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採用人材の定着をコロナ禍でも成功させる3つのポイントとは?

労力もコストもかけて採用した人材が定着せず早々に離職してしまう。企業にとって大きな損失だ。人材が採用しにくい時代だからこそ、人材に選んでもらえる企業にならなければならない。ポイントを人事の専門家に聞いた。

» 2021年03月08日 09時20分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 人材採用には相応の時間と労力、そして費用がかかる。だからこそ苦労して採用した人材が会社になじめず、短期間で離職してしまうことは大きな損失だ。入社した人材がスムーズに業務に入っていけるように支援することを人事用語で「オンボーディング」と言う。

 人事の専門家は、コロナ禍によって求職者が会社に求めるものが変わり始めたと指摘する。オンボーディングの考え方や手法も時勢に適したものに変化させざるを得ない。旧態依然では新規採用人材の定着につながりにくい上に、企業の存続に関わる大きな悪影響を生み出しかねない。オンボーディングを成功させるための3つの重要なポイントを解説する。

本稿は「Activate HR2020→2021」(主催パーソル)における、RECOMO 橋本祐造氏の講演「コロナ禍における定着・オンボーディングの役割と施策 ー人事としてすべきことと、その可能性ー」を基に、編集部で再構成した。


一律採用、一律育成からの脱却の第一歩とは?

 数年前までは一律の基準で人を集め、同様の手法で育成することが人事戦略の基本概念だった。現在は母集団をどう集めるかではなく、求職側が会社を選ぶ時代に変わっている。「会社と人、あるいは経営と現場のエンゲージメントが重要だ」という言説も聞く。だが「何から取り組んだらいいのか」を模索する企業も少なくない。

 RECOMOの橋本祐造氏(CEO兼CHRO)は次のように指摘する。経営者や人事担当者は、人事戦略を決める前に「あなたにとって人材とはどんな存在なのか?」「社員にとってあなたの会社はどんな存在なのか?」に対する答えを持たなければならない。なぜならば、この2つの問いに対する答えが企業と求職者、新入社員とが歩み寄り、相互理解を促す第一歩になるからだ。

 人事戦略では、採用から始まり定着、育成、キャリア開発、組織活性化、退職、再参画までのステージごとに適切な施策が必要だ。そこには全体を貫く統一的なポリシーが求められる。

人事戦略マップ 人事戦略マップ(出典:RECOMO)

 「人と企業、経営と現場の全ての接点はつながっている。人事戦略は、オンボーディングなど個別に考えるのではなく、そもそものポリシーをベースにしないとしらけてしまう。個人面談、サーベイ、1 on 1、フィードバックなどの手法はいろいろあるが、手法を選ぶ前にまず上述の質問への答えを見つけるべきだ」(橋本氏)

採用した人材が定着しないことが生み出す、目に見えない「コスト」

 オンボーディング施策が機能しないと人材が定着せず、早期離脱を招くことになる。橋本氏は、採用費が無駄になるだけでなく、会社の存続に悪影響を及ぼす「目に見えないコスト」があると指摘する。

 採用業務に関わるコストや教育に関わる費用は、明らかなコストとして実感できる。それよりも業務を引き継ぐ予定だった人材が退職することでノウハウが伝承できなくなることの方が事業継続に関わる。しかも教育担当社員には離脱した人材の業務が戻ってくるので業務負荷が一段と増大する。教育担当社員の退職につながるリスクも高まる。

 人材の離脱が招く「心理的コスト」の影響も大きい。「従業員は、特に同期入社の人が辞めたときに人は不安を感じる。連鎖退職が生じることもある。声を挙げずとも従業員は離職に対する会社の姿勢を見ている。その印象が悪ければ『自分もいつかそうなるかもしれない』という不安につながる」(橋本氏)。

  • 採用業務に関わるコスト
    • 面接官の時間コスト(数次)
    • 会議室の賃料
    • やりとり、調整に関わる時間コスト
  • 教育関連のコスト
    • 教育を担当した社員の人件費(数カ月分)
    • 歓迎会にかかったコストと人件費
    • ノウハウの伝承ができなくなるコスト
  • 心理的コスト
    • 人が辞めると想像以上に不安を感じる
    • 会社の「人の辞めさせ方」によって不安が増大

人材定着率を上げることの3つのメリット

 離職による従業員の不安を払拭(ふっしょく)するためにも、採用人材の定着率を上げることが重要だ。会社を存続させるためにも一定の新陳代謝はあった方が良い。橋本氏は、定着率を上げることが生み出すメリットを3つ挙げる。

