ここで、最も「重たい」作業が想定されるのは、52%を占める業務アプリケーションの移行だ。
例えば会計系の業務アプリケーションの裏側でWindows ServerとSQL Serverが動作するケースは多い。アプリケーションベンダーの多くは既に移行方法を提示しており、SaaS版やIaaS版のアプリケーションを提供、移行を推進するケースもある。しかしそれでも厄介なのは社内外のシステムと連携して運用するケースが少なくないからだ。SaaS版に移行し、API経由でさまざまなシステムと連携できるとしても、連携対象のシステム全てが対応していなければならない。
また、Windows Server 2008が普及し始めたころはサーバ仮想化技術が普及した時期と重なる。Windows Server自身も初めて独自のサーバ仮想化技術「Hyper-V」を搭載している。VMwareも本格的に商用システムのサーバ仮想化を推進した時期だ。業務アプリケーションがHyper-Vに乗っていれば、同じHyper-Vで動作するMicrosoft Azureへの移行が考えられる。VMwareを利用している場合は、移行先としてVMware on AWS、VMware on Azureなどの選択肢を想定できるだろう。
本稿に先立つ2018年7月に実施したアンケートでは、Windows Server 2008の延長サポート終了に際して、現行のシステムをどの環境に移行するかを聞いた。その際、オンプレミスの物理サーバと「Windows Server 2016」を移行先として挙げる声が多かったが、この他の選択肢としてはVMwareを使ったプライベートクラウドや、アプリケーションごとSaaSの利用に切り替えるといった方法も考えられる。
この数年はクラウドファーストといった言葉に代表されるように、業務システムにおいてもクラウド型の運用を前提としたアーキテクチャが注目を集める。とりわけ、現在はサーバ仮想化のオーバーヘッドを解消して、よりプログラマブルで柔軟なIT基盤を目指すコンテナ技術にも注目が集まりつつある。DevOpsといわれる開発手法を取り入れる際には、コンテナとコンテナオーケストレーションツールを使った運用は使い勝手がよい。
だが、そうはいっても十年単位で運用してきた業務システムを一足飛びにクラウドネイティブにするアプローチは工数がかさみ、リスクも少なくない。まずはサポート終了前に移行を完了することを前提に、3つの方法で進めるとよいだろう。
仮にクラウド移行を検討するにしても、業務システムとなるとセキュリティやレスポンス上の問題、あるいは利用データの性質によって、パブリッククラウドに預けることが難しいものもある。また、全てをクラウドで運用するのではなく、エッジコンピューティングの考え方に基づくアプローチも考えられる。
基本的なデータ処理をエッジに相当するオンプレミスで実施し、圧縮したり匿名化したりといった一定の処理を加え、加工容易性を高めたデータのみをクラウド側と連携して、効率のよいアプリケーション開発につなげたりする考え方だ。
この場合も最新版であるWindows Server 2016にアップブレードしておくことで、クラウド連携機能を組み合わせやすくなるため、後述の(2)や(3)といったクラウド化へのステップを進めやすくなる利点がある。
クラウドへの再ホストは、現状と同じ環境をIaaSなどのクラウド基盤に構築し、ネットワークなどの構成を含めて「ほぼそのまま」の状態で移行するパターンだ。統合IaaS基盤などのプログラマブルなインフラを利用することで、まずは従来の運用業務のうち、IaaS層の運用管理を効率化し、徐々にインフラとアプリケーションの運用管理を合理化していくアプローチともいえる。
クラウドに移行する場合はサーバそのものよりも、ネットワーク周りなど運用基盤全体の構成に変更が必要なことも多い。特にアプリケーション側の構成や設定を調整する必要がある場合は、開発が必要なケースもあるため、「取りあえずそのまま」で、どこまで「そのまま」持ち込めるかは早めに検討しておくべきだろう。
リファクタリングとは、サーバ移行に際してアプリケーションや運用基盤そのものをまるごとクラウド型の実装に変更してしまう考え方だ。クラウドに移行すると同時に、スケーラブルでプログラマブルなインフラとアプリケーションに作り替えてしまおう、という考え方だ。
クラウドファースト型の業務システムの利点は、業務効率化やビジネス開発を低コストかつ効率よく運営できるようになる点にある。だが、従来のクライアント/サーバ型アプリケーションを自力で作り替えていくのは非常に労力が大きな作業になる。当然システム開発に関わる工数も、開発環境の調達も長期間におよぶ可能性があるため、まずはアップグレードや再ホストを行い、クラウドとの親和性を徐々に高めていくアプローチを検討するのが現実的といえるだろう。
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