約7割の企業に残るレガシーシステム。刷新プロジェクトが進行している企業が直面する課題や、運用現場で実際に起きているトラブル事例に迫る。
レガシーシステムはDX(デジタルトランスフォーメーション)の足かせとなるばかりでなく、さまざまなインシデントの原因にもなる。
キーマンズネットが実施した「レガシーシステムに関する実態調査(2025年)」(実施期間:2025年11月6日〜14日、回答件数:185件)によると、全体の7割、従業員501人超の中堅〜大企業の8割以上が「レガシーシステムが存在する」と回答した。
前編ではレガシーシステムの刷新を阻む「リソース不足」「意識の壁」という2つの壁を紹介した。後編となる本稿ではレガシーシステムの刷新に取り組んでいる企業の課題を深掘りしつつ、レガシーシステムを抱える運用現場で実際に何が起きているのかをアンケート結果から紹介する。
レガシーシステムの刷新状況について、「具体的な検討には至っていない」(16.2%)、「以前、刷新計画を実行、あるいは検討したが、頓挫した」(9.7%)、「刷新する予定はない」(7.6%)のいずれかを選んだ企業は全体の33.5%に上った。
レガシー刷新プロジェクトの課題について、刷新に取り組んでいる企業と、刷新が停滞している企業(「検討に至っていない」「頓挫した」「刷新する予定はない」を選択した回答者の合計)と刷新が完了した企業を比較したところ、ある共通する傾向が見えてきた。「予算」に関する課題を上回るレガシー刷新を阻む“最大の壁”とは何か。
まず刷新に取り組んでいる企業に刷新プロジェクトにおける課題を聞いたところ、「プロジェクトを担うIT人材(PMや技術者)の不足」や「予算の超過」に票が集まった。一方、刷新が停滞している企業では、「予算不足」や「人材不足」に加え、「経営層や事業部門の協力が得られない」といった課題が挙がった。
つまり検討段階では「そもそも予算が取れないこと」が壁となり、進行段階に入ると「予定よりも多くのコストがかかった」ことが課題になる。
刷新を完了した企業からは「プロジェクト遅延」が課題だったとの声が多く挙がった。遅延の要因は複数考えられるが、システムのブラックボックス化やデータ移行の複雑性、移行ツールでは変換できないコードが予想以上に多い、テスト時に予想以上のバグが発覚といった事態の場合は、想定よりも多くの工数が必要になることから、ここでもIT人材不足が影響している可能性が高い。どのフェーズにおいても「人材不足」が共通課題として挙がっており、企業のレガシー刷新を阻む最大の壁といえるだろう。
「IT人材不足」を課題として挙げた回答者を業種別に見ると、「IT製品関連業」(29.2%)が最も高く、次いで「流通・サービス業全般」(11.1%)が続いた。従業員規模別では5001人以上(34.8%)の大企業群と100人以下(33.3%)の小規模企業で課題となるケースが多い。
ITベンダーやSIerを含むIT製品関連業で人材不足が深刻な背景には、ユーザー企業からのレガシーシステム刷新需要が急増する一方、供給できる人材の確保が追い付いていないことがある。特に中堅〜大企業ではクラウド移行やモダナイゼーションといった大規模システム刷新の需要が高まっている。
求められる人材像も変化している。従来のシステムの保守・運用スキルだけでなく、DX戦略の立案から実行までを主導できるPMや、クラウド・AIなどの最新技術に精通した技術者が必要とされるようになった。
IT人材不足は国内全体で深刻な課題だ。経済産業省「IT人材需給に関する調査報告書(2019年3月)」によると、2030年には最大79万人のIT人材が不足すると試算されている(注1)。特にAIやビッグデータといった最新技術を扱う「先端IT人材」の不足が深刻化する見込みで、労働人口の減少やベテラン層の高齢化・引退も相まって、人材不足は深刻化している。
人材や予算の不足、経営や現場からの理解不足などさまざまな課題がある中でも、レガシー刷新の需要は増加傾向にある。企業がレガシーシステムを刷新する目的を聞いたところ、「サポート切れ対応」(44.6%)が最多で、「運用・保守コストの削減(TCO削減)」(32.5%)、「セキュリティリスクの回避・管理強化」(31.3%)、「将来のビジネス成長を見据えた先行投資」(24.1%)が続いた(図1)。
多くの票を集めた選択肢を見ると、既存システムのリスク解消や事業継続性の確保を目的とした「守りのIT」(リスク回避・コスト削減型)が中心だ。最新技術を競争優位性の確立や事業拡大に生かす「攻めのIT」(価値創出・成長投資型)の観点で取り組む企業はまだ少ない。
業種別に見ると、IT製品関連業では「TCO削減」「業務効率化・自動化」「将来のビジネス成長を見据えた先行投資」が多い一方、製造業では「セキュリティリスクの回避・管理強化」「全社での業務プロセスの改善・最適化」を挙げる割合が高かった。
従業員規模別にみると、「将来のビジネス成長を見据えた先行投資」や「AIやデータ活用の実現」といった「攻めのIT」を目的に挙げたのは1001人以上の中堅〜大企業に絞られる。企業規模による温度差も明らかになった。
最後に、フリーコメントに寄せられたレガシー刷新の事例を紹介する。
まず、重大事故につながりかねないトラブル事例だ。「ハードウェアのサポート切れが迫っており、故障が起きないことを祈るしかない」「数十年前のシステムを今でも使っており、サポートもないので改修や更新ができない」など、物理的なシステム停止リスクを伴うケースが多く寄せられた。メーカーサポートが得られず、代替機や部品の流通も減ることで対応難易度が上がり、システム全体の長期停止につながりかねない。
運用面のリスクを指摘する声もあった。「退職した従業員が管理権限を持っていた」「販売システムをメンテナンスできる従業員は1人だけ」「基幹ネットワークと切り離したOT用PCのOSアップデートを行うため、勝手に基幹ネットワークにつないでいたことがあった」など、レガシー運用における「属人化」や「ガバナンス不備」を危惧する声も少なくない。
今回の調査では主にサポート切れのサーバといった長く変更されていないシステムを念頭に置いていたが、作成者が離任した後に残された「Microsoft Excel」の問題に言及するコメントも届いた。「前任者が作成した複雑なExcelを使うたびにエラーが起き、そのたびに長時間かけて修正している。全容が分かったらもっと楽に修正できるだろうが、全容がつかめない」。多くの職場に存在している作り込まれたExcelも、「いつ爆発するか分からない」「解除方法が容易に判明しない」“爆弾”化しているという点ではレガシーシステムと呼べるのかもしれない。
一方、刷新を成功させた企業の声もある。「レガシーシステムはその運用も含めてリプレースに反対する人が必ずいる。その方々に新たなミッションを担っていただくことで納得してもらった」という回答からは、社内の抵抗勢力を巻き込む重要性が見て取れる。前編で多く挙がった「社内の協力が得られない」という課題の解消につながるアプローチだ。
「システム入れ替え時に、ノウハウがなかったので慎重に何度も予行演習をした」という声もあった。自社のノウハウ不足を認識した上で入念な準備と検証を重ね、システム停止やデータ障害のリスクを最小限に抑えた安全な移行を実現した例だ。
レガシー刷新は骨の折れるプロジェクトになりがちで、どの企業も順風満帆に進められたわけではない。課題や失敗を乗り越えながら前に進んでいる。本稿で取り上げた現場の声が、自社プロジェクト推進の一助となれば幸いだ。
(注1)「IT人材需給に関する調査報告書」(経済産業省)
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