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投資意欲の高い産業用ネットワーク機器の最新動向

産業用ネットワーク機器は工場やプラント内などで利用され、一般的なオフィス向け製品と比べて耐環境性能が高い。IoTの進展によって成長を続ける国内産業用ネットワーク機器の動向について見ていきたい。

» 2021年03月24日 15時30分 公開
[草野賢一IDC Japan]

アナリストプロフィール

草野賢一(Kenichi Kusano):IDC Japan コミュニケーションズ グループマネージャー

国内ルーター、イーサネットスイッチ、無線LAN機器、ADC(アプリケーションデリバリーコントローラー)、SDN、NFVなど国内ネットワーク機器市場の調査を担当。ベンダー調査に加え、ユーザー調査やチャネル調査にも携わり、それらの調査結果をベースに、国内ネットワーク機器市場の動向を検証、市場動向の分析および予測を提供する他、さまざまなカスタム調査を実施している。IDC Japan入社前は、エンジニアとしてユーザー企業のネットワークの設計、構築を担当。商品企画にも携わる。

一般的なネットワーク機器と何が違う? 産業用ネットワーク機器とは

 工場をはじめ、プラントや輸送機器などオフィスとは異なる環境で利用される産業用ネットワーク機器。産業用ネットワーク機器は、一般的にオフィスで利用されるスイッチやルーターなどの一般用企業向けネットワーク機器に比べて環境性能が高いことが大きな違いの一つだ。

 動作環境については、下はマイナス40度から、上は60〜70度に対応しており、0度から40度ほどの一般用企業向けネットワーク機器に比べると過酷な環境に耐えられる仕様を備えた製品がその中心だ。低温でも快適に動作できるようヒーターが内蔵されていたり、高温に対応するために放熱性能を高めていたりして、筐体そのもののサイズが大きなものが多い。中には爆発性ガスが発生するような化学薬品を扱う現場に設置できるように防爆仕様を備えたものも存在する。

 機器のライフサイクル面でも、一般用企業向けネットワーク機器との違いがある。5年ほどが通例の一般用企業向けネットワーク機器よりも長く、産業用機械など接続する機械の耐用年数に合わせて、10年もしくはそれ以上のライフサイクルで運用できる仕様となっているものが多い。

 使用環境が大きく異なるだけに、一般用企業向けネットワーク機器を提供するベンダーとも顔触れが異なっているのが実情だ。シスコシステムズやアライドテレシスのような一般用企業向けネットワーク機器に強いベンダーもあるが、産業用向けに特化したベンダーも少なくない。それぞれ出自は違うものの、ドイツに本社を持つPhoenix ContactやHIRSCHMANN、そして台湾のMOXAなどが産業用ネットワーク機器では著名なところだろう。

二桁成長から一転、2020年における成長率

 2020年度における産業用ネットワーク機器の市場は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響から新たな工場への敷設や既設プラントでのネットワーク刷新プロジェクトなどが停滞し、2020年の見込みとして年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)で2.2%とわずかな成長にとどまった。

 経済的な見通しが不透明な状況の中で、新たな投資の先送りが目立ったのが2020年だったと言える。それでも現在の経済状況の中ではプラス成長を維持している市場だ。実は2019年度は19.6%と大きく成長するなど多くの企業が積極的な投資を続けてきた領域であることは間違いない。

 そもそも工場やプラント内にある産業用機械はネットワークに接続されていないケースが多かったものの、昨今のIoTや設備同士をつなぐM2Mといったネットワーク接続のニーズの高まりから、工場におけるネットワーク環境の整備が活発に行われてきた。また、同軸ケーブルなどイーサネットとは別のテクノロジーでネットワーク環境が整備されてきた現場を、新たにイーサネット系のテクノロジーをベースにしたネットワークに刷新するというニーズも根強い。

 そんな背景から、2018年に引き続き2019年も二桁成長を維持してきたのが実態だ。いずIoTを自社のビジネスにどう生かすのか企業によって取り組みの違いはあるものの、少なくともネットワークにつなげて情報を取得し、それを生産性向上やビジネスに生かしたいという需要は、現在でも高まっていることだろう。

 産業分野別では、自動車に代表されるような組立製造業が市場規模的に最も大きく、次いでプロセス製造業となっており、製造業を中心に市場が形成されている。2020年でマイナス幅の大きかった産業では、鉄道などが含まれる運輸業がマイナス10%ほどとなっており、外出自粛や移動制限が続く中で業績的に厳しい産業分野だけに投資の抑制が顕著となっているようだ。

 そのマイナスを下支えしているのが、1〜2%ほどの成長率となった組み立て製造業やプロセス製造業などの産業分野という構造だ。例外的な扱いながら、官公庁や自治体なども成長率の下支えに寄与しており、一部国際的なスポーツイベントの会場整備の過程で産業用ネットワーク機器が数多く導入されたこともトピックの一つとなっている。

回復が見込まれる2021年以降の市場予測

 2020年は大きな影響があったものの、産業機器のネットワーク化に対する必然性は揺らいでいないと考えており、2021年以降は市場の回復が見込まれている。2021年の前年比成長率は7.8%と予測しており、その後も同程度の成長率を維持していくことで、2020年〜2025年の年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は7.0%と安定した成長になると予測している。

国内産業用ネットワーク機器市場売上額予想 (出典:IDC Japan)

 産業用ネットワーク機器は、主にイーサネットスイッチやルーター、そして無線LAN機器が主なターゲットになっており、市場の中心は現在でも工場内に数多く設置されるスイッチがその中心にある。

