広域SDN実現のために同プロジェクトが開発するのが、次の3つの領域の基本技術だ。スタートから1年、各領域で成果が目に見えるものになってきた。
広域SDN内のネットワークは異種ネットワークの存在を前提にしなければならない。SDN化されたデータセンターであっても方式は一通りではないし、MPLSやGMPLSなどのルーティング技術を使うパケットトランスポートネットワーク、光コアネットワーク、無線ネットワークといったさまざまなネットワークで適切な情報収集と管理、制御を統一的に行う必要がある。
同プロジェクトでは、ネットワーク管理制御の中核として「ネットワークデータベース」を開発した。これは、広域SDNに参加するネットワークの全リソースを統一的なモデルで記述(仮想化、抽象化)してプールし、要求に応じて最適な組み合わせを導き出して割り当てることを目指すものだ。
このデータベースには、物理ネットワークの構成変更はもちろんのこと、機器障害や帯域の使用率、輻輳(ふくそう)、遅延の程度などの物理現象の全てがほぼリアルタイムに反映される。
図3に状況モニターの一例を示すが、複数ネットワーク、複数レイヤーにまたがる問題が簡単に特定できるところまで開発が進んだ。次年度以降は、データベースの操作により物理状態を変更する技術開発が行われる予定で、実現すれば複数ネットワークの自動構成や障害箇所の自動迂回(うかい)などが現実のものになる。
なお、データベースには「GraphDB」が使われ、それ自体は特殊なものではない。O3プロジェクトではさまざまなアイデアを取り込み、かつ技術をより広汎に利用できるようにするため、領域技術のオープンソース化を目指している。
ネットワークデータベースが、いわばネットワークの「OS」に当たるものとすれば、ネットワーク共通制御や管理技術は「ツール」だ。
具体的には、ネットワーク設計、構築、運用管理を簡単に行うためのソフトウェアモジュールを開発した。現在のところ、パケットトランスポートネットワークと光コアネットワークといった複数レイヤーを連携させるモジュールと、例えばBGPによるルーティングが必須の既存ネットワークをうまく広域SDNに組み込むような複数ネットワークの違いを吸収して連携させるモジュール、既存ネットワークを徐々にSDN化して移行をサポートするための移行管理モジュールの3種が開発された(図4)。この領域には今後も各社の強みを生かしたモジュールが取りそろえられていきそうだ。
以上の2つの技術で制御でき、しかも高い性能と品質を保証するネットワーク装置の開発も同プロジェクトのカバーエリアだ。既存装置の改良や機能追加に加え、汎用(はんよう)的なサーバで基幹ネットワーク系にも対応できるレベルの性能を実現するソフトウェアスイッチやルーターの開発が進められている。
現在までに、10Gbpsフルサポート可能なソフトウェアスイッチ(SDNソフトウェア転送ノード)の実現(2013年にNTTが発表済)、光コアノードのSDN化、10種類以上のサービス品質要求に応じたパケットトランスポートの提供を迅速化する制御技術とドライバ技術、オーバーレイ方式のSDNのエッジスイッチのソフトウェア化が実現した。2015年度にはLTEや5Gも視野に入れた無線ネットワークの仮想化対応が進められる予定だ。
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