約6割の企業が導入するワークフローツール。だが、現場の声に耳を傾けると「承認ルートが分からない」「紙の運用が残る」など課題が山積していた。
前編では、社内の申請・承認業務におけるワークフローツールの利用実態を探った。調査結果によると、約6割の企業がワークフローツールを活用しており、特に大企業では専用ツールの導入率が高いことが分かった。さらに、2022年の前回調査と比較すると、ここ3年でクラウド型ワークフローツールの需要が急速に高まっていることも分かった。
後編では、2025年に実施した最新アンケート(実施期間:2025年9月1日〜12日、回答件数:224件)から、ワークフローツールを導入している企業の満足度や選定時の重視ポイント、そして現場が抱える課題を深く掘り下げる。
申請業務の効率化を支えるワークフローツール。企業は具体的にどの申請や承認業務に活用しているのか。本調査では、その利用実態とともに、導入の背景にある組織運用上の課題が明らかになった。
勤務先で、ワークフローツールをどのような業務で活用しているかを尋ねたところ、最も多かったのは「稟議・決裁申請」(83.5%)で、次いで「経費精算・出張申請」(74.2%)、「休暇・勤怠申請(有給、残業、在宅勤務など)」(54.4%)、「購買・発注申請(備品、サービスなどの購入)」(53.3%)が続いた(図1)。
従業員数が多い企業では、ワークフローツールの活用範囲はより多様化する傾向も見られた。「教育・研修の受講申請および記録管理」「社内アンケート・意見募集の回収・管理」「プロジェクト申請・変更・完了報告」など、単なる申請手続きにとどまらず、社内情報の蓄積や運用にもワークフローが活用されていることが分かる。
これは、組織が大きくなるにつれ「業務の標準化」や「可視化されたオペレーション」が必要とされるためだ。属人的に運用されてきた情報が、ワークフローという型に落とし込まれることで、ナレッジとしての再利用や部門横断での展開がしやすくなる。
ツール選定時に重視されるポイントとして重視されるのは「操作性・使いやすさ」(79.1%)で、次いで「業務に応じた柔軟なワークフロー設定が可能であること」(67.0%)が続く(図2)。これらはいずれも、現場の使い勝手に直結するポイントであり、実際に運用されることを前提とした現場起点のツール選定が行われていることを示している。
目を向けたいのが「導入コスト」(56.0%)や「セキュリティ対策・アクセス権限の管理機能」(30.2%)といった、一般的に重視されがちな項目よりも使いやすさが優先されている点だ。裏を返せば、ワークフローツールが“導入して終わり”ではなく、全社に浸透して初めて価値を発揮するツールであることの裏付けとも言える。
アンケート回答者に勤務先の申請・承認ワークフローにおける課題をフリーコメント形式で尋ねたところ、現場からは次のような声が寄せられた。中でも特に多くの回答に共通していたのが、「フローの一貫性の欠如」と「承認ルートの煩雑さ」の2つだ。
まず1つ目の課題は、組織内で承認フローが統一されていないことによる混乱だ。
「複数の方式やシステムが混在しており、どのワークフローを使えばいいか分かりにくい」「業務ごとに申請ルートや手順がバラバラで煩雑」「ツールによってUIが異なり、覚えるのに手間がかかる」。こうした声に共通するのは、使う側の視点が欠けた設計による現場の混乱だ。
背景には、「買収によって異なるシステムが混在している」「主管部門ごとに異なるツールを導入しており、3種類のワークフローを使い分けている」といった、組織の事情もあるが、申請・承認業務は従業員が日常的に繰り返し行う業務であるだけに、フローの分断は生産性に直結する。
現場が迷わず操作できる統一的で直感的なワークフローの整備は、単なるIT課題ではなく、企業全体の業務効率と従業員体験に関わる本質的な経営課題と言える。
もう一つ顕著だったのが、承認ルートの複雑さとそれに伴う管理負荷だ。
「承認ルートが毎回異なり、その都度確認が必要」「システムでは対応しきれず、紙運用が残ってしまっている」。これらの声の多くは、組織変更や人事異動といった変化に、ツール側の設定や運用が追い付いていない様子を映し出している。
