以上のように、オフィスのペーパーレス化はさまざまな理由から期待されたほどには進んでいない。しかしその一方で、ペーパーレス化は従来のようなコスト削減効果ばかりが利点でないことが徐々に認識されてきている。ワークフローツールの導入、デジタル情報共有システムやサービスの利用が、業務の生産性を上げることが証明されるようになってきたからだ。
ペーパーレス化が進んでいる企業では、紙やその保管コストの削減よりも、むしろ業務効率化に軸足を移している。そのような企業の特徴は、設立が新しく従来の仕組みを踏襲しない。しかも外部事業者などと紙文書でのやりとりが少ない企業、あるいは経営トップがペーパーレス化の意義をしっかりと認識して、率先して取り組んでいる企業などだ。
また、一気に全社でペーパーレス化するのは難しいが、できるところから始め、その成果を他部署にも見える化することは、それほど難しくはない。そのように、実績で一般従業員と管理職、経営層の意識を徐々に変えていくのが、一見遠そうに見えて案外近道といえそうだ。
ただし、ペーパーレス化を実現する上でシステム投資が必要なことは忘れてはいけない。紙文書をデジタル化するためのスキャナーや複合機などの導入コストやそれに関わる人件費、外部サービス利用料、デジタルデータを管理するための管理システムや外部保管料などが必要になる。現状では、このコストが理由でデジタル化に踏み切れない企業も多いのだ。つまりペーパーレス化を目指す上では、システム化のコストと利益面のバランスを考える視点が不可欠である。
なお、Webアンケートでは「デジタル化が進んだきっかけ/引き金」となったイベントについても質問している。その結果、デジタル化の進展で最大の契機となるのは「PC、モバイル機器の導入、入れ替え、バージョンアップ」で、以下「システム変更、新規システム導入」「オフィスリニュアル、レイアウト変更」「会社からの指示」「オフィス移転」「クラウドサービス、アウトソーシングサービスの導入」と続く(図2)。
この結果を見ると、システム環境の変化がデジタル化の進展では主因となっているが、紙文書、ドキュメントの保管場所の変更(オフィスレイアウト変更やオフィスの引越しなど)も、デジタル化を促進するファクターになっていることがうかがえる。
その他には、在宅勤務を含めたテレワークもペーパーレス化のきっかけになりそうだ。面談インタビューからは、業務効率化に加えて、就労支援、人材確保に着目した在宅勤務制の導入意向も一定割合で見られた。
なお、モバイルワークの拡大はペーパーレス化の進展に寄与する一方で、モバイル出力ニーズの高まりで相殺される可能性もある。また面談インタビューでは、「オフィスのデジタル化は、何かがきっかけとなって一気に進んだのではなく、新しい機能を持ったシステムの導入やコピー機の入れ替えなどで、その都度に進展していった」とした回答もあった。
以上、国内においてペーパーレス化がなかなか進まない状況とその理由を、調査結果から探ってみた。調査では2020年までの紙出力量の変化見込みなどについても調べているが、どうやら2020年までには劇的にペーパーレス化が進展する蓋然(がいぜん)性は低そうだ。
また近年、データ解析や機械学習、AI技術の進展により、データの価値、データ活用ニーズが強まっている。しかしそのようなITテクノロジーの進化が、直接的にペーパーレス化につながるかどうかは現状では未知数だ。
とはいえ、社会全般での文書やドキュメント類のデジタル化は後戻りしないと思われる。これに付随して、オフィスのペーパーレス化も不可逆的に進むと予想する。そのためユーザー企業においては、紙を利用していくメリットやデジタル化で得られるメリット、紙の継続利用やデジタル化によるデメリットなどを勘案して、次の大きなイベント(前述したようなデジタル化が進んだきっかけなど)の前に、オフィスの将来像を検討、議論しておく必要があるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。