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システム更改の救世主となるか「第三者保守サービス」でできること

企業が業務基盤として導入したサーバやストレージ、ネットワーク機器などのハードウェアは、約5年のスパンでメーカーサポートが切れる。しかし、更改のタイミングで保守延長を期待するケースもあり、そのニーズに応えてくれるのが、EOSL(End of Service Life)後もハードウェア保守を可能とする「第三者保守サービス」だ。

» 2022年03月07日 07時00分 公開
[酒井洋和キーマンズネット]

「メーカーのEOSLがきても更改したくない」そんな時どうする?

 多くの企業では、業務に活用する基盤となるサーバやストレージ、そしてネットワーク機器などを導入し、それぞれ自社の環境に応じたシステム基盤を整備する。これら導入機器に対するハードウェア保守は、主に機器を納入したSIerや製造したメーカーなどとの間で保守契約を締結することが一般的だ。

 各種IT機器は精密機械であり当然ながら経年劣化するため、メーカー側で保守可能な期間が定められる。機器の種類によって期間は異なるものの、おおよそ5年ほどのスパンでEOSLを迎え、その後はベンダーからの支援が受けられなくなり、最終的には機器のリプレースを余儀なくされる。

 そのため、機器更改に合わせてITの投資計画を事前に検討し、更改時期にシステムの入れ替えを検討することになるが、「業務アプリケーション自体を継続して利用したい」というニーズが出ることもある。今では仮想環境上に業務アプリケーションを展開して、ハードウェアに依存しない基盤づくりも増えたが、メーカーが掲げるEOSLのタイミングと自社がシステム更改できるタイミングがずれ、せめてあと1〜2年は何とか継続して利用したいというニーズもある。また、新たな基盤づくりへの投資は進めたいが、現状環境には大きな投資をせず、少しでも塩漬けして最小限の費用で環境を維持したいというニーズもあるはずだ。

 そこで、メーカーによるEOSLを迎えた機器に対して、第三者が代わりにハードウェア保守を一定期間提供してくれるサービスがある。それが、第三者保守サービスだ。

レガシーの延命策 第三者保守サービスとは?

 第三者保守サービスは、基盤システムを構成する主要な機器の保守サービスをメーカーに代わり適正価格で提供するサービスで、その対象となるのはEOSLとしてメーカー保守期限の切れた機器だ。

 海外ベンダーの中には新規導入した機器もサポート範囲に加えるものもあるが、日本で展開する多くの第三者保守サービスは、EOSLを迎えて新たなサービスパッチなどが提供されない機器に対して、事業者が保有する保守部材と技術力を駆使して、メーカー並みのハードウェア保守を維持するものが中心だ。

 一般的にハードウェアは、製品リリース後にパッチなどが提供され、新品で導入しても機器内部のOSに関して修正が加えられることもある。メーカーでないとプロセッサ内部の処理が可能なマイクロコード含めた領域に触れるのは難しい。その意味では、第三者保守サービスは、枯れた環境にある機器を中心に、メーカーサポートが切れた後でも部材交換などで機器の正常性の維持を可能とする。

 第三者保守は、EOSLを迎えたハードウェア保守を少しでも延長したいエンドユーザーはもちろん、大規模なシステムを導入してマルチベンダー環境で一手に保守を請け負うSIerなどからの需要が高い。

 具体的な活用例を挙げると、顧客に提供するネットワークサービス基盤を運用管理する通信事業者は、4Gから5Gへの移行が進み新たな投資は5G関連を中心にしたい一方で、移行の過渡期にある4G関連の機器は維持しなければならない。そこで、EOSL後には新たな機器を導入するよりも、第三者保守サービスの利用を選択し延長保守する。

 また地方銀行を中心に業界再編が進んでいる金融機関の例では、合併などでシステム統合した場合、新たな環境づくりを進めながら既存環境の一時的な維持が求められる。時限的な措置としてハードウェアのEOSL後に第三者保守サービスを利用する。

