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機械学習ツールやサービスの種類と使いどころを整理するIT導入完全ガイド(2/7 ページ)

» 2017年05月22日 10時00分 公開
[吉村哲樹オフィスティーワイ]

深層学習の登場が与えたインパクト

 機械学習の理論自体はかなり以前から存在していたものの、実用化にはなかなか至らなかった。その主な理由は「学習データの不足」と「コンピュータ処理能力の限界」にあった。機械学習はその仕組み上、多くの学習データを与えれば与えるほど精度が向上する(学習データの内容の吟味も同様に重要だが)。しかしこれまでは、十分な量の学習データを用意することも、それを一定の時間内に学習させることも容易なことではなかった。

 それが、近年におけるクラウドやビッグデータの普及により、十分な量の学習データを比較的容易に入手できるようになった。またコンピュータ性能の急速な向上により、それらを短時間のうちに学習させることも十分可能になった。機械学習が一気に実用レベルに達した裏には、こうした背景がある。

 一方で、深層学習(ディープラーニング)の登場もAIブームに一気に拍車を掛けることになった。深層学習は「機械学習の中の1つのバリエーション」に位置付けられる。機械学習と一言で言っても、データの中からその問題領域に特有のルールや特徴を見いだして学習するやり方には、実はさまざまな方式が存在する。その中の1つに、人間の脳の神経構造を模した「ニューラルネットワーク」という技術がある。深層学習は、このニューラルネットワーク型の機械学習の「進化形」と捉えることができる。

 具体的には、脳神経細胞のネットワークの“層”(正確にはこれを模したもの)を、通常の機械学習よりもより深く、何層にも重ねたもの(具体的には3層以上)を深層学習と呼ぶ。層がより深く重なっている分、通常のニューラルネットワーク型機械学習より複雑なルールや特徴をデータから引き出すことができる。第三次AIブームは、この深層学習の登場が起爆剤となって、一気に盛り上がりを見せることになったのだ。

「コグニティブコンピューティング」「コグニティブサービス」とは?

 近年、AIの文脈で頻繁に耳にする「コグニティブコンピューティング(Cognitive Computing)」や「コグニティブサービス(Cognitive Service)」といったキーワードは、画像認識や音声認識など、人間の認識や認知の機能をコンピュータで行おうというものだ。AI技術の一部として取り扱われることが多いが、中には「コグニティブコンピューティングはAIではない」と主張するベンダーもあるなど、その用語の扱われ方はベンダーによって若干異なる。

 ただし、先ほど紹介した機械学習や深層学習の「データからルールや特徴を取り出す」という機能は、「人間のように情報を認識・認知させる」というコグニティブコンピューティングの目的と極めて親和性が高い。事実、深層学習は画像認識の世界に革命をもたらし、現在多くの分野でその応用が進んでいる。例えば、自社で管理する膨大な数の画像データや音声データを機械学習に学習させ、その結果構築した学習モデルを画像認識や音声認識のクラウドサービスとして提供するベンダーも出てきている。

 ただし、コグニティブコンピューティングが取り扱う領域の中には、機械学習や深層学習より、昔ながらのエキスパートシステムの仕組みの方が、かえって相性がいいものも存在する。例えば後述する「IBM Watson」などは、知識ベースと推論のエンジンを組み合わせた「エキスパートシステム」技術を中核に据えながら、精度やパフォーマンスを洗練させることでコグニティブコンピューティングプラットフォームを実現している。

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