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インボイス制度を前に注目が高まる「請求書発行ソフト」の基本と選び方

2023年10月のインボイス制度開始を目前に控え、請求書発行業務を効率化する「請求書発行ソフト」に対する注目も高まっている。インボイス制度による経理業務の変更点や請求書発行ソフトの基本、選定ポイントを解説する。

» 2023年07月24日 07時00分 公開
[吉村哲樹オフィスティーワイ]

 2023年10月のインボイス制度開始を目前に控え、多くの企業が改めて自社の請求書業務に及ぶ影響について検討を進めてる。これに伴い、請求書発行業務を効率化する「請求書発行ソフト」に対する注目も高まっているようだ。

 本稿では、インボイス制度による経理業務の変更点や請求書発行ソフトの基本、選定ポイントを解説する。

インボイス制度を前に請求書発行ソフトの注目度が高まる理由

 会計ソフト「弥生会計」で知られる弥生でも、同社が提供するクラウド請求書ソフト「Misoca」(ミソカ)に対する問い合わせや引き合いが増えているという。

 同社の上野 竣一郎氏(クラウド・サービス セールス&マーケティング部セールス&グロースマネジメント)は、昨今の請求書発行ソフトに対する注目の高まりについて次のように見解を述べる。

 「コロナ禍で多くの企業がテレワークを導入したことに伴い、オンラインで請求書関連業務をできるクラウド型の請求書発行ソフトの導入が進みました。さらに昨今、インボイス制度対応のために請求書業務の効率化や見直しを始める企業が増え、注目度がさらに高まっている印象です」

 請求書発行ソフトはその名の通り、請求書の作成や発行、その周辺の業務を効率化するための機能を提供する。具体的には、あらかじめ用意された複数の帳票テンプレートの中から作成したいものを選んでシステムの画面から内容を入力したり、他システムとの連携やファイルのインポートなどでデータを読み込み、自動的に請求書や見積書、納品書などを作成したりできる。

 製品によっては見積書の内容を基に自動的に請求書を作成したり、あるいは請求書の内容を読み取って納品書を自動作成したりする機能も備える。こうした機能を活用することによって、請求書1枚1枚を「Microsoft Excel」(以下、Excel)などを使って作成していた従来の方法に比べ、大幅な業務の効率化が期待できる。上野氏によれば、Misocaのユーザー企業の多くが、帳票作成作業に費やしている手間と時間を削減する目的で同製品を導入しているという。

 またこれらの業務をシステム化することによって、請求書のデータをシステムで一元管理できるようになるため、例えばExcelの帳票をばらばらの形で管理する場合と比べ管理の効率や情報保護の面でメリットがある。

 加えて、インボイス制度の導入に伴う経理業務の負荷増大を軽減する効果も期待できる。後述するように、インボイス制度が始まることによって、企業の経理部門では幾つか新たな作業が発生する。大半の請求書発行ソフトはこれらの作業を自動化・省力化する機能を備えているため、うまく活用することで業務負荷の増大を抑えられる。

インボイス制度において売り手と買い手で必要になること(出典:弥生の提供資料)

インボイス制度によって経理業務が変わる4ポイント

 ではインボイス制度の導入によって、具体的にどのような作業が発生するのか。弥生の大江 桂太郎氏(クラウド・サービス セールス&マーケティング部セールス&グロースマネジメント)は次のように説明する。

 「2023年10月からインボイス制度によって、製品やサービスの売り手は、買い手から『適格請求書』と呼ばれる法令で定められたフォーマットに則った請求書の発行を求められることがあります。この適格請求書のルールに則った請求書を扱うため、大きく分けて4つの作業が新たに必要となります」

3つの必要項目を請求書に記載

 まず1つ目は、適格請求書の要件を満たすために「適格請求書発行事業者としての登録番号」「品目ごとの適用税率」「税率ごとに区分した消費税額」の3つの項目を請求書に記載する必要が生じることだ。

適格請求書には原則として6項目の記載が必要(出典:弥生の提供資料)

消費税額の端数処理を見直し

 そして2つ目が「消費税額の端数処理」の変更だ。従来の請求書は品目ごとに消費税額の端数処理ができたが、適格請求書では「税率ごとに消費税額を合算した後に1回のみ端数処理を行う」というルールになる。

適格請求書の発行前に端数処理を見直す必要がある(出典:弥生の提供資料)

対象請求書の確認

 3つ目の変更点は、「適格請求書の対象を何にするか」について、合意やルールを定めておく必要がある点だ。適格請求書はその名の通り請求書の形をとることが多いが、取引の形態によっては納品書や契約書類などに必要な項目が記されていれば適格請求書と見なすことも可能だ。そのため、場合によっては取引先とも協議しながら、自社のビジネスモデルの実態に沿った形で「何を適格請求書と見なすか」を決める必要がある。

複数書類のインボイス対応(出典:弥生の提供資料)

適格請求書の保管対応

 そして4つ目の変更点は、適格請求書の保管が法令によって義務付けられる点だ。適格請求書を発行した事業者は、その控えを7年間保管することが義務付けられるため、保管の仕組みやルールを新たに定める必要がある。ここで気を付けなければいけないのが、電子媒体の形式で適格請求書を発行した場合は、電子帳簿保存法に則ってそれらを管理しなければならない点だ。

