システムは本当に安定しているのか。それとも、単にこれまで事故が起きていないだけなのか。誰も手を付けられないまま老朽化したシステムと、2027年にサポート終了が迫るWindows Server 2016の移行問題について、読者企業に対応状況を尋ねた。
今回、キーマンズネットではIT現場の第一線で働く読者を対象に、勤務先におけるソリューションの活用状況や課題に関するアンケートを実施した(実施期間:2025年11月26日〜12月24日、有効回答数:408件)。そこで得られた回答を数回に分けて紹介する。第2回のテーマは、レガシーシステムへの対応と「Windows Server 2016」のサポート終了に向けた対応状況だ。
現在の職場のシステムは、本当に「安定している」と言い切れるだろうか。あるいは、単に「まだ重大な事故が起きていないだけ」の薄氷を踏む状態ではないのではないだろうか。
まず、現在のシステムがどの程度安定しているのかを測るため、直近1年間における不具合や障害の発生頻度を尋ねた。
調査によれば、「頻繁に発生している」と答えた割合は2.5%、「たまに発生している」が23.8%だった。これらを合わせると、4社に1社以上の割合(26.3%)で、日常的に業務に支障を来すレベルのトラブルが発生していることになる。さらに「ごくまれに発生している」(25.7%)を含めると、全体の半数を超える51.9%の現場が、この1年間に不測の事態への対応を余儀なくされている。
ここで注目すべきは、14.5%もの回答者が自社のシステムで障害が起きているかどうかを「把握していない」と答えた点だ。システム運用において、可視化(オブザーバビリティ)の重要性が叫ばれているが、今もなお約7社に1社の割合で、自社のシステムの健康状態すらモニタリングできていないというのが現状だ。
これは、監視ツールの不足といった技術的課題以上に、運用を「動いていて当たり前」として放置し、異常を検知する仕組みに投資してこなかった結果とも言える。障害が「起きていない」のではなく、起きていることに「気付けていない」のだとすれば、それはいつ障害を引き起こすか分からない、目に見えないリスクを抱えているのと同じだ。
頻繁に障害が発生している現場では、担当者は日々“火消し”に追われ、本来取り組むべきシステムの改善や自動化、DXに向けた新しいスキルの習得といった将来への投資に時間を割くことができない。この「障害対応という負の連鎖」が、現場の疲弊を加速させ、さらなるミスや障害を誘発する温床となっている。
システムの安定性を損なう大きな要因の一つが、長年使い古された「レガシーシステム」だ。こうした老朽化したシステムへの対応や刷新がどの程度進んでいるのだろうか。
結果は、「既に刷新プロジェクトを実施中」(25.0%)、「要件定義を開始している」(6.9%)となり、具体的なアクションを起こしている企業は全体の約3割にとどまった。これに対し、「情報収集、比較検討の段階」(22.5%)や「検討予定だが、まだ着手していない」(18.1%)といった、いわゆる「足踏み状態」の企業が計40.6%を占める。
問題は、多くの企業がシステムの老朽化という課題を認識しながらも、刷新に踏み出せずにいるということだ。
刷新の検討が情報収集の段階で止まっているケースが多いのは、現在の環境を刷新することに伴う膨大なリスクやコスト、そして現行業務への影響を精査しきれていないためだろう。
さらに深刻なのは、27.5%の回答者が「特に検討していない」と答えたことだ。ITインフラの刷新には、年単位の準備期間と多額の予算、高度な専門的人材が必要となる。何のアクションも起こさずに既存システムを使い続けることは、将来的な保守切れやサイバー攻撃への脆弱(ぜいじゃく)性を放置することになる。この「検討すらしていない」割合の高さは、日本企業に根深く残る「動いているものは触らない」という保守的な文化と、ITを戦略的な投資ではなく単なるコストと見なす傾向が、刷新を阻む強固な障壁となっていることを裏付けている。
なぜ、刷新が必要だと分かっていながらも、企業は動けないのか。
次に刷新における障壁を尋ねたところ、最も多かった回答は「予算の確保」(41.7%)だ。これは単に資金が枯渇しているという話ではない。多くの企業において、IT予算の大部分は既存システムの維持管理に消え、新規の刷新プロジェクトに回せる戦略予算が少ないことを示している。経営層に対し、古いシステムを使い続けることの隠れたコストやリスクを定量的に説明し、刷新のための投資を正当化することの難しさが伺える。
