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コインチェックが96%の業務工数削減、「RPAではなくiPaaSを使いたかった」

コインチェックは、暗号資産取引のモニタリングに「Workato」と「Google Cloud Natural Language」を活用し、業務工数を約96%も削減した。プログラミング知識がない法務部門が主導したという。

» 2022年06月08日 14時47分 公開
[指田昌夫キーマンズネット]

 近年、「iPaaS」(Integration Platform as a Service)という用語を頻繁に耳にするようになった。iPaaSとはオンプレミス、クラウドの別を問わず、APIを利用して複数のアプリケーションのプロセスやデータを連携させるクラウドサービスを指す。

 業務を一気通貫で自動化する「ハイパーオートメーション」の盛り上がりとともに、それを実現するツールの一つとして注目されるようになった。

「RPAではなくiPaaSを使いたい」に隠されていた思惑とは?

 iPaaSを利用している企業にコインチェックがある。「RPAではなくiPaaSを使いたいと思っていた」と語る同社は、暗号資産取引のモニタリングに「Workato」を活用し、業務工数を約96%も削減した。その他にもさまざまなメリットを得られたという。

 同社の河石 良太郎氏(システム運用管理部)は、Google Cloudが開催した「Google Cloud Day 2022」に登壇。Workato日本代表の鈴木浩之氏とともに、iPaaSのメリットやコインチェックの取り組みを紹介した。

 Workatoは2013年に米国シリコンバレーのマウンテンビューで設立されたiPaaSベンダーだ。2021年には日本法人も設立され、日本の業務自動化市場で認知度を上げている。

 同社が提供するiPaaS「Workato」は複数のアプリケーション連携を実現する機能を提供する。業務プロセスをつなぐワークフロー作成機能や、ワークフロー内でやりとりされるデータの連携機能、チャットbotをユーザーインタフェースとしてワークフロー内に実装する機能、大規模データを高速にデータウェアハウス(DWH)と連携するためのETL/ELT機能、APIマネジメントの機能がその例だ。

 「Workatoは一部門の業務プロセスだけでなく、部門や企業をまたいだプロセスの連携に用途を広げることで効果を発揮します。現在の業務プロセスに固執せず、最も効率的な業務の進め方は何かを考えて業務改革を実行することが重要です」(鈴木氏)

 Workatoのユーザー企業は世界で1万1000社を超え、日本でも約70社で導入されている。スピード重視の経営をするベンチャー企業と、グローバルに事業を展開する大企業から引き合いが多い。

図 Workatoのユーザー企業(出典:Workatoの発表資料)

GoogleのAIとWorkatoを連携させ、業務の96%を自動化

 コインチェックでは、2021年4月にWorkatoを導入した。Workatoを選定した理由として、河石氏は「現場主導による業務自動化を実現したいが、RPAよりもiPaaSを使いたいと思っていた。チャットを利用して開発できるChatopsの考え方にも共感した」と話す。

 PC画面の操作ボタンや入力項目の位置を認識してデスクトップ作業を自動化するRPAに対し、iPaaSはPC画面を介さずAPIを通じてデータを連携させることから、組織をまたいだ業務に適応しやすいともいわれる。

 同氏によれば、Workatoは「Google Apps Script(GAS)」と比較されることも多い。GASとは、「Gmail」や「Google カレンダー」「Google ドライブ」といったGoogleのサービスを連携させ、業務フローを自動化するツールだ。だが、Workatoはノーコードで利用できる点が大きく異なるという。

 「GASが書けない従業員でも、Workatoを使ってシステム連携のスキルを身に付けられると期待しています。一方、GASが書ける従業員は、自動化シナリオの開発スピードの早さ、Google以外とのサービス連携のしさすさといったメリットを享受できています」(河石氏)

 コインチェックは現在、Workatoを情シス、法務、人事労務、経理、カスタマーサポートなどのコーポレート部門で利用している。自動化シナリオは17本、接続しているSaaSは27に及ぶ。セッションでは、その中からGoogleの自然言語分析サービス「Google Cloud Natural Language」を使った自動化シナリオが紹介された。暗号資産取引時にユーザーが会話するチャット内で、誹謗中傷や価格操縦に関するものがないかを自動でモニタリングする。

 なお、Google Cloud Natural Languageのサービスは3種類あるが、同社は「Auto ML」と「Natural Language API」を利用している。事前準備として、まずは会話内容を「OK」「NG」「保留」に3分類するルールをCSVファイルにまとめ、この教師データをAuto MLにアップロードしてコインチェック独自の分類器を作った。

 自動化シナリオでは、チャットに投稿された会話データを、Google Cloud Natural Languageに送り、作成した分類器で評価する。次に、その評価データをGoogle スプレッドシートとデータプラットフォームの「Treasure Data」に保存している。

図 自動化シナリオのフロー(出典:コインチェックの発表資料)

 河石氏によれば、このシナリオによる業務改善効果は甚大だった。従来は、月あたり約130時間かけて会話内容を人がモニタリングしていたが、WorkatoとGoogle Cloud Natural Language による自動化で、モニタリングを5時間で完了できるようになった。人手も解放され、約96%の工数削減に成功したという。

 「自動化によってモニタリングの判断基準が標準化されたこともメリットだと感じています。自動化シナリオはプログラミング知識がない法務部門が主導して開発したため、エンジニアの工数を使わずに済んだことも評価しています」(河石氏)

現場部門が開発に積極参加して成果を出す

 非IT部門のIT活用について、河石氏は「ワークフローを熟知している現場が『よい形』を作って改善を重ねることが効果につながりました」と語る。

 Workatoの導入によって同社の現場や経営者の改善意識も向上した。

 「導入当初は戸惑いもあったが、今は、現場からもWorkatoによる改善の相談が次々と持ち込まれるようになりました。経営者の理解も進み、Workatoの自動化推進を業務の一つとして認識しているようです」(河石氏)

 コインチェックはWorkatoの導入と同時にDX推進組織を立ち上げ、現在も業務変革にまい進している。「当社は業務量の増加に対して人を増やして対応してきたが、Workatoを使って改善する方向に舵を切りました。今後、全社へのスケールを予定しているので、Workatoにはいっそうの支援を期待しています」と語った。

 Workatoの鈴木氏は「2022年は、UIの日本語化や日本語マニュアル、動画の提供も予定している。国内データセンターも秋に開設できるよう準備を進めている」と語り、日本市場の拡大に意欲をみせた。

セルフサービス型ツールの意義

 セッションでは、Workatoが「セルフサービス型ツール」であることの優位性について、鈴木氏から説明があった。

「Workatoは業務アプリケーションをつなぐミドルウェア機能を、クラウドネイティブなSaaSとして提供しています。インフラの設定なしにエンドユーザーがすぐに使い始められます。当社の設立時はセルフサービス型ITが拡大してきた時期で、ミドルウェアもエンジニア向けのものからエンドユーザー向けのものへと民主化していました。Workatoの技術もその流れで生まれたものです」(鈴木氏)

 Workatoのようなセルフサービス型ツールによって、企業内の開発チームの編成が従来とは変わってきたと鈴木氏は言う。

「従来型のチームは、ビジネス担当からの要望をシステム開発担当に取り次ぐ際、通訳の存在を果たすIT担当が必要でした。これに対し、今はエンジニア以外の人も開発に参加するフュージョンチームが多くみられます。新しいチーム編成では、人的リソースによるボトルネックをなくして、迅速に開発、実装を繰り返すことが可能です」(鈴木氏)

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