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「クラウドストレージに置き換え」だけじゃない、“脱ファイルサーバ”で考えたい2つのポイント

コロナ禍が訪れてそろそろ1年が経とうとする。サテライトオフィスや在宅勤務を中心としたワークスタイルが一般的になりつつある中で、オフィスでの運用を前提するファイルサーバの運用問題が浮上してきた。そろそろ“脱ファイルサーバ”を本格的に考える時にきている。

» 2021年01月12日 07時00分 公開
[吉村哲樹オフィスティーワイ]

 コロナ禍に伴うテレワークシフトを機に、自社のITインフラの在り方を見直す企業もある。中でも最も目立つのは、「Zoom」や「Microsoft Teams」をはじめとするWeb会議やリモートコミュニケーションツールの導入だが、ここに来て浮上してきたのが、「ファイルサーバにまつわる諸課題」だ。

 コロナ禍以前は、従業員は社内ネットワークに接続し、ファイルサーバを使って簡単にファイルの共有、保管ができた。しかしテレワーク体制へ移行した後は、自宅から直接インターネットにアクセスして仕事をするようになり、社内ネットワーク経由を前提とするファイルサーバのアクセス性や使い勝手に課題が生じるケースが出てきた。

ファイルサーバによるファイル管理、共有の仕組みの限界

 もちろん、自宅からVPNを通じて社内ネットワークにリモートアクセスすれば、社内にいるのと同じようにファイルサーバを利用することも無理ではないが、VPNの接続環境を用意するには少なからず時間とコストを要する。

 近年ではクラウドサービスの業務利用が一般的になってきたため、テレワーク環境からいったんVPNで社内ネットワークにログインするより、直接インターネット経由でクラウドサービスにアクセスする方が、効率が良い。

 クラウドストレージサービスの導入は、単にファイルサーバの機能をクラウドベースに置き換えるだけではなく、ファイルサーバが持っていた欠点や制約を克服し、企業のコミュニケーションの在り方を見直す役割もある。

 もともとファイルサーバは、数人からせいぜい数十人の範囲でファイルを共有することを前提とする。「チームごと」「部署ごと」「オフィスのフロアごと」といったように、比較的小さな単位で設置されることが多い。裏を返せば、全社規模でファイルを共有したり、社外の顧客や取引先と情報共有やファイルのやりとりをしたりといった場合には、向いているとはいえない。

 こうしたファイルサーバの欠点を補うために、これまで文書管理システムやエンタープライズサーチといったさまざまな製品が提供され、これらを導入して全社レベルの情報の可視化、共有を実現した企業もある。しかし、こうした製品を導入するには多くの手間やコストがかかる上、オンプレミスでの運用を前提としたものがほとんどだったため、テレワークを中心としたワークスタイルには決して適しているとはいえない。

 加えて、最近では「Microsoft 365」や「Google Workspace」といったビジネス向けクラウドサービスの業務利用が当たり前になり、これらのサービスを使ってクラウド環境でファイルを共有、管理するケースも増えてきた。そうなると、オンプレミスのファイルサーバをベースとしたファイル管理や共有の仕組みは、ますます時代にそぐわなくなってくる。

 こうした理由から、従来ファイルサーバが担ってきたファイルの保管や共有の役割を、「Box」や「Dropbox」「Microsoft OneDrive」「Googleドライブ」などのクラウドストレージサービスに移管する“脱ファイルサーバ”の動きが見られる。

図1 テレワークの阻害要因上位にある「情報へのアクセス」(資料提供:Box Japan)

脱ファイルサーバにおいて考えたい2つの視点

 脱ファイルサーバを検討する上で念頭に置きたいのが、単にクラウドストレージを「ファイルサーバの後継」「ファイルの置き場所」として捉えるのではなく、もっと俯瞰(ふかん)して考える必要があるということだ。

 「組織内に存在するファイルコンテンツのライフサイクルをどう統合的に管理するか」「社内コミュニケーションをどう変えるか」といった視点をもって考えるといいだろう。クラウドストレージによって、これまでファイルサーバごとに分断されていたファイルを全社共通のプラットフォームで管理でき、サービスの中には全てのファイルを全検索できるものもある。また、ユーザーがファイルを更新した際に過去のバージョンを自動的に保存し、バージョン管理をするサービスもある。さらには、ファイルのアクセス権をきめ細かく制御できるサービスも存在する。例えば、Boxのようなビジネス用途を前提としたサービスは、フォルダやファイル、ユーザーやユーザーグループごとの詳細なアクセス制御を可能とする。

