最近、RPA(ソフトウェアロボットによる業務自動化)が話題だ。それによって「ホワイトカラーの仕事が奪われるんじゃないか?」「AIのせいであの職業がなくなるのでは?」みたいな話が持ち上がることもある。
一部の職業が機械に取って替わられる可能性はゼロではない。だが、機械がどうしようもないほどポンコツだったために大変な事態になっているというザンネンな話も出てきた。
カナダ政府が人員コストの削減を目的にしてIBMのシステムを導入した結果、800億円を超える損失が生じそうだという。一体、何が起きているのか?
2008年、カナダ政府は給与計算システム「Phoenix Pay System」の導入プロジェクトを開始した。推進したのは、前カナダ首相のスティーブン・ハーパー氏とカナダ保守党だ。前政権は、IBMとOracleのソフトウェアを使った給与計算システムの構築と運用を支援する契約を結んだ。
システムが稼働にこぎつけたのは2016年。そして、給与計算処理にかかわっていた1200人の連邦公務員が解雇され、新給与計算システムを運用する500人が新規採用された。「プロジェクト・フェニックス」の最大の目的は人的コストの削減であり、リストラはやむなしといったところだろう。
新システムでは、連邦公務員全員の給与計算がメインコンピューターで集中処理され、給与は各職員の口座へと支払われるはずだった。だが、ちっとも正常に動作しなかったのだ。一部の職員の給与が理由なく増額されてしまったり、逆に一部の職員にはほとんど給与が支払われなかったり。そして、問題を解決しようと寄せられたリクエストのためにシステムはパンク状態に近くなり、ますます問題が肥大化していくことに……。
26万人もの連邦公務員全員の給与が未払いになる可能性が指摘されるものの、既に給与計算処理のエキスパートは全員解雇済み。この状態のまま2年が経過し、未処理データは38万4000件を超えてしまった。職員の中には、職位が変わることで給与処理に問題が発生することを恐れ、昇進を辞退したり退職を延期したりする人も出てきてしまった。
果たして問題はどこにあるのか。連邦公務員の組合代表の1人は「プロジェクトを早急に進めた政府高官と、テストを重ねなかったIBMが悪い」という見方を崩さない。スコット・ブリソン上院議員も「このままではIBMにも風評被害が及ぶ。この問題をすぐさま解消すべきだ」と同国の財務省理事会で発言する。
だが、システムを納入したIBMは「プロジェクトの義務は果たした。システムに問題はなく機能している」と公式見解を表明し、「今後もプロジェクトの問題を解決するために政府に協力する」との姿勢を崩していない。また、Oracleはノーコメントを貫いている。
なおIBMは、オーストラリアのクイーンズランド州が2007年に導入した給与計算システムでも同様のトラブルを引き起こしている。クイーンズランド州でのプロジェクトは失敗だと判断され新システムは廃止、10億オーストラリアドル(約825億円)の損害が発生した。
誰が悪いのかはともかくとしても、最終的にこのシステムは停止に追い込まれることになりそうだ。問題解決のため、既に4億6000万カナダドル(約377億円)が費やされた。さらに新たな給与計算システムを導入するために4億3100万カナダドル(約353億円)の予算が計上される予定だ。合計で約10億カナダドル(約817億円)、何ともはや。
この会計システムで、どれほどのコスト削減を目指していたのかは明らかではない。しかし、関係者の誰一人として10億カナダドルもの余分なコストが発生するとは思わなかったことだろう。システムが刷新されて、今度こそまともに動く日が早く来ることを祈るばかりだ。
上司X: IBMの給与計算システムがマトモに動かなくてカナダの公務員がタイヘンという話だよ。
ブラックピット: 職員を削ってまで導入したのにこの体たらくですか。
上司X: 笑い事ではないな、当事者にしたら。
ブラックピット: そしてシステムが稼働したのは政権交代後。コレは何とも。
上司X: 国会では、現政権を担うカナダ自由党のジャスティン・トルドー首相が問い詰められているそうだよ。
ブラックピット: イケメンといわれるトルドー首相も、実質的には前政権がやらかしたことで攻められるのは納得できないでしょうなあ。
上司X: 実際にやらかしてるのはシステムを納入したIBMのような気もするけどな。この現状でも「正しく動いてる」って開き直れるメンタルの強さはスゴいよ。
ブラックピット: 「新規採用の運用スタッフがダメだ」みたいな意見もあるみたいですけどね。そりゃあ皆さん、責任をなすりつけあいますわな。
上司X: いっそ、クビにした給与計算の担当者を雇い直した方が丸く収まるんじゃないのかな?
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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