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現場がグループウェアに本当に求めているものとは? ユーザーの不満の声【読者調査】グループウェアの利用状況(2025年)/後編

企業の業務を支えるグループウェア。その満足度は年々向上しているものの、導入企業は利便性以上の価値を求めている。

» 2025年06月12日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 前編ではグループウェアの導入率など全体の概況を解説した。では、企業は実際にグループウェアをどのように活用し、何を求めているのか。後編では、「グループウェアの利用状況に関するアンケート」(実施期間:2025年5月14日〜30日、回答数:205件)の結果を基に、満足度の実態とその背景にある課題、日常的に利用している機能などについて詳しく掘り下げていく。

満足度は「大体満足」、その裏にあるグループウェアの運用課題

 グループウェアの利用継続率の高さは、グループウェアへの利用満足度と密接に関係している。今回の調査でも、「満足」(25.9%)と「やや満足」(54.9%)を合わせて全体の80.9%が一定以上の満足を示しており、導入後も利用価値を感じているユーザーが多数派であることが分かる(図1)。

図1:勤務先で利用しているグループウェアの満足度

 この傾向は過去の調査とも一貫しており、2019年5月の満足度65.0%、2020年4月の77.8%という推移からも、年を追うごとに評価が高まっている。少なくとも表層的には「不満の少ないツール」であり続けていることは確かだ。

 だが、これが必ずしもポジティブな評価とは言えない。グループウェアは多くの企業で基幹的なシステムとして長期にわたり使われる傾向があり、使い慣れた操作感や安定性が「変更したくない」「今のままでよい」という保守的な満足感につながっている可能性がある。

 さらに、業務環境や働き方が大きく変化している現在、「現状維持の満足」がイノベーションの停滞につながっていないかどうかも考えるべきだろう。ユーザーが高い不満を示していないからといって、それがツールの最適解であるとは限らない。むしろ、「改善点が見つけにくい」「期待値が更新されない」といった停滞の兆候が、満足という評価の裏に潜んでいる可能性もある。

 満足度の理由として多く挙げられたのは、「インタフェースが分かりやすく、初心者でも扱いやすい」「特別なITスキルがなくても目的を果たせる」といったUI/UXの平易さや親しみやすさだった。また、「多様なアプリがそろっており、ノーコード開発も可能」「機能拡充のスピードが速い」といった柔軟性と機能進化のスピード感も高く評価されている。中には「グループ会社間で共通のグループウェアを導入することでノウハウ共有が促進された」といった声もあり、個別業務の効率化にとどまらず、組織全体の情報連携基盤としての役割が拡大していることが分かる。

 一方で、満足度が高いにもかかわらず、不満の声が多数寄せられた。その背景には、2つの課題があると考えられる。

 一つは、「パッケージ製品ゆえにカスタマイズが難しい」「グループエリアの作成が複雑で、誰でも手軽に扱えない」など、拡張性・柔軟性の不足に対する不満だ。業務に合わせた細やかな設定変更や、個別最適の実現には依然として課題が残るようだ。

 もう一つは、より深刻に捉えられていたのがコスト増への懸念だ。「度重なる値上げで負担が大きい」「今後の運用継続が不安」といった声が目立ち、予算とのバランスに頭を悩ませる担当者は少なくない。特に公共性の高い組織や中小規模の企業にとって、価格改定はシステム再選定の大きな判断要素となり得る。

操作性やUIなど「業務にフィットするか」が重視される傾向に

 グループウェアの利用目的は「スケジュール管理・共有」が82.7%、次いで「社内の情報共有(掲示板・ニュース)」(80.2%)、「ファイル共有・文書管理」(69.8%)、「チャットやメッセージのやりとり」(66.7%)という結果になった(図2)。グループウェアの中核的な役割を担う基本機能が上位に上がる結果となった。

 一方で、チャットやメッセージといった、かつては別カテゴリーに位置していたコラボレーションツールの機能も割合が高い。スケジュールや掲示板といった従来のグループウェアの機能にとどまらず、コミュニケーションやコラボレーションのハブとしての役割が強まりつつある。現場のニーズは便利な機能があることだけでなく、業務の流れを止めず、チーム全体がスムーズにつながることへとシフトしてきているのかもしれない。