 最近、パスワード付きZIPファイルのメール添付にまつわるセキュリティリスク、いわゆる「PPAP問題」が大きく取り沙汰されているが、これはパスワード付きZIPファイルの運用そのものが抱える問題以前に、ファイルをメール添付でやりとりしなければ情報を共有できない「コミュニケーション基盤の貧弱さ」が問題の根底にある。

 十分なセキュリティ機能が備わったクラウドストレージサービスによって、メール添付に頼らずともファイルを社内外でセキュアにやりとりできるようになる。ポイントは、クラウドストレージサービスは単にファイルの「共有」「活用」にフォーカスするものではなく、こういったコミュニケーションにまつわる諸問題をまとめて解決できるサービス、ということだ。

 例えば、Boxのようなビジネス利用を前提としたクラウドストレージサービスは、単にファイルの置き場所を提供するだけでなく、コラボレーション機能や文書管理機能、セキュリティ機能など、コンテンツ管理や活用にまつわるさまざまな機能を持つ。最終的には、ファイルコンテンツのライフサイクル全般をワンストップで管理できる統合コンテンツプラットフォームの実現を目指しているという。

図2 クラウドストレージはコミュニケーションを「面」で改善する手段(資料提供:Box Japan)

 もちろん、文書管理やコラボレーション、セキュリティといった機能を個別の製品でまかなうことも可能だが、その場合はポイントソリューションを個別に導入、運用する必要があり、導入コストや運用負荷を負担する必要がある。その点、単一のクラウドストレージサービスでこれらの機能がワンストップで提供されれば、最小限のコストや手間でファイルコンテンツのライフサイクル全般を網羅したプラットフォームを実現できる。

 ファイルサーバのリプレース先としてクラウドサービスの導入を検討する際も、単にファイルサーバの代替としての機能だけでなく、「全社規模でファイル共有を効率化するコンテンツプラットフォームの構築」という観点からサービスの機能や将来性を比較検討するといいだろう。

「コミュニケーション」「コラボレーション」「コンテンツ」を併せて考える

 一方、コロナ禍で急速に利用が進んだMicrosoft Teamsに代表されるコラボレーションツールもクラウドストレージや文書管理などの機能を内包しており、これらをうまく活用することでクラウドベースのコラボレーションプラットフォームを構築できる。

 単一のサービスで、Web会議やチャットをはじめとする遠隔コミュニケーションや、文書管理の機能を中心としたコラボレーション、さらには情報やファイルを管理できるコンテンツプラットフォームの機能をまとめて手に入れることができる。

 一見するとお得なようにも見えるが、実際に導入を検討する際には注意も必要だ。コラボレーションツールをうたったサービスの中には、あらゆるファイルが単一のコンテンツプラットフォームで統合管理されているように見えるものの、実は内部的には異なるサービスで別々に管理されているサービスもある。例えば、とあるファイルは文書管理システムのフォルダに管理されている一方、別のファイルはクラウドストレージの中に、そしてあるファイルはチャットサービスのリポジトリに管理されているといったように、一見すると単一のサービスに見えて、実際にはさまざまな場所にファイルが散在し、サイロ化してしまうケースもある。

 そのため、こうしたコラボレーションツールを導入した企業の中には、ファイルを統合的に管理できるクラウドストレージサービスを別途導入し、併用する企業もある。例えば、Web会議やチャットといったサービスはMicrosoft Teamsを利用し、ファイルコンテンツの管理基盤にはBoxを利用し、この両方をうまく連携させて運用するといった具合だ。こうすることによって、それぞれのサービスの強みを生かしながら、包括的なコミュニケーションプラットフォームでファイルを効率的かつセキュアに共有、活用できるようになる。

図3 ポイントは、コミュニケーションツールとコンテンツ管理ツールの特性を理解し、包括的なコミュニケーションを実現すること(資料提供:Box Japan)

 こうした仕組みを構築する際は、ビジネスにおけるコミュニケーションの在り方を、従業員同士が直接会話を交わす「コミュニケーション」、共同作業を行う「コラボレーション」、そして互いの知見やノウハウを共有、伝達する「情報やファイル(コンテンツ)」という3つのレイヤーに分けて整理すると理解しやすいだろう。

 例えば、コミュニケーションのレイヤーにはZoomのようなWeb会議ツールを、コラボレーションにはMicrosoft Teamsのようなコラボレーションツールを、そしてコンテンツレイヤーにはBoxのようなクラウドストレージサービスといったように、それぞれのレイヤーに適した製品やサービスを選んで互いにうまく組み合わせることができれば、全体としてバランスのいいコミュニケーションの基盤を作り上げることができるだろう。

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