税務関連書類のデジタル保管が可能になった電子帳簿法やe-文書法施行の際には、これにより企業が保管する文書類の多くが電子化され、紙(ドキュメント)での保管量の削減、文書管理業務の効率化などが期待された。しかし現実には、オフィスでのペーパーレス化は想定を下回る状況になっている。この点において面談調査では、どの企業でもほとんど同じような理由が指摘されていた。
まずは「重要度が高いものは原紙を保管する方が安全」という点だ。税務関連書類、あるいは契約書などの重要書類は、法規制により1年から10年程度の保管が義務付けられている。しかしデジタル保管では、万が一の流出や、IT機器の操作ミスなどによる消去がないとはいえない。紙だからといってそのリスクが全くないわけではないが、長年の紙保管の経験から、従来方法の方が安心できるというわけだ。
他には書類の効力に関する懸念だ。例えば契約書などの文書の真正性は、デジタルの場合なら電子署名が保証することになるが、電子証明書の有効期間はせいぜい数年。有効期間を過ぎる前に署名し直すか、タイムスタンプを併用して電子署名した時期を証明できるようにしておく必要がある。
そのコストと手間を考えると、従来のように印鑑を押した書面をそのまま保管しておく方が利便性が高いという考え方である。文書管理コスト(主に人件費)や保管スペース、あるいは保管スペースを守るセキュリティコスト(監視カメラやセキュリティシステムの導入、キャビネットの購入など)と、電子署名などを含むシステム化コストと運用コスト(人件費含む)などをはかりにかけて、本当に安上がりなのかどうかには疑問の余地があるが、伝統的な手法の方が安心できるというのは理解できる。
さらに、大量の文書、ドキュメントの中から、デジタル化して良い文書とそうでない文書の判別を行うことが面倒という意見も聞かれた。デジタル化の前に、個々の文書を選別しなければならないならば、紙文書のファイリングとそう変わりがないともいえる。
また各種法規制はデジタル化を強制するものではなく、デジタル保管をしたい場合はしても良いといっているにすぎない。それならば、全部紙文書のまま保管しておいた方が負担は少ない。これは文書量が膨大な従業員5000人以上の大企業に多い感覚である。加えて人的リソースに余力が少ない中小・零細事業者でも「一体誰が、既存業務をこなしながら、既存文書のデジタル化を行うのか」といった点がネックになるケースも見受けられた。
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