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「崖っぷちERP導入」苦節8年2度の失敗から3度目はなぜ成功したか事例で学ぶ!業務改善のヒント(2/3 ページ)

» 2018年06月20日 10時00分 公開
[唐沢正和ヒューマン・データ・ラボラトリ]

「後がない」状況から1年で逆転 勝因は?

 しかし、当初の予想以上にプロジェクトは難航した。2010年のプロジェクト始動から、実際のERPシステム本稼働まで、実に足掛け8年もの長期プロジェクトになった。

 その理由はどこにあるだろうか?

 「まず、2010年から2012年初頭までERP導入プロジェクトを進めました。しかし、その間に2回失敗が続いたところで、いったんプロジェクトは頓挫したのです」(山崎氏)

 現場のヒアリングを重ね、現場の声を重視した結果、ERP機能を実業務に合わせる作業が複雑になるといった状況が発生、ローンチに至らなかったのだ。山崎氏は、この間2回の導入失敗を経験している。

クララオンライン ゼネラルマネージャーの山崎隼人氏

 ERP導入プロジェクトがとん挫した後、2012年から2015年にかけては、既存の基幹業務システムをベースに、継続的な改修を内製化して「業務のシステム化」を推進しながら、将来に向けたデータ整備をある程度進めた。

 この取り組みが功を奏したことから、2016年初頭、改めてERP導入プロジェクトを再始動した。「2度の失敗を経験しているので、後がない状況」で始まったプロジェクトだったが、約1年の導入期間を経て本稼働までこぎつけたという。

 それでは、導入成功はデータ整備のたまものなのだろうか? もちろん、データ統合しやすい環境が整ったことはよい影響を与えたと考えられるが、3度目の導入プロジェクトが成功した要因はそれだけではないようだ。

100%を求めるな、捨て方を考えろ

 プロジェクトは過去の失敗を踏まえ、「成功なくして、ゴールなし」を掲げ、「100%の完成度は求めずに稼働させること」を最優先とする方針で挑んだ。

 ここでは「要件の8割が実現できれば成功」と定義することで、稼働させることに注力できるようにしている。

 柔軟にカスタマイズ可能なソフトウェアを選んだものの、将来の運用負荷を考慮してカスタマイズは最小限に抑えている。逆に業務の手順やルールを変えて、ソフトウェアの標準機能に対応することを原則とすることにし、関係者と何度も意識合わせを行ったという。

「関与、協力すれば評価」を確約、協力しやすい環境を用意

 これに加えて「評価」の視点も重視した。意識合わせに参加する関係者の協力的な協力を期待し、「プロジェクト関与者に対して、会社として適切な評価が行える環境を整備した」という。

 ERP導入プロジェクトの再始動では、「Microsoft Dynamics NAV」の導入を決定した。クラウド基盤での運用と親和性の良いサブスクリプションモデルに対応しており、Microsoft Azure基盤で稼働することから拡張性やPower BIやOffice 365のような外部ツールとのデータ連携も効率よく行える点を評価したという。これに加え2カ月という短期間で要件定義を終わらせる、という担当SIの提案も決め手になった。

 導入プロジェクトは、2016年4月からスタート。6月には要件定義を確定し、7〜8月でシステム開発を実施。10月過ぎごろには、受け入れテストを実施するというスピーディーなスケジュールで進行した。

 プロジェクト開始から10カ月後の2017年2月にはシステムをリリース、3月には本稼働をしている。この間、開発工数は50人月だったという。

第1弾で守った期日、捨てた要件

 導入過程での成功のポイントとして山崎氏は、捨て方の重要性を語る。

 「要件定義の際、利用部門からは数多くの要望が寄せられたため、これをどう取捨選択するかが重要だった。例えば外部システムと連携した高度な自動化を要望する声もあったが、実装が複雑になることを考慮して要件から排除した。この取捨選択が成功要因だった」と、山崎氏は当時を振り返る。

 この他、プロジェクト全体のスケジュールは上述した通り短期間で実現しているのだが、実際には、細かな工程では遅れや計画変更もなくはなかった。

 「要件の詳細仕様化と開発のフェーズで、想定よりも時間がかかった。プロジェクトの進行に遅れが生じたが、システム構築担当のSI会社と協力し、全体スケジュールの中で調整する方針でプロジェクトを進めた」

  8割達成を目指したプロジェクトでは、まずプロジェクトを進めることを優先した判断と行動を心掛けたようだ。この柔軟な判断はリリースの際にも生かされている。

 というのも当初計画では、リリースのタイミングで完全にシステムを切り替える予定だったのだが、トレーニングやユーザー受け入れテスト、データ移行といった後工程に遅れが出ていた。この状況を鑑みて、2カ月間は旧システムと並行稼働しながら段階的に切り替えを行っている。こうした柔軟な計画の切り替えが可能だった背景には以降後の環境がクラウドであり、並行運用のコストが大きくかからなかった点も大きく寄与していると考えられる。

「なにこれ使いにくい!」の現場の不満も半年まで

 こうして、さまざまな課題を乗り越えて本稼働を迎えたERP導入だが、要望を100%受けているわけではないこともあり、導入後のユーザーの反応は良いものばかりではなく、少なからず不満の声も上がっていたという。

 しかし、導入から半年を過ぎるころには、そうした声もなくなり、現在では業務に欠かせないシステムとして定着している。初期2回の失敗プロジェクトでは、ユーザーの要望に全て対応しようとしたことが複雑化の原因となった。

 山崎氏は、「ユーザーがシステム環境や業務の変化、操作性の違いに慣れるまでに多少の時間と我慢が必要であることを実感した。また、逆に当初は不満が出ていても、システム自体が業務に最適化できていれば、ユーザーがそれに順応できた時点で不満も解消されていく」と語っている。

 めでたくERP導入に成功した同社では、分散していた基幹業務の情報を統合できたことから、月次の集計や重複情報の登録作業などの単純かつ無駄な作業がなくなったことで、他の業務に作業リソースを再配備できるようになったという。

 この結果を踏まえて山崎氏は、ERP導入における成功の要として、「カスタマイズを減らし、業務を変える」「社内外の垣根を越え、工夫と協力で前に進めていく」ことの2点が重要であると強調した。

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