複雑化するインフラへの柔軟な対応が求められるWAN環境。最適な環境づくりの担い手として注目されるSD-WANの最新動向とは?
小野陽子(Yoko Ono):IDC Japan コミュニケーションズ リサーチマネージャー
国内通信サービス市場、データセンターサービス市場などの調査を担当。特に法人向けビジネスネットワークの市場動向に詳しい。最近では、広域分散プラットフォームやエッジ(フォグ)コンピューティングの調査も積極的に手掛ける。
企業が取り扱うデータは年々増大し、クラウドサービスの利用も拡大するなかで接続端末も急増中。企業ネットワークはSDN(Software Defined Network)の採用で変化に対応可能な迅速性を手に入れてきた。しかし、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進む真っ只中にあって、社外との接続の増加、量的に膨張一途のアプリケーショントラフィックを前に、今度はWANの見直しが急務になってきた。その解答としてクローズアップされているのがSD-WAN(Software Defined-WAN)。今回はその最新動向をまとめる。
2017年8月7日にIDC Japanが発表した「国内SD-WAN市場予測」では、2016年の国内SD-WAN市場規模は約4億3000万円、2021年の国内SD-WAN市場規模は504億4000万円、2016年〜2021年の年間平均成長率は159.0%と予測した。数年前に登場したばかりの市場だけに成長率は非常に高いと予測している。
ただし、国内通信事業者のWANサービス市場は5500億円規模であり、これに拠点ルーターなどWAN関連機器市場を加えると、WAN関連市場は巨大である。数年先でも、SD-WANは、WANの全体需要のわずかな部分を占めるにすぎない。SD-WANが従来のWANを急速に置き換えるというより、母数の大きなWAN市場であるが故に、一部の置き換えやアップセルでも急伸長しているように見えるというのが真相だ。
SD-WANの認知度は高く、2017年3月のユーザー調査では、少なくとも「聞いたことがある」企業は約8割だった。しかしその認知レベルは「内容やメリットなどを詳しく知っている」が11.9パーセント、「概要を知っている」が34.8パーセント、「聞いたことがあるがあまり知らない」が34.1パーセント、「聞いたことがない/分からない」が19.2パーセントであった。
SDN(Software Defined Network)の導入が既に進みつつあることでSD-WANは理解、認知しやすいものになっていることが背景として考えられるが、必ずしも深い理解につながってはいない状況が読み取れる。同時期に実施した企業へのヒアリングでは、SD-WANの存在を知った大企業の一部が、従来はコストセンターとしか考えられなかったWANに、新たなビジネス成長に役立つポテンシャルがあると気付き始めた段階だった。
しかし直近の2018年2月に行った調査では少し様子が違っている。特にグローバル展開するメーカーを中心に、さらに認知度が上がっているだけでなく、一部で具体的な検討が始まっているのである。取り組みを始めた企業でもまだPoC段階にとどまっている場合の方が多いため、動きは水面下にとどまり、ユースケースとして紹介できる事例はまだないものの、ようやく国内企業が導入に前のめりになってきた印象である。
なぜそうなってきたのかを考える前に、少しだけSD-WANというジャンルのあらましを述べておきたい。
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