中部電力における市民開発へのチャレンジは、ライセンス管理のアプリケーション(アプリ)をServiceNowで開発できないかという依頼がきっかけとなったという。
これまでBI(Business Intelligence)ツールのライセンス発行や、使用者や使用者数などのライセンスマスタの更新に関する申請内容を「Microsoft Excel」(以下、Excel)に手入力して管理する非効率な運用体制となっていた。それまで同社が利用していた市民開発ツールでは受付者と申請者に電子メールを自動送信ができないという課題もあった。
こうした課題を解決するために、ServiceNowによるアプリケーション開発の検証がスタートした。開発を担当したのは2023年度入社の吉村氏だった。「学生時代の専攻は情報系ではなく、システム開発経験も全くなかった。市民開発でDXの裾野を広げたい。システム開発経験がない私だからこそ、従業員の気持ちが分かるはずという気持ちで、ServiceNowのノーコード/ローコードツールである『App Engine Studio』の検証、習得に取り組んだ」(吉村氏)
App Engine Studioで開発する前に、同氏は次の3つの準備を実施した。
こうした3つの準備のために、同氏はServiceNowによるオンデマンド研修やハンズオン研修への約30時間にわたって参加した。その後、依頼元の従業員のヒアリング結果を基に、先輩従業員の指導を受けつつ約20時間かけてExcelでテーブル設計などを作成したという。
吉村氏は、3つの準備とApp Engine Studioを利用することで、約10時間でアプリ開発を完了させた。しかし、これだけでは市民開発のすそ野を拡大できないと考えられる課題に直面した。
「アプリ開発は1人でもできるが、市民開発アプリやITSMなどを支えるプラットフォームに関してはユーザー情報の管理やグループのロール権限の管理、バージョンやバックアップの管理などが必要だ。ITSMの領域に影響が出ないように市民開発側に制約を設けることが必要になった」(吉村氏)
市民開発のすそ野を拡大するためには、アプリ側からITSMで利用するテーブルを更新したり参照したりできなくするといったルールの策定、ガバナンスの策定が必要になる。プラットフォーム担当者と協調しながら進める重要性を実感したという。
「アプリを作るだけでなく、多くの従業員に使ってもらうための提案や開発をクイックに進めるためのチームの必要性、市民開発CoEの必要性を体感した。現在、3人の新メンバーを加えて市民開発チャレンジをリスタートした」(吉村氏)
ここまでServiceNowの活用による中部電力の「効率化と可視化」「高度化」「市民開発」の取り組みを見てきた。
中部電力はServiceNowにどのような価値を感じているのだろうか。山田氏は、「ユーザーや運用者などの『人』、問い合わせや申請、障害検知などの『こと』、PCやサーバなどの『もの』による『嬉しさ』の実現」を挙げた。
中部電力は今後、ServiceNowに集約された情報をAIが利用する仕組みづくりに取り組む予定だ。
「われわれはまだまだ駆け出しのServiceNowユーザーだが、全てがシームレスにつながる、可視化できる、変革できるという価値をServiceNowに感じている」(山田氏)
山田氏は、「今後は災害時にもServiceNowの活用による可視化や高度化によってさらに早く対応できるようになる。自動化によって手作業を減らし、正確かつ安心に業務を進めるための活動も進めていく。ServiceNowは幅広く、深いケーパビリティを持ったプラットフォームだ。 ユーザーや運用担当者のさらなる『嬉しさ』実現のために、今後も活用を進めていきたい」と語り、講演を締めくくった。
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