入社2年目で月40時間削減 楽天モバイルがAIに任せなかった仕事とは
AIエージェントを使えば、IT運用はどこまで自動化できるのか。楽天モバイルは3つのAIエージェントを運用業務に組み込み、対象作業の所要時間を半減させた。一方で、全てをAIに任せたわけではない。入社2年目のエンジニアが見いだした、AIと人の境界線とは。
開発から運用管理まで、ITのさまざまな領域でAI活用が進んでいる。特に運用業務では、繰り返し発生する作業をAIに任せることで、担当者の負担を大きく減らせると期待されている。
しかし、運用業務には商用環境へ直接影響する作業もある。効率化できるからといって、全てをAIに任せてよいわけではない。AIが出力する情報の信頼性や、問題が起きた場合の責任の所在を考えれば、AIに任せる業務と、人が担う業務をあらかじめ見極める必要がある。
楽天モバイルは、テレコムクラウドの運用業務に3つのAIエージェントを組み込み、対象とした3業務の作業時間を半減させ、月間約40時間を削減したという。このプロジェクトを主導したのは、クラウドに関する知識がほぼない状態で運用部隊に配属された、若松奏汰氏だ。2026年現在、入社2年目のエンジニアとなる。
若松氏が目指したのは、運用業務の全自動化ではなかった。まず取り組んだのは、AIに任せる業務と、あえて人に残す業務を切り分けることだ。月間約40時間の削減につながった線引きとは、どのようなものだったのか。
AIに任せること、人が担うことをどう切り分けたのか
若松氏は、楽天モバイルのクラウドプラットフォーム部 クラウド技術課 Application Platform SREグループに所属し、障害・トラブルチケットへの対応や、プラットフォームの監視・運用、運用自動化スクリプトの開発などを担当している。
同社の運用業務は、「監視」「一次対応」「原因分析」「恒久対応」の4ステップで構成される。若松氏はAIの活用に当たり、一次対応における障害原因の切り分け、原因分析におけるレポート作成、恒久対応における手順書作成の3業務に対象を絞った。
「いずれも重要度の高い業務ですが、同じような作業が繰り返し発生し、その都度かなりの時間を費やしていました」
一方、商用環境へ直接影響する復旧対応の他、正式な原因報告、変更内容のトラッキング、マージリクエスト(MR)の作成、自動化スクリプトの作成などはAIに任せず、引き続き人が責任を持つ業務として残した。
「最初にAIに任せるべき領域と、人の手で行う領域を明確に切り分けたことが、今回の取り組みの核心だと言えます」
3つのAIエージェントをスクリプトで連携
若松氏が作成したAIエージェントは3つある。
1つ目は、障害発生時の原因切り分けをリアルタイムで支援する「障害対応サポートエージェント」だ。2つ目は、根本原因分析(Root Cause Analysis:RCA)レポートのドラフトを自動生成する「原因分析レポート作成エージェント」。3つ目は、運用手順書をHTML形式で自動生成する「手順書作成エージェント」だ。
それぞれが特定のタスクに特化して動作する。各エージェントには、役割や背景、目的、想定するインプットとアウトプットに加え、それぞれ異なるペルソナを定義した。
ただし、3つのエージェントをプロンプトから個別に呼び出していては、操作に手間がかかる。そこで若松氏は、単一のUI(ユーザーインタフェース)からエージェントを順番に実行し、処理を連携させるスクリプトを開発した。
ユーザーが画面から障害チケットの番号を入力すると、AIがチケットの情報を取得し、その内容を基に障害対応のヒントを表示する。チケットの内容や障害対応のヒント、ログなどはユーザーのローカルファイルシステムに保存され、次のエージェントがそれらを読み込んで、原因分析レポートのドラフトや手順書を作成する。作成した情報を社内のナレッジベースへアップロードするところまで、同じUIで進められる。
ダミーの障害チケットを使ったデモでは、3つのAIエージェントがスクリプトを介して連携し、原因の切り分けから原因分析レポート、手順書の作成までを単一のUIで処理する様子が紹介された。
月40時間はどこで生まれた? 最も時間を要した業務
AIエージェントの導入によって、対象とした3業務の所要時間はいずれも半分程度に短縮された。
1日平均60分かかっていた原因分析レポートの作成は30分に、120分かかっていた手順書の作成は60分になった。障害原因の切り分けも、60分から30分に短縮された。1日当たりの削減時間は合計120分で、月20営業日として換算すると、月間約40時間を削減したことになる。
効果は作業時間の短縮だけではない。AIエージェントが障害対応のヒントを提示するため、ユーザーが状況を一から説明したり、その都度プロンプトを作成したりする必要がなくなった。これにより、復旧対応に着手するまでのリードタイムも短縮されたという。
若松氏はこの他、担当者間のスキルの平準化や、学習から実践、ナレッジ化までの高速化も効果として挙げた。
「AIの力を借りることで、私のようにクラウド運用の知識や経験がほとんどない新入社員も、経験豊富なメンバーと同等のタスクを遂行できるようになりました」
AI活用で見えてきた3つの課題
一方、プロジェクトを進める中で、AIを運用業務に活用する際の課題も見えてきた。
1つ目は、AIが生成するアウトプットの信頼性だ。AIの出力が常に正しいとは限らないため、一定の経験や知識を持つエンジニアによる確認が欠かせない。最終的な実行判断を人が担う体制も必要になる。
2つ目は、自社環境へ適合させるためのコストだ。汎用(はんよう)的なAIが示す回答は、一般論としては正しくても、個別の環境には適用できない場合がある。質の高い回答を得るには、自社環境に固有の情報をAIが参照できるように整備する必要があり、相応の時間を要する。
3つ目は、アウトプットの質がインプットの質に左右されることだ。今回開発した仕組みでは、収集したログが整理されているかどうかによって、AIの出力品質が大きく変わることが確認された。
「AIから質の高い回答を得るために、日頃からログを整理する習慣がつき、チーム全体にも良い影響をもたらしていると感じます」
「AI×スクリプト×人」で目指す運用の最適解
現段階のAIは、分析や資料作成を助ける共同作業者であり、提供された情報を基に最終判断を下すのは人だと若松氏は説明する。
「エンジニアとして最も理想的なのは、AIで全ての運用を自動化することですが、現時点では100%の自動化は難しいと言わざるを得ません。その中で、今回のプロジェクトを通じて導き出した最適解が、AI、スクリプト、人で役割を分ける形です」
AIは障害の原因分析やレポート作成を担い、スクリプトは再現性のあるタスクを高速かつ確実に実行する。人は、その結果を確認して意思決定する。それぞれが得意な役割を担うことで、効率と信頼性を両立した運用を目指す。
現在は人がスクリプトを起動しているが、今後は異常検知をトリガーとして、原因分析から手順書作成までのプロセスを半自動化し、運用業務をさらに効率化、高速化する考えだ。
「AIが提示する手順などをエンジニアが判断して実行し、その結果をAIが学習する。このサイクルを実現したいと思います」
今後、半自動化が進めば、人が手を動かす時間はさらに減るだろう。だが、復旧するかどうか、変更するかという判断は残る。楽天モバイルが月間約40時間を削減しながらも人に残したのは、単なる作業ではない。商用環境に影響する判断と、その結果に対する責任だった。
※本稿は「Cloud Operator Days Tokyo 2026」のセッション「知識ほぼゼロでクラウド部配属、しかも運用部隊」で、楽天モバイルの若松奏汰氏が紹介した内容を基に、編集部で再構成したものです。
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