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SAP Project System(SAP PS)とは? 基本機能や他SAPシステムとの連携を解説

SAP Project System(SAP PS)はプロジェクト管理ソフトウェアツールだ。本記事では、SAP PSの構造や主な機能を紹介する。

» 2024年12月09日 07時00分 公開
[Rahul Awati, Diann DanielTechTarget]

 「SAP Project System」(SAP PS)は、「SAP ERP」以外のコンポーネントと統合されたプロジェクト管理ソフトウェアツールだ。このツールの活用により、ユーザーはコストや作業内容、リソース、資材などのプロジェクトのあらゆる面や段階を管理および監視できるようになる。また、時間や範囲、予算の制約内でスケジュール通りにプロジェクトを完了させられるようになる。

SAP PSにおける作業分解構造(WBS)でできること

 SAP PSでは全てのプロジェクトは作業分解構造(WBS)を使用してタスクごとに整理されている。WBSはプロジェクトタスクの階層モデルであり、プロジェクトを完了し、目標を達成するために必要な作業を明確にする。

 「WBS要素」と呼ばれる管理可能な単位にプロジェクトを分割することで、SAP PSのWBSは計画や調整、リソースの割り当てを容易にする。また、プロジェクトを促進し、チームメンバー間の連携とコミュニケーションを向上させる。

 WBS要素はタスクまたは部分的なタスクであり、さらに細分化されたワークパッケージ(これ以上細分化できない要素)に分けられる。全てのワークパッケージが特定されるとWBSは完成する。ただし、プロジェクトが進行する中で予期せぬ出来事が発生した場合には、SAP PSでWBSを修正し、編集できる。

 SAP PSを活用することで、プロジェクトマネジャーはフェーズ別やロジック別、オブジェクト別の3つの方法のいずれかでWBSを柔軟に構造化できる。

 どの方法を選択した場合でも、全ての要素が適切に識別されラベル付けされる。WBSは大規模プロジェクトや複雑なプロジェクトに特有の煩雑さを軽減するのに役立つ。

 SAP PSで WBSを作成および編集する複数の方法がある。既存のWBSをコピーして新しいものを作成する場合、SAP PSは次のマスターデータを新しいWBSに自動でコピーする。

  • 組織データ
  • カレンダー
  • 時間単位
  • 作業指標

 標準のWBSをテンプレートとして使用することもできる。この場合、プロジェクトを定義する値もテンプレートからコピーされる。また、既存のWBSの要素を別のWBSに含めることもできる。SAP PSはWBSの各要素に番号を追加するため、複雑なプロジェクトの管理と調整に役立つのだ。

SAP Project Systemで使用される標準的な用語

 次の用語は、SAP PSに関連して一般的に使用されるものだ。

  • WBS: SAP PSにおけるWBSは、プロジェクトとそれに関係する作業を構造化する方法を指す。WBSを使用することで、プロジェクトマネジャーはプロジェクトモデルを作成し、そのモデルを機能的な基盤として活用して作業を計画し、割り当て、さまざまなステップを追跡できる
  • ネットワーク: ネットワークはプロジェクトやプロジェクトタスクの流れを意味する。SAP PSではプロジェクトの全ての構造要素(アクティビティー)とその関係(アクティビティーの時系列的な順序)、相互依存関係をネットワークとして視覚的に表示できる。これによってプロジェクトのスケジュールや日付、リソースの計画、分析、コントロール、モニタリングが容易になる
  • サブネットワーク: サブネットワークは、プロジェクトの一部のみをカバーする小規模なネットワークだ。複数のサブネットワークが同じプロジェクト内の他のサブネットワークにリンクされることもある
  • アクティビティー: SAP PSにおけるアクティビティーは、プロセスのさまざまなコンポーネントを指す。これらには内部処理される要素および外部処理される要素、一般的なコストに関連する要素が含まれる。種類に関係なく各作業には決められた期間や開始日、終了日が設定されており、コストが発生する。また、作業を中断することなく進め、実行するためにはリソースが必要になる
  • マイルストーン: SAP PSにおけるマイルストーンは、プロジェクトのさまざまなフェーズや部門間の移行を指す。マイルストーンの特定により、プロジェクトマネジャーは日付を管理するためのマイルストーントレンド分析やアーンドバリュー分析をしたり、ビジネスプロセスを開始するために特定のイベントをトリガーとして設定したり、請求計画の日付を決定したりできる

