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OKRとは? どんな目標管理手法か、導入方法、MBOとの違いを整理する

OKRは、組織と個人のコミュニケーションやマネジメント手法を見直すときに検討したい手法の一つだ。MBOのような目標管理と何が違うだろうか。実践を支援する目標管理ツールと併せて紹介する。

» 2020年08月31日 10時45分 公開
[キーマンズネット]

OKRはどんな目標管理手法なのか

  従来使われてきた人事マネジメント手法に替わり、現在注目されているのがOKR(OBjectives and Key Results)という目標管理手法だ。典型的な日本企業の目標管理手法と言えば、年間あるいはんと視野四半期の目標を立て、1年後その成果を評価するというものだろう。しかし、そもそも目標の設定自体があいまいだったり、評価プロセスへの対応のためだけにタスクを設定したりすると、組織全体の目標と個人の成果を結び付けにくくなり、従業員が会社方針との乖離(かいり)を感じてモチベーションを下げてしまう結果になりかねない。

 コロナ禍をきっかけに多くの企業が本格的にテレワークを導入した。企業によっては一時的なものではなく、将来にわたって大半の従業員をテレワークに移行させる方針を決定した企業もある。従業員同士で環境でどうやって従業員のモチベーションを高め、会社に貢献してもらえるようにしなくてはならない。従来の目標管理手法でよいのだろうか。そこで今、注目されているのがOKRという目標管理手法だ。

OKRとMBOは何が違うか

 OKRは1970年代にIntelで原型が考案された目標管理手法で、Googleが取り入れたことから広く知られるようになったものだ。日本でもメルカリをはじめ、先進的な企業が次々採用して注目を集めている。

 OKRは「もし達成できたらすごい目標(Objective)」と「測定できる結果(Key Results)」から成る。

 OKRの特徴は「透明化」「スピード感」「前提条件」「チームとしての一体感」にあるといえる。

 ビジネス環境がどんどん変化する状況では、組織の方針も都度見直しや再設計が必要になる。こうした状況で1年単位の目標設定をしても、個人の評価と組織の方針とが乖離してしまう。結果として従業員が事業貢献ではなく評価のための活動に注力せざるを得ない状況が生まれやすい。組織の成果に結び付かない活動は従業員がやりがいを感じにくく、就労意欲が低下してしまうリスクがある。

 OKRは会社やグループ、従業員個人それぞれの目標を全て透明化して(オープンにして)全社で共有する。目標の進捗(しんちょく)も全て公開し、毎週そのレビューやフィードバックも実施する。さらに3カ月に一度、目標を見直す機会を設け、実情に合わない部分は見直すというスピード感で運用する。

 組織全体でプロセスを踏むことで、従業員個人が「会社がどこに向かおうとしているか」「そのために自分の属するグループは何をするのか」「自分はどうグループに貢献するのか」という「前提条件」を各従業員が明確に認識するように促す。

 こうした手続きは手間がかかるが、会社の目標と従業員個人の意識の乖離を解消するためには重要な意味を持つ。このとき、周囲のメンバーがどういう目標を立て、どう進捗しているかも明確にすることで、チームとしての一体感を生みやすくなる。

 人事マネジメントシステムとして日本でよく使われているのはMBO(Management By Objective)だろう。MBOはManagement By Objectives and Self Controlの略で、1956年にピーター・ドラッガー氏が『現代の経営』の中で提唱したとされている。

 ここでもObjective(目標)という言葉が使われているが、MBOの場合は「個人の成長と人事評価」に力点を置いた目標管理手法のため、個人の設定内容が会社やチームの中で共有されるわけではない。

 もともとの概念ではMBOは組織の目標と個人の目標のベクトルをそろえ、従業員が自発的に組織に貢献するための枠組みとして提唱されたものだ。しかし、成果の評価を重視する傾向が強い場合、ノルマ主義的な運用になりやすく、従業員個人の目標設定が事業の目的と合致しなくなりやすい問題がある。個人の評価と組織の成果が乖離した場合、従業員は事業への貢献を実感しにくくなり、やりがいを感じられなくなるリスクがある。

