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アーカイブ需要に復権をかけるテープストレージの今すご腕アナリスト市場予測(3/3 ページ)

» 2017年09月27日 10時00分 公開
[森山正秋IDC Japan]
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利用目的の変化から見えてくるテープストレージの今後

 テープストレージの強みの1つは、やはり可搬性が高いことだろう。通常のディスクストレージはオンラインの状態でデータを保管するために、サーバルームなどの設置されることになる。小型のNASならいざ知らず、ビジネスで活用するサーバタイプのものでは持ち運ぶことは到底できない。その点、テープストレージであれば可搬性に優れており、災害対策のためのオフラインメディアとして力を発揮してくれる。

 そんなオフラインメディアだからこそ、最近ではテープストレージがセキュリティ対策に活用できるとして新たに脚光を浴びつつある。キーワードとなっているのが「ランサムウェア対策」だ。企業のデータを強制的に暗号化し、身代金としての金銭を要求するランサムウェアと呼ばれるマルウェアがグローバル規模でまん延しているが、この暗号化された状態から環境を復旧させるには、事前にバックアップしたデータからリストアして環境を戻すことが有効な策の1つとされている。

 しかし、もしNASをはじめとしたバックアップ用ストレージが感染したサーバと同じネットワーク上に設置されていると、バックアップデータまでも暗号化されてしまう恐れがある。そうならないためにも、オフフランでバックアップデータを確保しておくことが重要で、その解決策の1つとしてテープストレージが有効になるというわけだ。

 このランサムウェアをはじめとしたマルウェアによるインシデントを契機に、企業はあらためてデータを自分たちで守らないといけないということが再認識されつつある。データ保全はもちろんのこと、セキュリティ対策としてテープストレージが検討されることが増えると考えられる。

テープストレージの用途を飛躍的に拡大させた「LTFS」

 従来のバックアップに加えて、アーカイブやセキュリティ対策などさまざまな用途にテープストレージが検討されるようになったのは、実はLTO-5から実装されたLTFS(Linear Tape File System)と呼ばれる技術が登場したことが大きい。

 LTFSでは、テープのパーティショニング技術によって、インデックス領域とデータ格納領域2つのパーティショニングを可能にし、テープ上にメタデータとファイルを分けて記録することができるようになったことで、テープ上のファイルへのアクセスや管理が容易になった。

 例えばドラッグ&ドロップでの書き込みなど、ディスクのような管理性能やアクセス環境がテープストレージで提供できるようになった。また、特定のバックアップソフトやアーカイブソフトに限定されることなく、LTFSを利用したどのシステムからでもテープストレージのファイルの読み書きが可能になり、優れたアクセスを提供できるようになった。

 LTFSがサポートされたおかげで、長期保管した場合でもメタデータを参照することで、どこに何のデータが格納されているのかが素早く確認できるようになった。また、2016年4月には「ISO/IEC 20919:2016」として国際規格化されており、今では異なるベンダーの機器からでも参照、利用できるようになっている。使い勝手が向上したことで、用途が格段に広がることになったわけだ。

 テープストレージによるアーカイブが増えることで、当然ながらそのメディアの保管をはじめとした運用管理を行っていく必要があるが、その管理を自社で行うこともあれば、外部のサービス事業者に委託してテープメディアの保管を委託することもあるだろう。

 実際には、大量のアーカイブデータを社内で保管するよりは、保管する環境や設置スペースの観点から外部のサービスを利用する企業が増えると見ている。その場合、単純にメディアを預かるだけでなく、古い規格から新しい規格に移行するマイグレーションサービスのニーズも高まるはずだ。

 マイグレーションを自社でやるのは手間と時間がかかるため、恐らくは外部サービスを利用することになる。ただし、単体のサーバのバックアップに利用してきたDDSなどのエントリーを今の主流のLTOにアーカイブ目的で移行するようなケースは少なく、メインフレームなどエンタープライズで利用してきた独自規格のテープをLTOにマイグレーションすることが多くなるだろう。

 容量当たりの単価が安く可搬性に優れたストレージとして有益なテープストレージだが、NASをはじめとしたディスクストレージが広く利用されるようになったことで、確かにテープストレージ市場は厳しい状況にあるのは間違いない。

 しかも、既に若い技術者などはテープメディアを用いたバックアップやアーカイブの運用に携わった経験のない人も少なくない。そこで課題となるのが、アーカイブに関する基盤づくりが検討される過程で、「テープストレージが課題を解決するソリューションの1つである」ことが認識されない可能性がでてきてしまうことだ。

 ベンダーによる啓発活動が重要になるが、テープストレージは古いテクノロジーではあるものの、実はLTFSのような革新が起こっており、検討すべき価値の高いソリューションであることをあらためて知ってもらう必要がある。特にアーカイブを検討する際には有効な選択肢の1つになることを、この記事を通じて再発見していただければ幸いだ。

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