不動産分野で新しいサービスを提供するNOT A HOTELは、ナレッジツールにAIを組み合わせて、従業員の自己解決力の向上とビジネスのスピードアップを成功させた。その具体的なノウハウを紹介する。
NOT A HOTELはナレッジツールとAIを組み合わせて、業務の属人化解消を進めている。
本稿では、同社の梶原成親氏(ビジネス・アクセラレーターリード)による講演を基に、社内にナレッジを蓄積して誰もが活用しやすい環境を構築するためのポイントに加えて、社内Wikiやビジネスチャットツールの弱点をAIで克服する方法を紹介する。
本稿はアイティメディア主催のオンラインイベント「変わる情シス」における、梶原氏の講演「人が辞めても困らない職場へ AIでノウハウがたまる仕組み、文化を作る実践術」の内容を基に構成した。
NOT A HOTELは「世界中にあなたの家を」をコンセプトに、自宅や別荘のように資産として保有でき、相互利用可能な物件を年10日単位からシェア購入できるプラットフォームを提供している。
梶原氏は「私たちは圧倒的な建築デザインとビジネスモデルによってつくられるプロダクトを提供している。ソフトウェアエンジニアおよび建築士、シェフ、ソムリエはビジョンの実現を目指す1つのチームだ。IT企業でない当社であってもAI活用を推進できた」と説明した。
続いて、梶原氏は企業によくある5つの問題を挙げた。
他方、理想的な状態を次のように説明した。
梶原氏は「ノウハウおよびナレッジの蓄積のためには、第一にテキスト化が重要だ。そのためには透明性とアクセシビリティーを確保し、企業の情報を1つの場所に集約する必要がある。そして、全従業員でドキュメントをブラッシュアップしていく」と述べた。
このような情報整理を行うためには、「社内Wikiの導入」「ビジネスチャットツールの導入」「AIとの連携」という3つのステップを踏むべきだとした。特に重要なのはAIとの連携で、これによりノウハウとナレッジの蓄積を効率化できるという。
経験や感覚といった暗黙知は属人的で再利用が困難だ。他方で社内Wikiは、その暗黙知を文章や図表、リンクとして構造化し、誰もが読める形で残すことに役立つ。つまり、知識が生きた状態で維持される。
社内Wikiはオフィスドキュメントに比べて更新が容易で、履歴管理も自動化できる。さらに全文検索が可能であり、管理者以外のメンバーでも自由に編集し、コメントできる。こうした社内Wikiがあることで、従業員全員でドキュメントをレビューし、育てる文化が醸成される。
梶原氏は「社内Wikiにはさまざまな種類がある。例えば、ツールごとに望ましい振る舞いをガイドライン化した資料や、チーム内の各作業に関するマニュアルなどだ。新しいメンバーが加入した際、社内Wikiを閲覧することで迅速に業務を把握できる」と述べた。
NOT A HOTELでは、「Notion」を使って当年の目標やサービス紹介、新入社員向けのガイドラインなどをポータル化している。新しく加入したメンバーは社内全体に関する事項をポータルでいつでも確認できる。
ブレークダウンしたマニュアルも用意されており、プロジェクトの進め方や各種のドキュメント、契約中のSaaSの一覧などが整理されている。
「ミーティングテンプレートも用意しており、ミーティングに関連するデータのフォーマット統一に役立っている。また、社内Wikiは顧客サービスの均一化にもつながる。こうした社内Wikiを整備する前は、『Slack』や『Google Drive』『Jira』などに情報が散らばっていたが、当社では社内Wikiに関連する情報をNotionに集約した」と梶原氏は語る。
続いて梶原氏は、チャットツールの特徴として「文字での会話」「話題ごとのチャンネル」「全員が同じ情報に触れること」「公開チャンネルとプライベートチャンネル」「ダイレクトメッセージ」「Web会議機能」「他のクラウドサービスとの接続」といった要素を挙げた。
テキストで問い合わせを行い、テキストで回答し、誰でも閲覧できるようすることで、1回のやりとりが多数の疑問の解決につながる。
梶原氏は、「チャットツールの活用により、日々の雑談や質問、議論、意思決定のプロセスなどの非構造化コミュニケーションが自然と蓄積される。意図的に記録を取らずに、経緯や判断の背景が残るのだ。暗黙知の可視化が進み、過去を参考に現在の問題を解決できるようになる。チャットツールは、検索可能なナレッジベースである」と語った。
ここまで確認してきたように社内Wikiとビジネスチャットツールはビジネスを効率化する強力なツールだが、それぞれ弱点がある。
社内Wikiの弱点は、作成する工数や更新する工数を捻出できないという時間の問題、ボリュームが増えると必要な情報にたどり着けないという検索性および構造化の不備の問題だ。
一方ビジネスチャットツールの弱点は、情報が埋もれやすく、複数のスレッドで議論が分散して情報の発見性が低下することにある。
梶原氏は、こうした弱点を克服するために、AIを活用していると話し、「AIツールは認知負荷を劇的に下げる力を持っている」と強調した。
認知負荷とは、人が同時に処理できる情報量の限界に近づくときに感じる負荷を指す。認知負荷が高くなると、ミスや疲労、情報の抜け落ちが起きる。
認知負荷を生む主な要素としては、「探索的負荷」(情報が散らばっている)、「記憶的負荷」(前提や背景を覚えておく必要がある)、「表出的負荷」(文章化や説明が必要になる)、「思考的負荷」(判断に複数の変数が絡む)がある。
例えば、AIを活用することで「探す」を「聞く」に変えられる。これは探索的負荷の軽減に役立つ。従来はフォルダ内の情報を5分間探していたものが、5秒を使ってAIに聞くだけでよくなるのだ。NOT A HOTELでは、「Google NotebookLM」にマニュアルやソースを追加してAIに質問できる環境を構築している。
このようなAIの活用により、社内Wikiを書く、探す、維持するという負担を大幅に軽減でき、情報の鮮度と使いやすさが両立されて活用率が向上する。ビジネスチャットツールとの関係では、AIが会話の内容を要約してくれるため、チャットが知識の源泉に変わる。
NOT A HOTELでは、AIを活用して議事録メモや「Slack」のログなどのフロー情報を迅速に要約および構造化し、ストック情報化できるようになったという。そして、誰でも自然言語で検索および抽出できる環境がストック情報の再利用性を飛躍的に高めた。
その結果「ストック情報として残るから、テキストとして情報を残そう」という好循環まで生まれているという。
梶原氏は「当社の場合、新しいメンバーほどAIを積極的に活用していた。バックグラウンドにかかわらず誰でも検索機能と同じように使うことができるためだ。まずは使ってみて、使い方もAIに聞くことができる。当社では、担当者に問い合わせを行う前にAIに聞くことをルール化し、自己解決を促している。自己解決力が向上すると待ち時間が減り、仕事のスピードが向上する」と述べた。
ナレッジツールとAIの組み合わせは時短につながるだけでなく、組織に「情報の自立性」をもたらす。その結果、メンバーは自律的に判断できるようになり、ビジネスのスピードが向上する。
ナレッジツールの活用とAI導入を試すことで業務の属人化解消を図る際は、情シス部門の担当者が積極的に仕組みを整えることも重要だという。梶原氏は「これらの仕組みを整える役割を担う情シス担当者はビジネスをスピードアップするアクセラレーターになれる」とした。
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