OKRの設定方法は? 典型的な例を考える

 では、OKRを実践するにはどうしたらよいだろうか。100社あれば100社それぞれに異なる課題があるため、ここでは典型的な導入方法を紹介する。

OKR設定の手順1:組織全体の定性的な目標(Objective)を設定する

 まず自社の主要メンバーで「トップ運営委員会」を立ち上げ、その最終決定権者は社長になる。そこで、会社としての「もし達成できたらすごい目標(Objective)」を1つ決定する。「もし達成できたらすごい目標」の立て方として「ムーンショット」という言葉が使われる。「実現はむずかしいけれど達成できたらすごい」という目標に対する比喩だ。

 ここでは食品卸企業の業態変更を例に考えてみよう。

 コロナ禍で取引先からの注文が減少したことをきっかけに、業態を変更し、店舗向けの卸売り以外にオンライン通信販売や店舗型の持ち帰り販売に変更するとする。

 例えばここで「食品卸から家庭食デザイン企業に変わる」という「実現はむずかしいけれど達成できたらすごいObjective」を決めたとする。このときObjectiveは数値目標などではなく「定性的なもの」でよい。

OKR設定の手順2:Objective達成のための測定できる結果(Key Results)を設定する

 次に「食品卸から家庭食デザイン企業に変わる」というObjectiveを達成するための「測定できる結果(Key Results)」を挙げていく。

 このKey Resultsは定量的で測定できるものでなくてはならない。例えば「全国にx店舗出店する」「家庭食デザイン企業として認知率がxx%になる」「持ち帰り販売事業の売上がx億円に達している」などだ。

OKR設定の手順3:トップOKRに準じた部門OKRを設定する

 運営委員会で決められたOKRは、トップが責任を持って決めたものとして各事業部に下ろされる。今度は各事業部で「トップOKR」に沿うように「事業部OKR」決めていく。

 そして現場の各チームが「事業部OKR」に沿って「チームOKR」を決め、さらに個人がそれに沿った形でOKRを決める。これが個人の3カ月の目標となる。つまり、トップの決めたことが個人の目標とリンクする。

OKR設定の手順4:進捗の把握と定期的な見直し

 同時に、社内OKR推進チームを作り、同チームがファシリテーターとして、全社にOKR導入を推進していく。毎週そのKRの進捗について、各人に報告させ、達成した時は称賛し、うまくいかないときはやり方を考える。さらに3カ月ごとに大きな見直しを実施し、現場でOKRが実情に合っていない時には変更し、それが上位者のOKRに影響を及ぼすこともある。常に見直しを実施するのがOKRだ。

 これらのプロセスがきちんとできたなら、従業員は、自分の目標とチーム、事業部、会社の目標との乖離がなく、前提条件をしっかり認識できているので、Objective(目標)に向かって迷うことなくまい進できる。

OKRの意義はチャレンジの促進にあり

 OKRでは、目標に達成できなかった場合、評価は「未達」として悪く評価されるのかというと、そうではない。

 OKRには、例えて言えば『現在、「能力100」の人が120の目標を立てて達成したことを評価するより、「能力100」の人が500の目標を立て200までしか到達しなかった。未達だけど十分に伸長したことを評価する』という考え方がベースにある。未達でも高い目標を持ってチャレンジできるようにすることで、組織やチーム、個人の大きな成長を促そうというものだ。その意味では、OKRは「目標に向かい、期待以上の成果を出すことを促すもの」と理解したい。

テレワークの従業員評価とOKR

 本格的なテレワークの導入で経営トップや管理職が悩んだのが「会社のメンバーが何をやっていて、どこに向かっているのか」が見えにくくなってしまったことではないだろうか。同様に従業員もコミュニケーションの問題などで組織全体がどこに向かっているのかが見えにくくなってしまったかもしれない。

 OKRの仕組みはこうしたテレワークの時にも効果を発揮しやすい。各層のOKRがしっかり作られていれば、その進捗具合は社内の共有ポータルなどで各人が確認できる。進捗の共有はWebアプリでもスプレッドシートのようなものでもいい。状況を可視化した上で、Web会議などを介してOKRの決定や進捗の確認、見直しなどを進めていくことができる。

