光を完全に吸収するような布素材、徹底的に表面研磨された部品、色ムラや表面のざらつきのない部品、数万個のオーダーでの誤認証可能性などについての検証はこれからだ。また、表面の摩耗や欠損、キズ、腐食などが生じて劣化した場合の照合についても、さらに研究が必要だ。現在、照合対象面積の50%が失われても認証可能なところにまでは到達した。
もう1つの課題はどのように個品をデータベース化するかだ。生産ライン上の点検ポイントで生産品の撮影が行われることが多いので、その際に照合対象とする部分を適切な範囲で撮影する必要がある。
これができれば、画像と付帯情報とをデータベースに登録することは難しくはない。データベースさえ出来上がれば、独自アルゴリズムによる照合プログラムによって高速な照合が行える。メーカーがデータベースを一般に、またはパートナー企業や販売店、検査機関など特定の相手先に公開することにより、トレーサビリティが確保できる。
本技術を発表して以来、同社には多数の引き合いや相談が寄せられている。今後はより多様な素材についての技術検証と改善を進め、より多用途、大規模での実証を推進する。2015年度上期中には製品や部品の真贋判定向けサービスなどをソリューション化し、販売する予定だ。
指紋は生物学上、「同一の紋様を持つ人はただ1人」「終生紋様が変わらない」という特徴があり、本人特定のために19世紀から用いられてきた生体情報だ。あらかじめ登録された指紋の紋様と、例えば犯罪現場から採取された指紋の紋様との一致、不一致を鑑定するような用途に用いられる。
1970年代からは指紋を光学的にスキャンしてデータとして保管、コンピュータユーザーなどが手元の指紋スキャナで入力した指紋データと照合して本人認証を行うシステムが発展した。ただし指表面の汚れなどの条件で精度が落ちる場合があり、現在は皮膚の下の静脈のパターン照合による「静脈認証」システムも多くなった。指紋と静脈のハイブリッド認証も活用される。
「物体指紋認証」との関連は?
指紋認証システムの開発によって発達した画像処理や照合アルゴリズムの延長上に、物体指紋のための画像処理技術や照合アルゴリズムが生まれた。また、「顔認証」技術に使われている要素技術も物体指紋認証システムに取り込まれた。
ちなみにNECは指紋認証技術の開発を40年以上行っており、本技術を用いたシステムは世界40カ国以上に導入されている。同社は2014年、米国国立標準技術研究所(NIST)が実施した指紋認証技術のベンチマークテスト「Proprietary Fingerprint Template Test II(PFT II)」で約12万件の実運用データにおいて、2つの指紋画像の1:1照合が平均照合精度99.47%と、参加ベンダーのうちトップの成績を記録した。
指紋認証や静脈認証にはスキャナーが必要であるのに対し、人の顔を認識する顔認証にはWebカメラなどの一般的なカメラが利用できる。例えば、入退室管理に使えば、手がふさがっている状態でも認証が行えるなど利便性が高い。また、複数の人間の同時認証も可能だ。現在では、国民IDや出入国管理など、セキュリティ分野への利用が広がる。
「物体指紋認証」との関連は?
カメラで撮影した画像を照合するところが共通し、位置(向き)補正やゆがみ補正といった補正技術や照合アルゴリズムの一部などが物体指紋認証に生かされた。NECは、本技術でもNISTによる顔認証技術のベンチマークテストで3回連続の第1位評価を獲得した。
製品や部品の同一性を識別する「個品識別」技術と、その生産や流通履歴の情報の管理と開示を行う「個品情報管理」技術を融合させ、製品や部品の来歴を個々に確認可能にしたり、正規品と非正規品の識別「真贋判定」をしたりできる技術のこと。個品識別には、シリアルナンバー、ICタグ、バーコードなどが用いることが多い。
「物体指紋認証」との関連は?
シリアルナンバーの印字や刻印、ICタグの付与、バーコード印刷などができない小物部品は、これまでロット管理はされていても個品認証まではできないケースがほとんどだった。物体指紋認証技術によれば、特別な加工やシール貼付などの必要がなくなり、クラウドなどに記録した個品データベースと画像を照合することで個品識別および個品情報管理が行える。
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