この液浸冷却技術は、先に説明したデータセンターの問題、すなわちエネルギーコストの増大、スペース不足、騒音問題を解決に導く3つの特徴を備えている。
1つ目は、空冷と比べて40%の電力を削減することだ。富士通によれば、液浸冷却技術は、空気を冷やすことで機器を冷却する空冷式に比べて約1000倍の熱輸送効率を持つ。加えて、大型の空調設備、パーツを局所的に冷やすファンなども不要であるため、結果的にデータセンターの消費電力を40%節約することが可能だ。
また、2つ目の特徴としては、IT機器の設置スペースを削減することが挙げられる。従来の空冷式では、熱を逃がすために、通常のラックの容量よりも間引いてサーバやストレージを搭載しており、スペースの無駄遣いが起きていた。一方、液浸冷却では「間引き搭載」ではなくサーバやストレージを高密度に収める「フル搭載」が可能だ。
液浸槽は、19インチラックに準拠しており、16U分の容量がある。これはサーバなら128台(1Uの2CPUサーバを約3ラック分)、ストレージなら32台(4Uのストレージを約3ラック分)のスペースだ。このサイズに収まっていれば、現在使用しているラック内のサーバ機器をそのまま移行することもできる。
槽は2段まで積み上げが可能で、上、下段にすれば設置スペースはさらに縮まる。加えて、空調用設備用のスペースが丸ごと不要になるために、データセンター全体では70%のスペース削減が見込めると富士通は話す。
空調用設備がなくなれば、騒音も発生しない。3つ目の特徴は、データセンター内の騒音問題を解決できることだ。空調設備のファンが回る音は予想以上に大きい。液体で機器を冷却すれば、この問題もおのずと解決される。
データセンターにまつわる課題を、解決するかもしれない液浸冷却技術であるが、その保守性に問題はないのだろうか。
富士通は、液浸冷却技術は空冷機と同等の保守性を実現すると話す。例えば、サーバノード、HDDなどの主要コンポーネントは、システム稼働状態で保守を実施できるようにした。液浸システムの状態は、CDU内の監視モジュールにおいて常時監視し、システムの異常が発生した際には、管理者に通知が届く。
一般向けに販売が開始されるのはまだ先のようであるが、同社は社内向けシステムのデータセンターへの液浸冷却技術適用を検討している段階だ。また、自社AIブランド「Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」のディープラーニング基盤である「ZINRAIディープラーニングシステム」の液浸オプションとしても投入する予定である。
導入に際してはファンを削除するなどわずかな変更で済むため、この技術が波及すればAI技術のさらなる活用へと歩みを進められるかもしれない。
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