続いて挙げられたのが「社内リソース(人手・スキルなど)の不足」(39.0%)だ。たとえ予算が確保できたとしても、移行プロジェクトをけん引できるスキルを持った人材が社内にいないという問題は、予算不足以上に深刻だ。長年のアウトソーシングにより、自社システムの構造を理解している人間が社内から失われ、技術的な意思決定ができなくなっている企業の姿が透けて見える。
また、20.6%が回答した「初期開発に携わったメンバーがいない」ということも課題にある。これは、かつて職人芸的に構築されたシステムが、ドキュメントも不十分なまま放置され、今や誰も中身を触れない聖域と化している状況を指している。こうしたシステムは、いざ刷新しようにも「どこに影響が出るか分からない」という恐れから、現場の手を縛ることになる。さらに、「移行計画策定の難しさ」(26.7%)や「経営層の理解および意思決定の遅れ」(18.6%)といった回答からは、技術的な難易度以上に、組織内での合意形成や戦略の欠如が、現場の足を引っ張っている実態が浮き彫りになった。
こうしたレガシーシステムにまつわる課題の中で、緊急性の高い問題がWindows Server 2016のサポート終了(2027年1月予定)だ。
準備状況を尋ねたところ、「既に新OSまたは別の環境への移行を完了した」(26.5%)企業は4分の1程度にとどまる。一方で、「対応方針や移行計画を策定中」とする回答が26.0%、「サポート延長(ESUなど)の利用を検討している」が10.3%となり、現在進行形で対応に苦慮している企業が多数派を占める。
注目すべきは、17.4%もの企業が「特に対応を検討していない」と回答した点だ。2027年1月という期限はすぐそこに来ている。サーバの移行は、単にOSを入れ替えるだけの作業ではない。その上で動作するアプリケーションの動作検証や、ミドルウェアのバージョンアップ、ネットワーク設定の変更など、膨大な工数を伴う。この状況で「未検討」を続けることは、サポート切れの無防備なシステムをさらし続けることになる。
また、「サポート延長の利用を検討している」(10.3%)という回答についても、それはあくまで一時的な延命措置にすぎず、コストは高騰し、根本的な解決を先送りにしているだけだ。2027年が近づくにつれ、移行支援を行うITベンダーのエンジニア不足はさらに激化し、いざ着手しようとした時には「どこも受けてくれない」という事態に陥るリスクが高い。
今回のアンケート結果を総括すると、現在のシステム運用現場は、まさに構造的な脆弱(ぜいじゃく)性を抱えていると言える。
過半数の企業で障害が常態化し、14.5%がその実態すら把握できていない不透明さ。刷新の必要性を痛感しながらも、予算と人材の不足によって4割以上の企業が具体的な着手に至れず、検討すらしていない企業も3割近く存在する停滞。そして、Windows Server 2016のサポート終了という明確なデッドラインに対しても、十分な準備が整っていない状況。これらは、「現場の運用の限界」を示している。
この危機を乗り越えるために、今、IT部門と経営層は何をすべきなのか。
第一に、運用の「可視化」と「標準化」を、何よりも優先すべき戦略課題に据えることだ。今回の調査で「把握していない」と答えた層が象徴するように、現状が不透明なままでは、いかなる改善も刷新も成功しない。監視体制を強化し、全ての障害や変更履歴をデータとして蓄積することで、初めて「どこにメスを入れるべきか」という議論ができる。
第二に、IT投資に対する評価基準の抜本的な見直しだ。最大の障壁となった「予算不足」を解消するには、システム維持を「コスト」と捉えるのではなく、ビジネスの安定性を確保するための不可欠な投資だという合意を、経営層と形成しなければならない。古いシステムを使い続けることで発生する隠れた障害対応コストや、機会損失の大きさを、データに基づいて経営に突きつけるべきだ。
そして第三に、人材戦略の再定義だ。社内にリソースがないのであれば、全てを自前で抱え込むのではなく、マネージドサービスの活用や自動化ツールの導入を前提とした、新しい運用の形を模索すべきだろう。同時に、初期開発メンバーがいないというブラックボックス化を防ぐため、徹底したドキュメント管理と、属人化を許さない組織文化の醸成が急務となる。
日本企業が長年続けてきた「その場しのぎの運用」に終止符を打ち、持続可能なデジタル基盤へと刷新することが重要だ。今回のアンケートから得られた408人の現場の声を受け止め、まずは変革への一歩を踏み出すことが重要だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。