SAP Project Systemのその他の主な機能とコンポーネント

 WBS以外にも、SAP PSには次の機能が含まれており、プロジェクトマネジャーによるさまざまなタイプのプロジェクトの計画および実行を支援する。

  • プロジェクトビルダー: これはSAP PSにアクセスするためのユーザーフレンドリーな方法で、画面構成やワークスペース、詳細なプロジェクトの概要を提供する。これらの機能により、プロジェクトマネジャーはプロジェクトを素早く表示および編集できるようになる
  • プロジェクトプランニングボード: プロジェクトプランニングボードは、統合されたプロジェクト処理を可能にし、さまざまなプロジェクトオブジェクトのグラフィックに関する概要を提供し、計画と管理を簡素化する。プランニングボードの外観は、特定の要件に合わせてカスタマイズできる
  • クレーム管理: この機能は、取引先に対するクレームの準備および提出に役立つ。この機能を使用することで、納品の困難や能力のボトルネックによる差異に起因するクレームを適切なタイミングで取引先に提出できるようになる。これによって契約当事者は差異の責任を明確にし、それに応じてフォローアップ活動を開始できるようになる
  • コラボレーションエンジニアリングおよびプロジェクトマネジメント(CEP): これはSAP PSの機能で、プロジェクトオーナーとプロジェクトに関与する外部パートナー間の情報と知識の交換を促進するための機能だ。プロジェクトチームが異なる場所にいる場合や、異なる技術環境が関与するグローバルなプロジェクトを管理する場合、特に役立つ
  • コミットメント管理: プロジェクトの初期段階でコミットメントを入力し、分析できる。これにより、コスト監視プロセスを合理化し、管理会計(CO)でコミットメントを考慮することが可能だ。COは、プロジェクトマネジャーがコスト計画やチェック、管理に関連するタスクを実行できるようにするSAPコンポーネントだ
  • シミュレーション: SAP PSには、プロジェクトマネジャーがプロジェクトのシミュレーションバージョンを使用できる機能が含まれている。これらのバージョンは、運用中のプロジェクトに影響を与えることなく、変更やコスト計算、スケジュール設定をできる。この機能は、特に複雑なプロジェクトを計画する際に役立つ

 SAP PSには、プロジェクトのさまざまな側面を支援する「Fiori」アプリが多数含まれている。これらのアプリにより、以下のような操作が可能だ。

  • ネットワーク内のアクティビティーの処理を確認できる
  • ネットワークアクティビティーとその関係をグラフィカルに表示できる
  • ネットワークアクティビティーのステータスを変更できる
  • プロジェクトのマイルストーンを確認できる
  • WBS要素のステータスを変更できる
  • プロジェクトのスケジュールを表示できる
  • WBS、ネットワーク、またはマイルストーンのマスターデータの詳細を表示できる
  • 実際のコストと計画コストを分析できる

SAPプロジェクトシステムの利点

 プロジェクトには、効率的な実行と、時間通りに予算内での納品を確実にするため、正確な計画と管理が必要だ。プロジェクトの目標を明確にし、プロジェクトに合った組織構造を作成することも重要だ。

 SAP PSを利用すれば、プロジェクトマネジャーやその他のユーザーは、プロジェクトの開始日と終了日を定義し、計画通りに進められる。プロジェクトを個別の要素やアクティビティーに分割することで、参加者がプロジェクトの範囲を正確に理解し、必要なリソースや資金の確保を確認できる。

 また、プロジェクトの構造要素と相互依存関係をグラフィカルに表示できるため、特にスケジュールや日付、リソースの計画・監視・制御に役立つ。さらに、マイルストーンを活用することで、配信タイムラインに関する期待値を明確に設定できる。

 SAP PSには、原価計算と管理、収益比較、キャパシティープランニング、購買依頼、部品表転送といった機能があり、プロジェクトの完了と納品に向けたさまざまな要素を効果的に管理することが可能だ。

 また、ドキュメント管理システムを活用すれば、プロジェクト関連のドキュメント作成や保存が容易になる。非SAPシステムで作成されたドキュメントにもアクセスできるため、プロジェクトチームでの共有や、プロジェクト後の分析、将来のプロジェクト支援に役立つ。

 プロジェクト情報システムを使えば、プロジェクトデータの監視や関係者間での共有が可能だ。この情報は、「SAP Business Information Warehouse」を通じて経営陣と共有でき、管理監督や意思決定をサポートする。

 さらに、過去のプロジェクトデータを参照することで、プロジェクト管理や提供方法を標準化できる。これにより、透明性や説明責任が向上し、より効率的で経済的なプロジェクト運営が可能になる。

他のSAPコンポーネントとの統合

 SAP PSは、他のSAPコンポーネントと緊密に統合されており、プロジェクトに関連するデータのシームレスな共有を実現する。これにより、SAP PSは規模や複雑さを問わず、さまざまなプロジェクトで活用できる。製造プロジェクトにおける調達や、機械・労働力の能力監視も管理可能だ。

 SAP PSの各コンポーネントは相互に統合されており、プロジェクトチームが計画、実行、制御を包括的に実施する環境を提供する。例えば、マイルストーン請求計画をリソース関連請求ドキュメントと統合することで、固定請求やリソース関連請求を効果的に管理できる。

 プロジェクトが開始した後は、範囲内での進行を維持することが重要だ。プロジェクト管理ツールや戦略が、チームの効率的な作業を支援する。また、プロジェクトやプログラム、ポートフォリオ管理はそれぞれ異なる分野であり、その違いと役割を理解することが重要だ。

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