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オフィスの紙は減ったのか? 企業におけるペーパーレス化の実態すご腕アナリスト市場予測(3/5 ページ)

» 2017年01月18日 10時00分 公開
[早川泰弘矢野経済研究所]

ワークスタイル改革はペーパーレス化を後押しするか?

 オフィス業務のペーパーレス化では、コスト削減以外にもう1つの期待がある。それは既存業務フローに組み込まれた伝票や帳票、稟議書および関連するドキュメント類、図面などがデジタル化されることで、業務効率の向上と意思決定プロセスの迅速化が見込まれる点である。言い換えれば、ワークフローの変化である。

 また現在では、クラウド環境の深化、モバイルデバイスの普及、無線ネットワークの発達などITインフラの変化が著しく、従来では考えられなかった「ワークスタイル変革」を推進できる基盤が整ってきた。このIT由来のビジネス環境変化は、ペーパーレス化を「攻め」の視点で捉え直すことを迫っている。

 ワークスタイル変革とは、例えばオフィスのフリーアドレス化や遠隔地での社内IT利用を前提としたモバイルワーク、サテライト拠点の活用、在宅勤務などにより、仕事がオフィスに縛られず、いつでもどこでも行える環境を作ることと考える。

 言い換えれば、就労者個々人に合った勤務スタイルを選択できる仕組みである。そしてワークスタイル変革が進展すれば、結果としてペーパーレス化の進化も見込まれる。実際、ワークスタイル変革を実現し、成功を収める企業も増えている。

 だがその成功はまだ一部企業の一部部署にとどまり、全社的なペーパーレス化には及んでいないのが現状のようだ。大企業では事業そのものの規模が大きく、業務も非常に多岐にわたる。そのため、全体をペーパーレス化するハードルは非常に高い。またワークフローは社内にとどまらず、さまざまなバリューチェーンを構成する外部企業を含めた広がりがあり、その一部でもドキュメントが残れば、紙運用を残すしかないという事情もある。

 ペーパーレス化では、企業規模を問わず、設立年度が新しい企業ほど進展している状況が見られる。そうした企業では、少なくとも社内業務においては、当初から紙によるワークフローを考えず、最初からペーパーレスな業務フローが実現している模様である。とはいえ、そのような企業であっても完全なペーパーレス化にはまだ遠い。

 その理由は、業務フローはどうであれ、個々の業務には紙文書が必要というエンドユーザー(従業員)が多いことだ。例えば、モバイルワーカーが増えるほど端末での情報閲覧が増えてペーパーレス化が進むというのが一般的な考え方だったが、調査結果からは裏腹な事情も見えている。

 モバイルワーカー、特に営業担当者では「外出時に紙出力をしたい」というニーズが少なからずあったのだ。端末上で閲覧することも当然必要とされるのだが、顧客や出先の交渉相手に対して、何かを提示するにはやはり紙でないと都合が悪いというわけだ。現在でもコンビニやサービスビューローなど、外出先でプリントアウト可能なサービスはあるが、それでは足りないという意見もあった。中には「新幹線にプリンタが欲しい」、あるいは「公衆電話ボックスのように街中にプリントサービス端末が欲しい」という意見もあるほどだ。

 また、社内だけで業務が完結するなら良いが、さまざまなタイプの顧客や取引先がある企業では、バリューチェーン全域にわたってペーパーレス化を徹底するのは至難の技だ。特に問屋や中小零細事業者のように、いまだにFAXベースでの受発注や取引が残っている分野では、ペーパーレス化の浸透にはまだまだ時間がかかるだろう。

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