職場のストレスが深刻化する中、その対策として始まったストレスチェック制度。だが、実施しても従業員の健康状態が変わらないと悩む企業もある。今のストレスチェックのどこがダメなのか。そして、「ブラック企業」と呼ばれないためには、企業として何をすべきか。
従業員のストレス問題は年々深刻化する。単に労働時間が原因ということであれば、残業管理の徹底や勤務時間の見直しで対応できるが、ストレス問題はそう簡単に解決できるものではない。同僚や上司といった人間関係や過重労働、労働環境など、職場にはさまざまなストレス要因が存在する。こうした見えないストレス要因を探り、従業員の健康を守るのがストレスチェックの役目だ。
だが、ストレスチェックを実施しても依然として状況は変わらず、不満を抱える従業員が減らないと悩む企業もある。その理由はなぜか。本稿では「ブラック企業」と呼ばれる前に考えたい健康管理のポイントについて説明する。
本特集の前編である「”野球型”企業はもう古い? 「ハイパフォーマンス組織」になるためにストレスチェックをどう生かすか」では、ストレスチェックの実施にとどまり、実施結果を環境改善や従業員の健康管理に生かそうと考える企業は半数にも満たないという現在のストレスチェックの取り組み状況について説明した。ストレスチェックに対する考え方は大きく2つに分かれる。「積極的に健康経営を考え、やるなら状況改善までしっかりと対応したい」と考える企業と、「最低限の義務を果たせば良い」と考える企業だ。
健康経営に積極的な姿勢を見せる企業は、従業員の健康状態が経営に影響することを認識しているため、経営戦略として健康管理に取り組む。健康経営に積極的な企業の中には経済産業省の“お墨付き”である「健康経営優良法人認定」を狙う企業もある。これは優良な健康経営を実践する法人を顕彰するために2017年から始まった制度だ。この制度は「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」に分かれる。大規模法人部門は通称「ホワイト500」として知られ、2020年までに健康経営に取り組む優良な大規模法人の500社以上の選定を目指すというものだ。
もちろん、企業がこの健康経営優良法人の認定を狙う理由は、何らかのメリットを期待してのことだ。認定された場合、経済産業省のWebサイトに認定法人として社名が公開され、「健康管理に前向きな企業」という社会的評価も得られるだろう。
これは人事戦略においても良い方向に働くと考えられる。最近は、就職先を選ぶ基準に「職場環境」や「ワークライフバランス」を挙げる求職者が増えている。喫緊の経営課題に人手不足を挙げる企業は多いが、売り手市場の現在において、健康経営優良法人に認定されることは、労務環境を気にする求職者に対しても良いイメージを与え、人事採用面でも効果が期待できるだろう。ただ、数多くの指定要件をクリアするがあり、認定されるのは容易ではない。
健康経営優良法人の認定基準は、大規模法人部門と中小規模法人部門で異なる。それぞれの認定基準は、以下に記載の通りだ(図1、2)。
この認定基準の中には、「メンタルヘルス不調者への対応に関する取り組み」や「50人以上の事業場におけるストレスチェックを実施していること」という項目が含まれる。健康経営優良法人を狙う企業にとってストレスチェックと従業員の健康管理は無視できないポイントだ。
健康経営に積極的に取り組む企業がある一方で、「最低限の義務を果たせば良い」と考える企業もある。取り組みが実施にとどまり、改善にまで進まない要因として、人的リソースと対応コストが考えられる。特に中小規模の企業は、少数の組織で業務を進めることも多く、「そこまで手が回らない」というのがホンネだろう。なぜなら、ストレスチェックは事前準備だけでも対応すべきことが多く、ただでさえ実施までの準備だけで手いっぱいなのに、その後のケアまで含めるとなると、相当な工数がかかるからだ。ストレスチェックの対応フローを大きくまとめると以下のようになる(図3)。
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