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米国のイベントに見る、海外ブロックチェーン事情すご腕アナリスト市場予測(2/4 ページ)

» 2018年06月27日 10時00分 公開
[亀津敦野村総合研究所]

ブロックチェーンは企業の重要な戦略課題になりつつある

 これだけ多くの人が世界中から集まるテーマとなったブロックチェーンだが、実際ビジネスにどの程度利用されているのか、企業がどのように取り組んでいるのか気になるところだろう。

 今回のイベント会場で、コンサルティング企業のデロイトが「2018 global blockchain survey」を発表し、その中で企業のブロックチェーンに対する意識や取り組み状況のアンケート調査結果のプレビューを公開した。アンケートは全世界約1000社の企業が回答しており、回答社のうち23%が金融サービス、それ以外が非金融業である(日本企業は調査対象に入っていない)。

 アンケート調査の中で最もインパクトのある結果だったのが、「企業がブロックチェーンと自社ビジネスとの関連性をどう見ているのか」を聞いた設問への回答であった。43%の回答者がブロックチェーンを「戦略トップ5に入るクリティカルなテーマ」としているのである。

 日本ではブロックチェーンを「自社への影響がまだよく分からない取りあえず調査をする段階」と見ている企業が多いと考えられるが、この回答結果に出てくる海外の企業のうち、4割以上がビジネス上の影響を既に想定していることになる。

 しかも、このアンケート調査では金融業界の回答者が23%であるため、フィンテック以外の分野でもブロックチェーンを自社の戦略上クリティカルだと見なす企業があるということを示している。ビットコインから始まり、FinTechの文脈で議論されてきたブロックチェーンの適用先が、他の業界へと広がりつつあることを示しているわけだ。

 またデロイトの2018 global blockchain surveyでは、どのような分野でブロックチェーンへの取り組みが行われているかについてのアンケート結果も公開されていた。それによると、最も多いのは「サプライチェーン」で、わずかな差で「IoT(Internet of Things)」「Digital Identity」が続く。

 初日のキーノートスピーチに招聘されていたのはグローバル輸送事業者のFedexのCEOとCIOであった(2017年は金融業界からCitiのチーフイノベーションオフィサー)。確かにいずれの分野であっても、ブロックチェーンの価値である「改ざん不可能性」「非中央集権(Decentralized)」「スマートコントラクトによる自動化」を生かしやすい分野といえるだろう。

注目される「非中央集権」という考え方

 今回のイベントでは、会期全体を通じて「非中央集権(Decentralized)」という概念を強く訴える識者や技術者が多かったのが印象的だった。単にネットワークやシステムの機能面の議論にとどまらず、これからのインターネットのあるべき姿に対するある種政治的な理念をも含んだ意識を持っている人々が多いと感じたのが正直な感想だ。

 中でもデジタルアイデンティティーの分野はその典型であろう。3月に発覚したFacebookの個人情報漏えい問題によって、IT分野のメガプレーヤー(いわゆるGAFA=Google、Apple、Facebook、Amazon)に依存することのリスクがクローズアップされてきた。

 実際にわれわれは、GAFAのようなプレーヤーを信用してデータを預け、恩恵を蒙ってきたのは間違いない。FacebookやGoogleのIDを持つ人は多く、共通のIDとしてさまざまなサービスへのログインに利用することができることはよくご存じの通りだ。

 一方、その代償として不要なレベルまでアイデンティティーにまつわる情報が一部のプレーヤーに集積される結果となっている。中央集権的な仕組みでは、アイデンティティーを預ける個人は中央のビッグプレーヤーを信頼するしかなく、もしそのデータがハッキングを受けたり悪意ある人間に持ち出された場合のリスクは計り知れないものがある。

 ブロックチェーンによる分散管理、暗号技術によって個人に自己のアイデンティティーにまつわるデータをコントロールする権利を取り戻し、「Self-Sovereign Identity(自己証明型身分証明)」を実現しようという動きが活発化している状況にある。

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