 その傾向は今後も変わらないと見ているが、2021年以降で大きな成長が期待されるのが無線LANの領域だ。一般的なオフィス同様に、工場やプラントなどの現場でも無線化の取り組みが試行されており、高い成長率が見込まれることだろう。具体的なCAGRで見ると、無線LANは30.8%という高い成長率と予測しているのが現状だ。

 用途の面でも無線LANは現場に設置しやすい。スイッチ自体は産業用機械の導入に合わせて設置されることが多く、耐用年数も10年を超えることから頻繁に導入されるものではないが、無線LANはタブレット利用に活用するなど、産業用機械とは独立したプロジェクトとして展開されるケースが多い。現場に展開しやすい点も大きな成長率につながる要因だと見ている。

 なお、現在は予測に含めていないが、サプライチェーンに多大な影響を与えたCOVID-19の余波で、生産工場の海外移転や国内回帰など、製造業のサプライチェーン戦略が大きく変わる可能性が考えられる。今後どのように展開するのかによって、国内における産業用ネットワーク機器市場に影響が出ることは十分考えられるだろう。

ネットワークの高度化とローカル5Gの動きに注目

 産業用ネットワーク機器市場においては、2021年以降も産業用機器のネットワーク化が進むことになるが、大きな成長要因となり得るのがネットワークの高度化だ。単につながるだけのシンプルなOTネットワークが中心だった状況から、ゲートウェイを介してITとOTをつなぐことで情報活用の頻度を高め、生産性向上や新たな価値創造につなげていきたいと考える企業が増加している。

 そのため、従来のレイヤー2のスイッチでつなげるだけの環境から脱却し、これまでIT側で実装されてきたネットワーク管理や監視の仕組みも含めレイヤー3以上の技術を取り入れるなど、ネットワークの高度化がこれまで以上に求められる。L2スイッチに管理機能が付いた製品や高性能なL3スイッチが増えていることからも、スイッチ自体の単価アップによって市場全体が押し上げられると見ている。

 一方で、市場の阻害要因として考えられるのは、産業用機械やプラント設備の長期的なライフサイクルに合わせた耐久性能が産業用ネットワーク機器にも求められるため、短い期間での刷新需要が生まれにくいことだろう。また、無線LANと比較される機会が増えてきたローカル5Gへの取り組みなど、物理的な有線ネットワークを敷設せずにネットワーク接続できる環境が整いつつあることも阻害要因の1つとなり得る。

 ただし、ローカル5Gは現在も実証実験レベルが多く、大手企業が自社の工場などに展開するのも2022年度以降と見ており、影響が出るのであれば予測した5年間のうちの後半になるだろう。

 また、産業用機械内にローカル5Gの通信モジュールが組み込まれるわけではなく、まずは工場内の有線ネットワークまたは無線ネットワークからゲートウェイを介してローカル5Gとの接続が始まり、その後設備外付けの通信モジュールでローカル5Gの通信が行われていくというステップを踏むはずだ。

 その過程で、通信の安定性やスループットの状況を判断し、安定稼働が可能かどうかの検証を企業側で判断することになるため、多くの企業がローカル5Gを利用するのはまだ先になるだろう。そして、通信の確実性などから、既設のネットワークとローカル5Gをはじめとした無線環境は当面すみ分けが進むことになると予測している。

産業用ネットワーク機器にまつわる動向

 数多くの出荷が見込める一般用企業向けネットワーク機器と比べて、産業用ネットワーク機器は出荷数自体が小さく、グローバルにビジネスを展開していかないと出荷数が伸びないため、新規ベンダーが参入するケースは少ないと言える。

 製品動向で見ると、最近ではイーサネットを拡張した「TSN(Time-Sensitive Networking)」が産業用の通信プロトコルに採用され、TSNに対応した産業用ネットワーク機器も増えている点が注目されるところだ。

 TSNを使うことで時刻同期が可能になり、工場系の制御を時刻と同期しながら動かすといったことが実現できる。実は産業用の通信用プロトコルとして国内で幅広く利用されているCC-Link IEが2018年にTSNに対応した仕様を策定したことで、TSNへの期待が高まっている状況にある。

 他にも、各ベンダーとも管理機能付きのスイッチに注力し始めており、製品のバリエーションを増やしながら使い勝手の高い管理ソフトウェアを提供していることも新たな動向として注目したい。

 特にシスコシステムズはネットワークの可視化や自動化に向けて「Cisco DNA Center」などの管理ソリューションをITネットワークに提供してきたが、その環境をOTネットワークにも広げてネットワーク管理の強化を進める動きもある。今後も産業用ネットワーク機器に対する管理ソリューションが充実していくことになるだろう。

産業用ネットワーク機器導入に必要な“OTとIT”の歩み寄り

 産業用ネットワーク機器の市場については、これまでOTネットワークを検討する生産技術系の担当者が環境整備を実施することが多かったが、これからITとの融合が進むことでIT領域のネットワークエンジニアもその領域に関与せざるを得ない状況も考えらえる。

 特に製造業においては、工場に所属する生産技術部門が主導することもあり、IT部門がどう関与できるのかは企業によって異なるだろう。それでも成熟しつつあるITネットワークとつなげていくことを考えると、ITの基準でOTネットワークを管理することが必要になるはずだ。

 ネットワークの専門家であるITのネットワークエンジニアが、現場独自に利用されてきたプロトコルやアプリケーションの違いをしっかり理解したうえで、役割分担も含めて考える必要がある。技術的な違いだけでなく、製造ラインを止めないことを重視する製造現場とはマインドセットが異なるため、カルチャーの違いも含めてうまく分担できるかが重要になるのは間違いない。

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