事業部門の業務担当者」が開発を担当している割合は、ツールの導入効果を「期待通り」以上と評価した層と比べてこの層は30ポイント以上低かった。
ローコード/ノーコード開発ツールによる開発作業を主に実施しているのは、開発経験の有無はともかく、コーディングスキルが「ある程度ある」(「開発経験はないが、ある程度スキルがある」「開発経験があり、ある程度スキルがある」の合計)と「全くない」が同じ割合となった。
ツールに対する評価が高い層(「期待通り」「期待をそれなりに上回る」「期待を大きく上回る」の合計)と全体で比較しても「ある程度スキルがある」の割合にはほぼ差が見られなかった。一方、ツールに対する評価が低かった層では過半数が「ある程度スキルがある」人材が開発を担当していた。
今回の調査では、コーディングスキルをあまり持たない担当者が多く開発を担当している企業はローコード/ノーコード開発ツール導入によって期待通り、あるいは期待以上の効果を得られたと評価した割合が高いと言える。
これらの結果をどう考えるべきだろうか。
先ほども触れたように、ツールの導入効果を低く評価した層は、IT・情報システム部門の担当者が最も多く開発を担当している。それに対して、多く開発されているアプリやシステムは「売上レポート、パフォーマンスレポートなどの作成」「在庫レベルの追跡、発注管理などの在庫管理」「プロジェクトスケジュール、進捗管理などのプロジェクト管理」など事業部門が中心となって利用するものが多い。
ツールの導入効果の評価軸としては「開発スピードの向上」「業務プロセスの自動化」「アプリ開発コストの削減」に多くの票が集まっているものの、前提になっているのはやはり業務内容に合ったアプリやシステムであることだろう。
そう考えると、「期待通り」以上と評価した層はIT・情報システム部門の担当者が最も多く開発を担当していたことから、開発スキルの高さよりも、業務をより熟知している人材が開発を担った場合にツール導入の効果が高まりやすいと言えそうだ。
ツールに対する評価が低かった層のN数が少ないため、あくまで参考程度だが、ツールに対する評価が高い層の方が、低い層よりもツールの浸透策として10ポイント以上多く実施していたのは「ベンダーやパートナー企業による研修会の開催」「Webで公開されている情報や動画の共有」「社内ヘルプデスクやサポート窓口の設置」「トレーニング予算の拡大」だった。また、「CoEの設置」も、評価が高い層が約1割選択したのに対して、評価が低い層では選択した企業はなかった。
低く評価する層の方が期待以上の評価とした層よりも多く実施していたのが「ユーザーコミュニティに関する情報共有」「社内でハッカソンイベントを開催」「活用推進のための担当者の設置」だ。
低く評価した層では、コーディングスキルをある程度持つ人がツールを利用している割合が高いため、スキルを全く持たない人や初学者向けの施策が手薄になっている可能性がある。
なお、全体で最も実施されている割合の小さい施策は「ツールによる業務効率化を達成した部署や個人へのインセンティブの提供」(2.2%)だった。なお、この施策については「実施していないが、必要性を感じる」という回答が過半数(51.1%)に及ぶ一方で、「必要ない」という回答も41.3%が選んでおり、他の選択肢と比べても必要性の判断が大きく分かれる施策であるようだ。
前編で見たように、内製化の課題としては「スキルのある人材不足」が最も多くの票を集める一方で、本稿では内製化を支援するローコード/ノーコード開発ツールの導入効果を「期待以上」と評価する層では、コーディングスキルを「全く持っていない」人材、あるいは事業部門の業務担当者が多く開発に携わっていることが分かった。
今後の調査では、企業が求める「スキルのある人材」の「スキル」が具体的にどのようなものであるのかの解像度を上げるとともに、生成AIをはじめとするAIと連携することでローコード/ノーコード開発ツールの利用がどのように変わるのかも見ていきたい。
後編では、ツールに対して寄せられた読者の声から、これからのローコード/ノーコード開発ツールにはRPA、AI連携は必須なのかどうかを探っていきたい。
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