 業界によって事情は異なるものの、EOSL後も継続してハードウェア保守を希望する顧客の貴重な受け皿になるのが第三者保守サービスだ。

第三者保守サービスのメリット

 第三者保守サービスにおける最大のメリットは、EOSLを迎えた機器であっても、第三者の力を借りてハードウェア保守が延長できることだ。

 ハードウェア保守を延長して本来の付加価値創出につなげるべくIT投資へのコストが捻出できるのは大きなメリットの1つだ。日本の場合、既存環境の運用保守費用にIT予算の多くが割かれてしまい、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進など本来積極的に投資すべき領域に投資できていない企業が多い。第三者保守サービスを利用すれば、更改に掛かる大きな投資を抑制しながら既存の保守費用をおさえられ、新しい施策展開への予算が捻出可能になる。コスト削減によって得られた費用を、付加価値を生み出すための原資に充てられるようになる。

第三者保守サービスのメリット

 また、まだ利用できる環境にあるものをできるだけ長く利用するという視点で見れば、持続可能な社会を実現するための開発目標「SDGs」や、企業経営のサステナビリティを評価する指標として投資家が注目する「ESG」などに取り組む姿勢もアピールできる。環境経営として社外的にアピールできる点も、第三者保守サービスを積極的に活用するメリットの1つだろう。

 昨今では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で半導体不足が世界的に広がり、ネットワーク機器を発注しても納品が1年後になってしまうケースも発生する。そのためEOSLによる機器更改のタイミングに調達が間に合わないという事態も現実的に起きている。既存製品を使い続けざるを得ない今こそ、企業の課題に応えるソリューションとしても注目される。

第三者保守サービスって本当に大丈夫なの?

 メーカーのハードウェア保守の切れた後でもメーカー同様のサポートが受けられる第三者保守サービスだが、品質面や部材の調達方法など気になる点もあるだろう。ここで具体的な第三者保守サービスの概要について見ていきたい。

一般的なメーカー保守サービスとの違い

 第三者保守サービスは、基本的にはハードウェアに関連した保守を手掛けており、保守対象となるメーカーおよび機種ごとのパーツを自社倉庫にて保有する。ハードウェア故障が発生した際は第三者保守事業者のコールセンターが受け付け、ログなどの情報から故障した部品などを特定して技術員がパーツを持ち現場に向かい、その場で部材交換を実施する。一般的なメーカーのハードウェア保守と同様のサポートになるが、EOSLを迎えた製品が対象となるため、センドバック保守による新品交換はできない。

 今回取材したデータライブは、専用の備蓄倉庫に80万点を超えるパーツを備蓄しており、サーバやネットワーク機器など本体そのものが5万4000台超、パーツだけでも1万4000を超える種類が保管される。HDDやNIC、HBAなど各種部材そのものは中古市場から調達するためそれぞれコンディションが異なる。そこで、どの機種でどのように利用されていた部材なのか、膨大なデータベースを自社にて構築し、各パーツをトレーサビリティーで個体識別管理する。

データライブの専用備蓄倉庫(提供:データライブ)

 保守可能なエリアも事業者によって異なるが、実際には全国展開するメーカーやSIer向けのサービス拠点と連携するなどパートナーとの連携を強化して幅広いエリアにサービス展開する事業者もある。

障害の特定にはノウハウあり

 ハードウェアの交換が中心となる第三者保守サービスだが、障害が発生した際の切り分けはどうするのだろうか。

 EOSLを迎える前であれば、障害発生時にメーカーやSIerのエンジニアが問題を特定するが、EOSLを迎えている製品だけに、メーカー側の支援は望めない。第三者保守サービスの場合、事業者が設置しているコールセンターに障害報告があった段階で、切り分けに必要なログをユーザー側が取得し、そのログを基に第三者保守ベンダーが独自のノウハウで解析を進めて、問題を特定する。当然ながらメーカーや機種ごとの切り分けノウハウが重要だが、保守可能な機種は事前にそのナレッジを確立させており、ハードウェアに起因するかどうかの見極めは可能だ。

 ただし、ログそのものが取得できないような障害の場合は、現地にエンジニアが赴いて切り分けを実施する。その場合も、ハードウェアのアテンションランプの状態を確認したり、現場にあるブートディスクを使ってうまく切り分けたりなど、切り分けノウハウが必要となる。第三者保守サービス事業者が全て同じ品質で対応できるかどうかは未知数だが、メーカー支援が期待できないEOSL後の機器だけに、第三者保守事業者の力量が問われ、サービス選択の重要なポイントとなる。

世界に数台の部材を求めて 保守に必要な部材の調達方法

 新品の部材はメーカーが市場にほとんど供給しないため、基本的には中古市場から調達し、社内で保守部材として活用できるかどうかのチェックをしてストックする。国内外の中古市場はもちろん、企業やSIer、リース会社にてリースアップした機器を大量に購入して必要な部材を確保する。