 次に、企業がグループウェアに求めるポイントについて尋ねたところ、最も多かったのは「操作性」(61.5%)だった。以下、「セキュリティ・情報保護」(49.1%)、「ユーザーインタフェース」(45.0%)、「導入コスト」(44.4%)、「他システムとの連携性」(43.8%)と続いた(図2)。

図2:勤務先でグループウェアを利用する目的(左) 図3:グループウェアで重視するポイント(右)

 この結果から見えてくるのは、グループウェアの導入が業務効率化のための手段である以上、利用者である従業員にとって扱いやすいことが何よりも重要視されているということだ。どれほど多機能であっても、直感的に使えなければ現場には浸透せず、むしろ業務の足かせになりかねない。そのため、操作性やユーザーインタフェースといった項目が上位に挙がったのは、理にかなっていると言えるだろう。

 また、「セキュリティ・情報保護」や「他システムとの連携性」といった項目が上位に入っていることからも、単独のツールとしてではなく、社内システム全体の一部としてグループウェアを捉えていることが分かる。特にテレワークやクラウド活用が常態化する中で、情報の取り扱いや安全性への関心は着実に高まっている。

 さらに、企業の規模によって重視するポイントに違いがあることにも目を向けたい。従業員数が少ない企業では「導入コスト」や「導入後のサポート」が重視される傾向が強く、限られたリソースの中で無理なく導入、運用できるかどうかが判断基準になっているのだろう。一方で、大企業になるほど「AI機能/AIサービスとの連携性」や「セキュリティ・情報保護」への関心が高く、効率性の追求やリスク管理の高度化に重点が置かれている様子が見て取れる。

 このように、企業の規模や目的によって求められる機能や視点は異なる。今後は、こうした多様なニーズに柔軟に応えられるツール設計が、選ばれる製品の条件になっていくだろう。

グループウェア「使われる機能」と「使われない機能」

 続いて、勤務先で利用しているグループウェアの「利用頻度の高い機能」と「低い機能」について尋ねた。

 利用頻度が高い機能として挙がったのは、「スケジュール」(82.7%)、「メール」(66.0%)、「施設予約」(52.5%)の3つだ。いずれも業務に必要な基本機能であり、日々の業務運用の中で欠かせないツールであることが分かる

 従業員規模による違いにも注目したい。大規模企業では「ファイル共有」や「Web会議」「アンケート」など、社内外を含めた情報共有・収集を重視する傾向が見られた。一方、中堅・中小企業では「掲示板」や「タスク管理」「文書管理」などの機能がよく使われている。企業の規模によって、グループウェアに求める役割や活用スタイルが異なることが見て取れる(図3参照)。

図3:グループウェアの利用頻度の高い機能

 一方で、利用頻度が低い機能としては、「安否確認」(37.0%)、「伝言・電話メモ」(34.0%)、「勤怠管理」(33.3%)が上位に挙がった(図4)。特に「安否確認」と「勤怠管理」は、2020年の前回調査や2019年の前々回調査においても低利用機能として上位にランク入りしており、長期的に見ても定着率が低い機能と言える。

図4:グループウェアの利用頻度の低い機能

 これらの機能が使われにくい理由としては、まず利用シーンが限定的であること、そしてグループウェアとは別に専用のシステムや業務フローで運用されることが多い点が挙げられる。実際、「安否確認」や「勤怠管理」は、汎用(はんよう)的なグループウェアのオプション機能として提供されるケースが多く、導入企業が選択的に利用している実態がある。

 このように、グループウェアの機能は「用意されているか」ではなく、現場で「実際に使われているか」が問われる。ツールの選定や運用方針においては、「自社の業務に本当に必要な機能が、日常業務の中に自然と組み込めるかどうか」が、これまで以上に重要になっていると言えるだろう。

 以上、ここまで見てきた通り、グループウェアは企業における業務の基盤として広く定着し、利用用途やニーズも多様化している。そして今、AIとの連携によって、これまで人の手で担っていた業務が効率化され始めている。こうした機能は単なる便利な追加機能ではなく、働き方そのものを再定義する必要な要素となりつつある。

 今後、生成AIの活用や業務プロセスの自動化が進めば、グループウェアは単なる情報共有ツールではなく、それ以上の期待が集まるだろう。従来の延長線上にはない、新たな価値創出に向けて企業がグループウェアに何を求め、どのように活用していくのか。ベンダーの動向に注視したい。

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