ERPパッケージの売りの1つが、カスタマイズなしで使えるということだ。では、実際に中堅・中小企業が導入した場合にどこまでカスタマイズなしで利用可能なのだろうか。
まず、カスタマイズ不要とはいっても、前述のようなマスター設定や、注文書、請求書、納品書のデザイン変更など、導入時に行わねばならない作業は必ずある。ただし、そうした初期の作業をサポートするためのサービスや機能を用意するベンダーが多いことも付け加えておく。
ERPの主な業務機能は、基本的にカスタマイズは不要と考えていいだろう。基幹系システムが取り扱う業務は、管理項目は企業ごとに違ったとしても、その流れについては大きな違いはない。もしパッケージで管理できない項目があったとしても、固有の項目を簡単に追加できる機能を用意するので心配はない。
特に財務会計や人事給与の機能は、大企業であってもノーカスタマイズで使うのが主流だ。なぜならば、これらの業務は頻繁に発生する法律や制度の改正に追随しなければならないからだ。あまりシステムに手を入れすぎてしまうと、改正があるたびにシステム全体の整合性を取る必要がある。そうなると、コストや手間がかかるのはもちろん、法改正への対応に遅れてしまうことにもなりかねない。
一方で、生産管理や販売管理といった自社の競争力に直結する業務については、一般的に個々の企業に特化した機能が求められる。そのため、特にクラウド型ERPの場合は馴染まない点もあるかもしれない。
ERPといっても万能ではないので、標準機能と自社の業務との乖離(かいり)については、ある程度までは運用や簡単な機能拡張でカバーしつつも、譲れない部分に関してはカスタマイズなり専用システムとの連携なりで解決するというのが現実的だろう。
実際にERPを利用するのは、給与計算や会計処理といった基幹業務に携わるスタッフだ。導入当初にはそれらの現場から戸惑いの声も上がるかもしれない。それまでExcel上で一気に入力作業を行っていた場合、ERP導入後には一件ごとにマスターを選択してから数値を記入することとなるため、業務自体は増えてしまうからだ。
ただし、Excelで業務を行った場合のリスクやデメリットにも目を向けるべきだろう。ファイルが壊れてしまうと入力者以外には修復不可能であったり、担当者が入金や売掛けを管理していてうっかり請求書の作成が漏れた場合、そのまま次の受注が来たりして大きな混乱が生じたりすることになる。
経営者にも何が起きているのか把握できないため、取り返しのつかない事態にもなりかねないのだ。また万が一不正が行われていたとしても、発見することは困難だろう。それがERPであれば、データを集約化して安全に管理しながら、業務フローの整合性を保てるようになる。誰でも必要な情報を確認でき、不正に関してもまず不可能な仕組みになっているのだ。
オペレーションも、最初のうちは作業量が増えてしまうかもしれないが、慣れてくれば負担はなくなる。業務の一連の流れの中で関連する伝票をマッピングして表示できるようなERPもあるので、必要な伝票をすぐに取り出せるなど、むしろ作業負荷の軽減にもつながる。
ERP導入後の現場の不安や不満を最小限にするためには、導入前に十分なコンセンサスを得ておくことが重要となる。その場合、単なる機能説明よりも、ERPを入れる目的や意義を説明し、その後に業務の流れがどのように変わるかを視覚的に共有できるようにするといいだろう。そのうえで、実際に触れてもらい、オペレーションを変えることでどのようなメリットがあるのかを実感してもらえれば理想的だ。
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