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なぜ、重要インフラが「パスワードなし」で公開されているのか

工場やインフラを支える産業用制御システムのうち約20万台が、現在インターネットからアクセス可能な状態にある。燃料供給や水処理など重要システムを危険にさらす高リスクな脆弱性も確認されている。

» 2025年10月22日 11時00分 公開
[Eric GellerCybersecurity Dive]
Cybersecurity Dive

 工場やインフラ系企業で利用される産業用制御システム(ICS)は、そもそもインターネットに接続する仕様にはなっておらず、接続した場合にはサイバー攻撃に弱いと語られることがある。

 この意見が正しくないと主張するのが、サイバーセキュリティレーティング・プラットフォームを提供するBitsight Technologies(以下、Bitsight)だ。現在のICSはどのような状況に置かれているのだろうか。

なぜ、重要インフラが「パスワードなし」で公開されているのか

 Bitsightは2025年9月25日(現地時間、以下同)、約20万台ものICSがインターネットからアクセスできる状態にあると発表した(注1)。これは古い機器がサポートされないまま放置されているという問題ではなく、脆弱(ぜいじゃく)性を抱えたまま新たに稼働を開始した機器だという。

 同社によると、公開状態にあるICS機器の数は2024年初めで16万台だったが、2024年末には18万台を超えており、13%増加した。同社は2025年末までに20万台を超えると予測した。

 「これらの全てが放置されたレガシーシステムというわけではない。新たに稼働を開始した産業用制御や運用技術(OT)に関連する機器がインターネットに接続されるケースが増えている。これらの多くは、古い通信プロトコルや安全性の低い通信プロトコルを使用しており、認証も最小限しかなく、ネットワーク分離や攻撃対象領域の削減といった基本的なセキュリティ対策がほとんど考慮されていない状況にある」(Bitsightの研究者)

 インターネットにさらされたICS機器はエネルギーや水道、通信、医療、製造などの幅広い分野で運用技術を提供する組織に重大なリスクをもたらす。これまで多くのサイバーセキュリティ専門家が、この問題をレガシー技術の観点から捉えており、放置されたり老朽化したりした産業機器がもたらす危険性として警告してきた。しかし、Bitsightの報告書は、新規に導入された機器であっても同様のリスクを抱えている事実を明らかにした。

 Bitsightによると、インターネットにさらされたOT機器には、運用技術分野で特有の脆弱性が増える傾向にあるという。それはロジックの欠陥やWeb認証の回避が可能になる欠陥、リモートでコードを実行される恐れのある脆弱性などだ。研究者は「これらは特殊なバグではない」と記した。同社は深刻度を示すスコアが最高レベル、かつ容易に悪用できる経路を備えた脆弱性を確認しており、中には燃料インフラやビルの自動化システム、水処理施設、重要な製造システムなどを危険にさらす恐れのある欠陥も含まれていると指摘した。

特定のプロトコルに問題があるのではなかった

 さらに事態を悪化させているのは、特定のOTネットワークプロトコルだけに問題があるのではなかったということだ。同社の調査では、分析対象となった主要な13種類のプロトコルの大半で、インターネットにさらされる機器の数がわずかに増加していることを確認した。

 公開されている機器の数が最も多かったのは米国で8万台、次いでイタリアが7万5000台、スペインが6万3000台だった。同社が調査したプロトコルを使って公開されている機器の大半は米国と欧州に集中していることが分かった。

 Bitsightは特定した機器の一部について、企業の従業員がリモートで管理できるように、意図的にインターネットに接続可能な設定にしている場合もあると認めた。それでも公開状態にある機器の膨大な数を踏まえると、ICS機器とOT資産の管理やセキュリティの在り方に根本的な食い違いがあるのではないかと指摘した。

 Bitsightはセキュリティ面で不十分なインターネット接続機器が、現実世界でどのような被害をもたらす可能性があるのかを示す具体例を挙げた。

 燃料ステーションに設置される「自動タンク計測システム」が数千台もインターネットからアクセス可能な状態になっていることを同社が発見したことは何を意味するのだろうか。これらの装置は燃料の残量の監視や漏れの検知、ポンプリレーや周辺機器の制御に使うものだ。自動タンク計測システムの中にはアクセスにパスワードを必要としないものや、安全性の低いプロトコルでログインできるものも含まれていたという。同社は「最悪の場合、これらの装置が悪用されて燃料供給が遮断されたり、安全上重要なパラメーターを大規模に改ざんされたりする恐れがある」と警告した。

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