従来、監視カメラとして採用されてきたのはアナログカメラだったが、その主流がネットワークカメラへと移った。市場調査会社の調査では2013年に価格ベースでネットワークカメラが市場シェアで上回り、2014年には出荷台数ベースでもアナログカメラを抜き去ると予想される。
その理由としては、ネットワークカメラが安価になったことや、ネットワーク設備が普及したことにより、ネットワークカメラの導入障壁が大幅に下がったことが挙げられる。それに伴って、これまで使用していたアナログカメラの耐用年数が経過するとともに、ネットワークカメラへの置き換え需要が向上したのだ。
また、ある程度のコストが必要なレコーディングサーバを導入しなくてもNASやNVRへの画像保存が可能となったことで、中小企業における小規模導入が加速した。最近ではクラウドを活用したネットワークカメラシステムも登場し、今後の展開も期待される。
需要が伸びているネットワークカメラには、大きく分けて3つのトレンドがある。「映像の長期保存と保存データの大容量化」「スマートデバイスの活用」「監視以外の用途での活用」だ。
企業活動における有事の際の証跡として、監視映像を長期保存する必要がある。食品工場、金融、データセンターなど、業種や業界によっては明確なガイドラインが設定されるところもあり、その保存日数は数カ月から数年に及ぶこともある。また、この映像は証跡としての意味があるため、対象物を明確に識別できる高解像度が求められる。
高解像度の映像データを長期間保存するためには大量のストレージが必要となり、その運用コストの負担は小さくない。また、データ伝送時のネットワークの負荷も無視できない。そこで登場したのが、映像の高圧縮処理技術だ。
撮影時にカメラ内部で映像データを縮小、圧縮し、レコーディングサーバに送信する。保存された映像を参照するときには、モニタリング用ソフトウェアでデータ復号して従来の高解像度で表示するという仕組みとだ。
スマートフォンやタブレットなど、いわゆるスマートデバイスとネットワークカメラの連携機能が強化された。外出先などからネットワークカメラを接続したサーバに接続して、録画映像やリアルタイムの監視映像を確認できるようにする仕組みだ。
また、スマートデバイスからネットワークカメラシステムを遠隔操作することや、逆にサーバからスマートデバイス宛てにアラートメールを送信することで、有事の際に即時対応することも可能になる。外出時や移動中でも怠ることなく監視を続けられるということだ(図6参考)。
スマートデバイスに搭載されたカメラを利用して、ネットワークカメラとして映像の撮影、配信が可能なシステムも登場した。ネットワークカメラを設置できない場所や、臨時で監視カメラを設置したい場合などに利用できるだろう。
ネットワークカメラが使われる主目的は何といっても監視映像の撮影だが、最近は必ずしも監視のみに使われるだけではないという。いわば、純粋な映像記録、配信システムとしてのネットワークカメラの活用である。幾つかの事例を紹介しよう。
ある老舗旅館は、顧客満足度を向上させるため「コンシェルジュカメラ」としてネットワークカメラを各所に設置した。例えば駐車場に宿泊客の車が入ってきた際にはそれを察知して、玄関口で宿泊客をお迎えすることができる。
また、館内で従業員の目が行き届かない場所にカメラを設置し、宿泊客の動向を見守ることで問題があればすぐに駆け付けられる。このような「おもてなし」の手段として映像が使われ、顧客満足度の向上、ひいては顧客のリピート率アップにつなげているという。
レジの前をネットワークカメラで撮影して監視し、行列ができたら自動的にスタッフルームやスタッフの携帯端末にアラートを送信することで顧客満足度を向上させた事例もある。加えて、ネットワークカメラで認識した顧客とPOSデータとを分析して数値化することで、ECショップと同等の顧客購買データを得ることもできる。
さらに、店内の複数のネットワークカメラで認識した客の分布を集計し、「ヒートマップ(特定のゾーンに客が集まり、何秒くらい停滞するのか)分析」することによって、客の行動パターンを可視化する。こういったデータ収集により、顧客がしてほしいことを先回りして提供することで、顧客満足度の向上につなげていく。
ある外資大手のアパレルブランドでは、世界的に店舗デザインと商品の配置を同一化した。しかし、欧米圏で売れる製品がアジア圏で売れず、社内では大きな疑問となっていた。そこで理由の解明にネットワークカメラを活用することにした。
陳列棚を監視して客の手の動きを検知し、棚の何段目に客が手を伸ばしやすいのか行動分析を行った結果、欧米圏とアジア圏では「客の体格」が異なり、棚の高さが高過ぎることで当該製品に手を伸ばしにくい客が多いことが分かった。ネットワークカメラによる「暗黙知の見える化」で店舗分析、導線改善を行った事例である。
大手カーディーラーでは、店舗に訪れる顧客車両のナンバープレートをネットワークカメラで識別し、即座に顧客データベースを参照して、どの顧客がどのような目的で来店したかを即時判別する。
購入履歴から車検時期を判断したり、登録のない顧客ならナンバープレートから識別して県外から来店したことを把握したり、来店した顧客の情報を事前に知ることで、顧客満足度を向上させるのに役立っているという。
ネットワークカメラというと、どうしても「監視」「犯罪抑制」といったイメージが先行しがちだが、ここで挙げた事例のように、企業にとっての「利益」に結び付くソリューションに変化しつつある。
これまでは人間の目で識別し、判断されていたことが、ネットワークカメラを活用することでより正確になる可能性があるということだ。「守る」ためだけにネットワークカメラを導入するのではなく、新たな切り口での活用方法を見つけられれば、これまでネットワークカメラの導入に無関係だった企業、部署においても「攻め」につながるメリットが見いだされるだろう。
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