ガートナーが実施した調査で、企業が実施しているデジタルスキル教育に不満を持つ従業員が約半数を占めるという実態が明らかになった。同社が提言する、改善のための2つのポイントとは。
生成AIなどの新興技術を導入する企業が増える中で、従業員のデジタルスキル向上は喫緊の課題だ。ガートナージャパン(以下、ガートナー)は2024年11月18日、日本企業における従業員のデジタルスキル教育に関する調査を基にしたレポートを発表した。
同レポートによると、IT部門を中心に据えてデジタルスキル教育に取り組む企業は多いが、その結果は思わしくない。
なぜ、企業のデジタルスキル教育はうまくいっていないのか。IT部門に負担がかかっているのに、成果が出ない理由とは。ガートナーが提言する、成功させるための2つのポイントと併せて見てみよう。
同調査で従業員のデジタルスキル教育を推進している部門についての設問に対して、最も多かった回答は「IT部門」(65.8%)で、「人事部門」(39.0%)、「DX推進部門」(27.0%)が続いた。2023年調査と同様にIT部門が最多となったが、2024年調査では2023年調査と比べて人事部門やDX推進部門の割合が増えた。
ガートナーの針生恵理氏(ディレクター アナリスト)は、「今回の結果は、『デジタルスキルの教育だからIT部門に任せればよい』と安易に考えている企業が意外と多い状況を示唆している」と指摘する。「IT部門はデジタルテクノロジーについては熟知しているかもしれないが、教育の専門家ではない。人材育成の観点で見ると、IT部門だけで従業員にデジタルスキル教育を行うことが必ずしも正しいとはいえない。これからはビジネス部門に近いところで教育する必要がある」と語る。
同調査では、「自社がどれくらい積極的にデジタルスキル教育に取り組んでいるか」「教育に対する自身の満足度」という2つの設問に対して、7割を超える回答者が「非常に積極的」あるいは「どちらかといえば積極的」と回答した。
一方で、教育に対する満足度に関しては半分程度が「大変不満」「やや不満」と回答した。スキル教育は積極的に取り組んでいる企業が多いものの、満足していない従業員が多いことが明らかになった。
針生氏はこの2つの結果の乖離(かいり)について、「デジタルスキル教育のやり方を確立しないまま進めれば、今後、スキル教育の実施状況と満足度の差がますます開く結果になるだろう。企業は、従業員の教育を戦略的に進める必要がある」と分析する。
必要なデジタルスキルは常に変化するため、従来のようなスキル教育では十分ではない。ガートナーが提言する、スキル教育をうまく進めるためのポイントは次の2点だ。
全員に対して画一的に教育するのではなく、必要な人に必要なスキルをマッピングし、体系化すること」が重要だ。どのようなデジタルスキルが誰に必要で、ビジネス成果や仕事の結果に直結するのか、どのスキルが今重要なのかを考える必要がある。
「スキルを本当に仕事で生かせるようにするためのより実践的な教育」が必要になる。そのためにガートナーが提唱するのが、ビジネスと学習を結び付ける「アジャイル・ラーニング」だ。
アジャイル・ラーニングには「変化するスキルに対して動的に対応できるように学習を短く区切って反復すること」「仕事とスキル学習が乖離しないよう本当に仕事に必要なスキルを優先し、ただ『学ぶ』だけでなく『実践する』ことを重視する」という2点が必要だ。
学んだスキルを仕事で実践することで、教育効果を高められる。実践型の教育を推進する方法としては、アンバサダーやCoE(Center of Excellence)やCoP(Community of Practice:実践コミュニティー)の設置なども効果的だ。
多くの従業員に広く推進したい基本的なスキルを推進するためには、ビジネス部門にアンバサダーを設置することが推奨される。生成AIやローコード開発といった、いきなり全社に導入するのが難しく、仕事の役割ごとに必要になるジョブスキルの場合は、推進役となるCoEやビジネス部門で実践するCoPの方式がより向いている。
「企業は従業員に対し、さまざまな教育の手段を提供するだけでなく、『この会社で自分が成長できる、元気になれる、新しいスキルを獲得してビジネスで活躍できる』といった意識付けすることが最も重要だ。従業員の意識向上には、企業全体が『デジタルスキルをもっとビジネスで使おう』という意欲を高める風土の醸成に取り組むことも大事なポイントだ」(針生氏)
なお、今回発表されたレポートは、ガートナーが企業でITを利用する、あるいはIT導入の決定権がある個人を対象に実施した従業員のITリテラシーとセキュリティ教育への取り組み実態に関する調査(2024年4月実施)結果を基に作成された。
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