  • 採用費をかけてもリターンを期待できる
  • 教育コストはどんどん下がる(教える人が成長する)
  • 社内の雰囲気がどんどんよくなる(心理的安全性が生まれる)

 定着率が上がれば採用費や教育コストは相対的に低下する。経験を積みスキルが上がれば新人に対するサポート力も上がる。社内の雰囲気が良くなり、安心して仕事ができる職場になっていくことが期待できるというわけだ。

コロナ禍以降、入社意義の再定義が必要になった

橋本祐造氏 RECOMOの橋本祐造氏(CEO兼CHRO)

 日本の人口は約1.2億人だが、2060年ごろには約8600万人にまで減る。労働人口は6400万人、法人企業数は約170万社なので1社当たり37.6人が働いている計算だ。40年後の労働人口は4150万人にまで減少するので単純計算で1社当たり24.4人となる(国立社会保障・人口問題研究所の予測)。橋本氏も「これでは170万社全部は生き残れない」と言う。

 人材が採用しにくい時代だからこそ、人材に選んでもらえる企業にならなければならない。橋本氏は「『1社のために』働きたい人より『社会のために力を尽くしたい』人が増加している」と分析する。会社に入ることが目的ではなく、会社での仕事を通して自己実現や社会貢献をしたいという思いが強い人に対し「この会社に入社することでどう社会に力を尽くせるのか」を定義する必要がある。

 今後は、週5のフルタイム出社が当たり前でなくなる可能性がある。1人が社内外の複数のプロジェクトに関わり、リモートワークによって国内外問わずに人が交流する社会も予想される。のようなトレンドの中で、どのようなオンボーディングが適切なのかを真剣に考える時期が来ている。

オンボーディングを成功させるポイントとは?

 橋本氏は、採用人材の定着を成功させるポイントを3つ挙げる。それぞれに「企業としての回答」を準備することが大切だ。既に回答を従業員だけでなく社外に向けて発信している企業もある。優秀な人材を定着させるには、入社前のアプローチが重要だ。企業の価値観やミッション、ビジョン、行動指針だけでなく、経営戦略や人事戦略まで伝え、求職時に「その会社で働く意味」を見いだしてもらえるようにすることだ。

  • 「自分たちは何者なのか」を社内外にメッセージや施策として伝える
    • なぜ自分たちはこれをやっているのか?
    • 自分たちが大好きで、どうしてもやりたいことは何か? 何を捨てるのか?
    • 強みは何か? 弱みや不足していることは何か?
  • 「自分たちはどこに向かっているか」を明確に可視化する
    • 3年、5年、10年、30年、100年咲の未来のありたい姿・状態は?
    • 社会的なポジションは?
    • 売上は?(いつまでに、いくら)
    • 組織体制は?
  • 「自分たちはどうありたいのか」を定義する
    • 大事にしたい価値観は何か?
    • ミッション、ビジョンを実現する行動指針は何か?
    • どんなカルチャー(文化)にしたいのか?

オンボーディング事例に「答え」は存在しない

 こうしたポイントを押さえた上で、どのようにオンボーディングを推進すればよいのだろうか。橋本氏は「人事戦略は他社事例をそのまま入れても魂が入らない。必ず自社で戦略を練らなければ機能しない」と断言する。その前提に立ち、ウェディングサービスを提供するCRAZYの事例を紹介した。

 一般的にウェディングサービスといえば、新郎新婦から会場や料理などの要望を聞き、予算に見合ったプランを提案するものだ。しかしCRAZYは、顧客に「そもそもなぜ結婚式をしたいのか」「今まで何を大事にしてきたのか」「結婚して実現したいことはどんなことか」を尋ねることから始める。顧客の価値観にかなうことを心掛けているのだ。

 この手法を人材定着にも適用している。それが「ライフプレゼンテーション」だ。入社者は10分間のプレゼンテーションで「なぜ働くのか」「自分は何を大事にしているのか」を紹介する。専任の「バティ」が1人付き、約1〜2週間をかけてプレゼンテーションを準備する。

 生まれてからこれまでどんな出来事があって、どう変わってきたのか。大切にしていることは何か、どんな未来を作りたいのか。徹底して話し合い、3度のプレゼンテーション練習を経て磨き上げていく。橋本氏は「このような取り組みが同社の組織文化を創り、会社のカルチャーを描いていく」と評価する。

 最後に橋本氏は、自社ならではのオンボーディング施策を作り上げることの重要性を指摘し、「ここがダメだからウチの会社はダメだと言うのでなく、自分たちが変えるんだという覚悟と実行が大事だ。志を高くもち、人の領域から組織を、会社を、社会を一緒に変えていきましょう」と呼びかけて講演を終えた。

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