特に、「人事異動のたびに設定変更が発生する」「組織改編が頻繁で、ルートの見直し工数が膨大」といったコメントからは、ルールがシステムにうまく自動反映されないことによるメンテナンスの手間が大きな課題になっている様子がうかがえる。
中には「誰の承認が必要なのか毎回周囲に聞いている」「手動で承認者を入力しなければならず、どの役職が適切かをマニュアルで調べている」といった、人力に頼った属人的な運用を吐露する声もあった。こうした課題は、業務の柔軟性とルールの標準化の両立という、ワークフローツールが今まさに直面している課題を示している。
3つ目が、レガシーな業務文化やシステムの使いづらさに起因する課題だ。
「過去の申請履歴を探すのに時間がかかる」「システムの操作が直感的でなく、フローの習得に時間がかかる」といった、UX(ユーザー体験)の弱さに関する不満はもちろんのこと、「紙の書類への押印がいまだに主流」「Excelで承認するフローがあり、事前に電話確認が必要」「紙と印鑑へのこだわりが根強く、ペーパーレス化が進まない」といった声も目立った。
ワークフローツールが導入されても、運用が旧態依然としたままでは、効率化の恩恵を十分に享受できない。これは、単なるツールの問題ではなく、業務フローとカルチャーを同時に改善する必要があるということだ。
最後に、ワークフローツールの現場への浸透度を測る一つの指標として、「現在利用中のツールに対する満足度」を調査したところ、「とても満足」(8.2%)、「まあ満足」(59.7%)を合わせた肯定的な評価は63.0%となった(図3)。
「満足」とした回答者にその理由を聞いたところ、共通していたのは操作性や現場へのフィット感への評価だ。「帳票フォーマットが作成できることで申請内容が視覚的に分かりやすく、ユーザーが使いやすい」「現場で設定変更できるため、システム部門の負荷が軽減されている」といったコメントは、現場に寄り添った設計がツール定着の鍵となっていることを示している。
加えて、「APIを通じたアドオンシステムとの連携」「グループ会社間でツールを共用し、ノウハウを共有できる」「異なるシステムをつなぐことで、全社的な業務の一元管理が実現できている」など、他システムとの柔軟な連携性も評価ポイントだ。
「不満足」とした回答者の声に最も多く見られたのは、ワークフローが業務や部門、拠点ごとに分断されていることによる混乱だ。「複数のフローが併存していて、どれを使えばよいか分からない」「システムごとに操作性が異なり、ユーザーが混乱する」「クラウドサービスが乱立し、全体の統一感がない」といった声は、統一された業務設計の欠如が、かえって運用負荷を高めてしまっている現状を浮き彫りにしている。
また、「紙の申請書をWordやExcelに置き換えただけで、実質的には手作業が残っている」「特に総務系では紙ベースの運用が依然として根強く残っている」など、旧来の紙文化から脱却できていない企業も少なくない。ペーパーレス化が進む一方で、ツール導入による真の業務改革に至っていない現場の状況が透けて見える。
「フォームの修正が特定の担当者にしかできない」「組織変更に伴う承認ルートの変更が手動対応で負担が大きい」といった声も聞かれ、機能面での細かな使いづらさが不満の火種となっている。これらは一見ささいな課題に見えるものの、日々繰り返される業務であるがゆえに、現場におけるストレスの蓄積は無視できない。
特に、「組織変更のたびに誰の承認が必要かを確認しなければならない」「承認者を手動で入力するため、毎回マニュアルを参照するのが手間で、自動補完してほしい」といった声は、組織構造の変化とワークフローが連動していないという課題を示している。
企業における申請・承認業務の実態と、それにまつわる課題、そしてワークフローツール活用の現状を前後編にわたって紹介した。
ワークフローツールは、多くの従業員が日々触れる業務の入口であり、そこに生じる摩擦は企業全体の生産性に波及する。だからこそ、一見小さく見える現場の不満が、DXを妨げる最大の要因となり得る。
IT化による業務効率化の波は確実に進んでいるが、まだ道半ばであることもまた、今回の調査から浮かび上がった。ワークフローという業務基盤が、今後どのように進化し、現場の生産性と働きやすさにどう貢献していくのか。その動向を、引き続き注視していきたい。
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