国内でグローバルな製造業を中心に、PoCの段階を超える企業が出始めている。ユースケースはまだ多くないが、目下検討中の企業が多くなってきた。ここに来てがぜん導入意欲が高まっている主な理由は次のようなものだ。
最も大きな理由は、WANで大きな顧客基盤と長年の実績を持つ通信事業者が、企業にとって現実的と思えるSD-WANを、その他のソリューションと組み合わせた形で企業に提案し始めたことだ。通信事業者は、日本企業のWAN利用現場での実態をよく知っている。その経験から、価格面でもソリューションとしても、説得力のある提案を行えているとIDCでは考えている。
実は当初、国内通信事業者はSD-WANにどちらかといえば消極的に見えた。しかし、通信事業各社で寡占状態だった市場を新しいプレイヤーに蚕食(さんしょく)されるのを防ぐには、自らSD-WANを提供していくしかない。数年後のSD-WANの拡大は必然的な流れと覚悟を決め、取り組みを進めた結果、市場をリードする立場になってきているわけだ。
最近のトピックとしては、日立製作所がNTTコミュニケーションズのSD-WANソリューションを採用した例がある。これは日立の国内1000拠点に導入されるが、その目的はネットワーク構成や機器の設定変更の迅速化とセキュリティ強化により柔軟性と堅牢性の両立とのこと。発表によると1000拠点のネットワーク構成やルーターなどの設定変更を、数十秒から5分程度で完了できるという。この事例の公開によって、グローバルメーカーのSD-WAN検討にますます拍車が掛かる可能性がある。
「売る側」の戦略とは別に、ユーザー企業内部からもネットワークの変革を進めなければならない理由が幾つかある。そのうち最大の理由は、パブリッククラウドと拠点内端末との接続の際のレスポンスだろう。従来セキュリティ上の理由から推奨されてきたインターネット接続は、インターネット向けトラフィックをいったんデータセンターに集約した後にインターネットに出す方式であるが、これではパブリッククラウドまでの経路が長くネットワーク遅延のためにレスポンスが低下するケースがある。
また、例えば汎用(はんよう)オフィスツールのSaaS版を導入した企業がそのネットワークへの影響の大きさにがくぜんとしているように、SaaSのトラフィックがWANのコストを押し上げる。つまり従来の方式では、SaaSなどのクラウド利用推進を図るのにコスト面と業務効率面の両面で懸念がある。WANの帯域を逼迫させる要因になるトラフィックのうち、最終的にはインターネットを経由させるものや優先度が低いものは、拠点から直接インターネットにオフロードさせたいというニーズが最も現実的・直接的なSD-WAN検討契機になっているようだ。
2017年の調査においても、クラウドサービス導入に関連してWANに何らかの見直しを行った企業は6割を大きく超えていた(図2)。これは多くのケースでクラウドサービス導入を契機にWANの課題がクローズアップされることを裏付けている。
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