「社長の頭の中」をAIに 経営と現場をつなぐ専用AIとは?
ベテラン社員の退職で、会社に蓄積された経験やノウハウが失われる。そんな中小企業の「知識の属人化」に向き合い、社長の経験や現場の知恵を蓄積する専用AIが登場した。
中小企業では、経営者やベテラン従業員の経験、営業現場で培われた勘所、社内に蓄積された業務ノウハウなどが、個人の頭の中にとどまりやすい。特にベテラン従業員が退職すると、それまで当たり前に共有されていた知識や判断の背景まで失われる可能性がある。
人材育成の面でも課題はある。ハラスメント相談窓口や体系的な従業員研修を自社だけで整備するには、専門人材やコストが必要になる。外部に委託すれば一定の仕組みは整えられるものの、そこで得られた知見が社内に十分蓄積されないケースもある。
生成AIの普及によって、こうした課題を補う可能性は広がっている。一方で、従業員がそれぞれ個別に生成AIを利用するだけでは、そこで交わされた相談や議論、業務上の気付きが会社全体の知識として残りにくい。
「人に蓄積された知恵を、どう会社に残すか」。この課題を出発点として開発されたのが、自社専用AI「Xブレイン」だ。日本コミュニケーションアカデミーとアルファビジネスが共同研究で開発し、中小企業1社に1つのAIとして、経営から現場、従業員教育までを横断して活用することを目指す。
「社長の判断」から「現場の知恵」まで、5つのAIで会社の知を蓄積
Xブレインは、「社長室」「会議室」「営業室」「相談室」「研修室」の5つの機能で構成する。
「社長室」は、経営者が経営判断について対話できるAIとして活用する。「会議室」では、対話測定エンジン「間鏡」によるリアルタイムの書き起こしと議事録の自動生成に対応する。
「営業室」では、従業員ごとの営業哲学や好事例などを蓄積する。個々の営業担当者が持つ経験やノウハウを記録し、組織内で活用できるようにすることを狙う。
「相談室」は、就業規則や1on1データなどを踏まえ、従業員からの相談に対応する。相談終了後にデータを完全に削除する機能にも対応する。
「研修室」では、自社の業務ノウハウを学習できる環境を用意し、社内教育に活用する。
この5機能を1つの仕組みにまとめることで、経営者の判断や会議での議論、営業現場の知恵、従業員の相談、研修での学びを、それぞれ別々に扱うのではなく、企業内の知識として蓄積していくことを目指す。
使うほど自社の経験を蓄積する「育つAI」
Xブレインの特徴の一つが、企業の日常的な活動を通じて自社固有の知識を蓄積していく設計だ。
自社の理念や日報、従業員との対話などを日常的に学習し、経験の蓄積に応じて自らを書き換えていく。開発時に学習させた情報を固定的に利用する一般的な自社AIとは異なり、利用を重ねるほど企業固有の情報が蓄積されていくことを特徴としている。
基盤には、量子力学の測定原理に基づく「エピソードlink」「つながるAI」「インテグラル量子アセスIQA」を採用した。
「エピソードlink」は語りから内面を構造化する技術、「つながるAI」は組織知を抽出・実装し、従業員の退職後も参照できるようにする技術、「インテグラル量子アセスIQA」は人や組織の方向性を数値化する技術として位置付け、それぞれを組み合わせている。
「AIに答えを出させる」のではなく、問いを返す
Xブレインの開発のきっかけは、アルファビジネスの代表取締役、海野均氏の「うちの会社には、これがない。AIでやってあげられないか」という発言だった。
アルファビジネスは、印刷業から全てがオンデマンドの会社への転換を進めており、現在Xブレインを全社導入している。相談室は既に実運用レベルで稼働している。海野氏が経営判断に活用する社長室についてもデータ投入を進めている。
日本コミュニケーションアカデミーの代表取締役、河野克典氏は、Xブレインについて、AIに答えを出させるのではなく、問いを返す存在と説明する。
目指しているのは、AIに会社の意思決定を任せることではない。社長の経験や従業員の声、営業現場で生まれた知恵を日々の業務の中から記録し、個人だけが持っていた経験を、会社として後から参照できる知識へ変えていくことだ。
中小企業にとって、人材の退職や世代交代は避けられない。そのたびに経験やノウハウまで失われないよう、日常の会話や仕事そのものを「会社に残る知」に変えていく。Xブレインは、こうした考え方から中小企業向けの専用AIとして開発された。
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