 市場での流通量が少ない製品など、案件ごとに調達に動く場合もあり、部材が調達できるかどうかが契約締結のカギとなってくる。例えば、とあるベンダーの暗号ディスクは、市場には数台程度しか流通しておらず、依頼段階では部材のストックが存在していなかった。そこで、グローバルで探したところ、香港の中古市場でその部材と思しきものを発見、実際に調達してみたところ、ラベルだけ張り替えられた偽物だったという苦労話もあるほどだ。そんな部材調達のノウハウや備蓄するパーツの種類・量などは、サービス選びの重要なポイントだろう。

 なお、サーバやストレージ、ネットワーク機器のなかでは、ネットワーク機器に関連した部材数が最も多い。サーバは数台規模で導入している企業でも、ネットワーク機器の台数は数十台規模に及んでおり、台数的にはネットワーク機器が多い傾向にある。特に2022〜2023年にかけては、多くのネットワーク機器ベンダーの製品が大量のEOSLを迎える予定で、ネットワーク機器に関連した問い合わせが増えている。

第三者保守の利用、メーカーやSIerとの関係性は良好に保てるのか?

 EOSLを迎えた機器は、当然ながら更改のタイミングとなるため、メーカーやSIerにとっては新たなソリューションを提案する絶好のタイミングであることは間違いない。第三者保守サービスは、EOSL後も既存環境を継続利用できる受け皿として機能するため、メーカーにとって貴重なビジネスチャンスを逸してしまう可能性もある。その意味では、メーカーやSIerにとってみれば、第三者保守サービスは“煙たい存在”として見られることもあるという。

 ただし、メーカーのなかには自社製品だけでなくサードパーティー製品も含めて保守を請け負うマルチベンダー対応を取るところもあり、協業してビジネスを推進するケースも実際にある。大規模システムの保守を請け負うSIerからしても、一部の機種でEOSLを迎えたからといって全ての環境を入れ替えることが難しく、その場合は第三者保守サービスを有効に利用する。

 メーカー側からすると「せっかくの売り時に邪魔しやがって」というのが本音だが、SIerは第三者保守サービスを利用すれば顧客の期待に応えられるケースも多く、顧客とのエンゲージメントを高めるための手段としてうまく利用する場合も多い。

部材の品質はどう担保するのか

 中古市場から調達した部材を利用した再生パーツが保守部材の中心となるため、新品の製品に比べて品質的に問題ないか不安に感じる方も少なくないだろう。品質に関しては、実際に備蓄倉庫などに足を運んで作業フローや管理体制などを確認しての判断が必要だが、各種部材を検査する装置などは新品を製造するメーカーと同様のものを利用するなど、品質チェックにおいては十分に配慮される。

 頻繁に故障するものでよく挙げられるのがHDDだが、データライブではHDDを製造するメーカーと同じ検査機器を利用し、かつ新品の基準よりも厳しいパラメータを設定したうえで検査に臨んでいる。厳しいパラメータ設定のため、実際に調達した中古品のおよそ3〜4割は基準に満たない製品としてストックされないなど、厳格な検査基準を設ける。

 事業者によって検査体制やそのポリシーは異なるため、一概に品質の良しあしは判断できないものの、実績を踏まえて判断する必要がある。なお、新品では1%ほどの故障率とされているが、データライブの実績では故障率は0.3%以下と新品よりも低減できている。

第三者保守サービス、実績が選択の大きなポイント

 第三者保守サービスを利用する際には、自社が保守を依頼したいメーカーおよび機種に対応しているかどうかを確認することになるが、ようは保守に必要な部材が確保できているかどうか、そして保守し続ける技術力があるかどうかが重要になる。

 対応するメーカーや機種の数は事業者側のHPにて紹介されており、実際に機種を軸に対応可能かどうか確認できるため、この段階で選択肢となり得るかどうか判断できるはずだ。また、技術力については客観的に判断が難しいところだが、確認すべきはその導入実績を参考にしたい。業界によっても使い方や保守対応が異なってくるため、自社と同じ業界で同様の機種を保守した実績があるかどうかを見て、その技術力の高さを判断することも可能だろう。実績の把握や保守に関連したナレッジベースがしっかりと構築されていれば、問い合わせ時のレスポンスも迅速なはずだ。

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