OKRツール4選

 では、OKRを使う際の支援ツールにはどんなものがあるだろうか。移行ではOKR型の目標管理を支援する機能を持つ主要なツールを見ていく。

goalous

製品画像

概要

SNS型目標管理ツール。OKRをベースに、「自発性」「コラボレーションによる一体感」「楽しい」を生み出すことを目的とした独自の目標管理「GKA」(Goal《目標》、KR《Key Result:主な成果》、Action《アクション》)をSNSシステムに取り入れたサービス。日々のアクションや各自の設定したゴールをSNS形式で発信し、進捗報告と併せて、活動報告や相互評価、コラボレーション促進につなげる。

価格/初期費用

1ユーザー当たり980円/月(税別)〜。翻訳機能オプション:1ユーザー当たり300円/月。評価機能オプション:1ユーザー当たり500円/月。

無料版

15日間のフリートライアルあり。

サービス紹介サイト

https://www.goalous.com/intl/ja/

提供会社

Colorkrew

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概要

Excelシートを活用した目標管理ツール。業務で使い慣れたExcelシートで入力が可能なため、定着させやすい。Excelで作成した管理シートに目標を記入し、電子的なワークフローによって申請や評価を実施することで、企業の目標管理を一元化する。シリーズには目標管理の他、人事給与、就業管理がある。

プラン

通常プランの他、既存の目標管理シート(Excel形式)を利用できるGold Eプランがある。

価格/初期費用

標準プラン:1ユーザー当たり100円/月(10ユーザーから)。Gold Eプラン:1ユーザー500円。

無料版

1カ月無料トライアルあり。

サービス紹介サイト

https://workvision.net/hr/solution/mokuhyo.htm

提供会社

WorkVision(旧・東芝ソリューション販売)

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カオナビ

カオナビ カオナビ

概要

顔写真を軸に目標管理や評価、フィードバックの情報などの人材情報を一元的に管理するクラウド人材システム。100人未満の組織から使える。「人材データベース」の他、社員情報ごとのソートや社員アンケート、組織ツリー、配置バランス図などの機能を持つ。オプションで定期的な従業員サーベイや適性検査、採用支援機能なども提供する。

プラン

人材データベースなどの基本機能のみの「データベースプラン」、従業員パフォーマンス機能が利用できる「パフォーマンスプラン」、組織配置検討などの機能を持つ「ストラテジープラン」の3つ。

価格/初期費用

個別見積もり

サービス紹介サイト

https://www.kaonavi.jp/

提供会社

カオナビ

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概要

クラウド人材管理システム。導入後は専任のカスタマーサクセス担当がサポートする。

プラン

価格/初期費用

月額5万9800円から、利用人数に応じて個別見積もり。オプションやサポート費用などはかからない。

無料トライアル

フル機能を2週間利用できる。

サービス紹介サイト

https://www.hrbrain.jp/

提供会社

HRBrain

OKRはツールではなくフレームワークの理解が肝心

ここまでは「OKRの理想通りに導入できれば」という前提で述べてきたが、OKRの導入は組織全体に変化をもたらす。そのため、従業員にどう定着させるかが課題になる。意識改革を含め、定着には従業員向けの研修やトレーニングも必要になる。制度の導入には専門家の助言、サポートがあった方がスムーズだろう。OKR自体は目標管理と評価のフレームワークであるため、スプレッドシートなどの手元にあるツールでも運用できる。だが、それらを管理して運用することを考えると何らかの支援ツールを活用するのが現実的だ。導入に際してコンサルティングなどのサポートを受けられる場合もあるため、OKRに対応した目標管理ツールも活用したい。

 あらかじめ対応したツールであればフォーマットやフレームワーク、目標管理などの機能が付いているので、ガイドに従って導入、運用していけばよいので効率がよい。テレワーク主体の企業ではとくにクラウドで利用できるものが便利だろう。

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