インボイスの写しの保存(出典:弥生の提供資料)

 上記4つの変更点のうち、1つ目と2つ目については大半の請求書発行ソフトが対応しているものの、4点目の電子帳簿保存法による保管義務への対応については製品によって対応状況がまちまちだという。

 「製品やサービスによっては、電子帳簿保存法への対応が不十分なものも存在します。長い目でみた場合は、電子帳簿保存法に正式に対応している請求書発行ソフトを選んだ方が、後々の手間やリスクを考えるとメリットが大きいと思います」(大江氏)

請求書発行ソフトを選定する際のポイント

 その他にも、請求書発行ソフトを選定する際には以下のようなポイントを押さえておきたい。

既存業務を代替できるか

 請求業務は企業ごとに手順や慣習が異なる。Excelによる請求書の作成作業を例にみても、単純に値を手入力しているケースもあれば、関数を駆使して複雑な処理をしている場合もある。また単に請求書を作成するだけでなく、見積書の発行や売掛管理などの業務と一体となっているケースもあるだろう。

 このように各社異なる既存業務のフローをシステムで再現できるのかどうかを確認する必要がある。できないとしたら、「どのように業務を変更しなければならないのか」「それによって業務全体にどのような影響が及ぶのか」といった点を考慮し、なるべくスムーズに導入できる製品を選ぶべきだろう。

請求書の管理機能を備えているか

 既に述べたように、請求書発行ソフトを導入することで作業の効率化だけでなく、データの一元管理が可能になることのよるメリットが得られる。

 データベースで一元管理された請求書データをさまざまな切り口から集計、分析することで、例えば「全取引の請求状況」「入金・未入金の状況」などの情報を可視化できる。こうした機能をうまく活用すれば経理業務の大幅な効率化にもつながる

会計システムと連携できるか

 自社で利用している会計システムを請求書発行ソフトと連携できれば、請求業務から仕訳業務までを一気通貫で自動化・省力化することが可能になる。例えばMisocaは、同じ開発元が提供する会計ソフト「弥生会計」のほかにも、「freee」「MFクラウド会計」といった他社製の会計ソフトとの連携機能を備えている。

 特に他社製ソフトとの連携機能はサービスによってカバーする範囲が異なるため、あらかじめ自社が利用する会計システムとの連携をサポートしているかどうかはチェックしたい。

価格は適正か

 新たにシステム導入を検討する場合、やはりコストの観点は欠かせない。請求書発行ソフトの多くはSaaSとして提供されているため、基本的には月額利用料金を支払いながら利用することになる。利用料金はユーザー数や、1カ月当たりに発行する請求書の枚数などによって決まることが多い傾向にある。そのため、まずは自社の利用規模にマッチした料金体系が用意されているかどうかが第一の選定ポイントとなる。

 また中小企業向けサービスの場合、小規模利用に限定して無料でサービスが提供されていることもあり、例えばMisocaは1カ月当たり10枚の発行までは無料で利用できるプランを用意している。請求書の発行枚数が少ない場合や、お試しで利用してみたい場合などは無料プランを検討してみるのもよい。

業務現場での利用を定着させるためには

 なお請求書発行システムを導入する企業の大半は、請求書業務の効率化を目的としているため、導入時に既存システムからのデータ移管などの作業は発生せず、比較的スムーズにシステムの導入を完了するケースが多いと上野氏は話す。

 「弊社のMisocaを導入するお客さまも、他システムからの乗り換えというよりは、もともとExcelの手作業で行っていた業務の効率化を目的としているケースが大半です。そのため既存システムからのデータ移行を行うことなく、まっさらな状態で一から新たにシステム利用を始めるケースが多く、導入作業に苦労するという話はあまり聞きません」

 ただし導入後に経理業務の現場でシステムの利用が定着するかどうかは別の話だとも同氏は指摘する。経理部門に積極的に使ってもらうためには、ITリテラシーが高くないユーザーでも簡単に使いこなせるようなUI/UXを備えた製品を選びたいところだ。このあたりの細かな使い勝手や操作性についてはサービスごとにばらつきがあるため、可能であれば事前に現場ユーザーも交えて操作性や使い勝手を確認しておきたい。

 またサポートサービスが充実しているかどうかも、システムの利用を現場に定着させる上では重要なポイントの一つだ。特に請求書発行システムのユーザーの多くを占める中堅・中小企業では、社内にIT担当者がいない場合も多いため、何か問題が生じたり不明な点が出てきたりした場合にベンダーのサポート窓口にすぐ相談できるかどうかは重要な選定ポイントになるだろう。

 さらに製品によっては、ユーザーの業務現場でシステムの利用が確実に定着するよう、さまざまな支援策を提供する「カスタマーサクセス」のサービスを提供しているものもある。別途費用が掛かることがあるが、請求書発行システムの導入を確実に成功させたい場合は、こうしたサービスの利用を検討してみるのも手だろう。

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