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面倒な工程マニュアルや人材教育を動画でどう変えた? 食品卸商社が語る動画活用のコツ

動画はテキストと比べて情報を効率的に伝達できる。この利点を生かすことで、情報共有や業務効率化などに役立つ。ある食品卸商社は情報の循環と組織コミュニケーションの活性化を目的に、全社で動画を活用しようと考えた。

» 2023年07月26日 07時00分 公開
[阿久津良和キーマンズネット]
トーカン 内藤 綾氏

 コロナ禍は従業員コミュニケーションの希薄化を招き、企業の生産性に大きな痛手を与えた。東海地域を中心とする食品卸商社のトーカンも例外ではなく、同社の内藤 綾氏(ソリューション部 改善推進課)は、「人との接点が減少したことで『新入社員や異動者への引継ぎ、OJTがやりにくい』などの声が上がり、従業員は仕事のやりづらさや不安を覚え、それがパフォーマンス低下の要因でもありました」と当時の状況を語る。同社が従業員に対してヒアリング調査を実施したところ、コミュニケーション不足や組織としての一体感の喪失が課題の中心であることが分かった。

 トーカンはこれらの課題を解消するすべとして、動画の活用を選んだ。動画ならば時間や場所を問わず、画像やテキストよりも多くの情報を効率的に伝達できるという利点があるからだ。

動画を組織全体で活用し、情報の循環と業務効率化を果たすには

 動画の制作には動画編集の知識や作業時間の確保、動画ファイルの格納場所、配信や視聴環境の整備などが必要で、それらがボトルネックとなった。動画の制作環境を自社で整備するのは困難だと感じたトーカンは、アシストが提供するクラウド型動画プラットフォーム「Panopto」の導入を検討した。事前にPanoptoのテスト導入期間中に2回のワークショップを実施し、同時並行で価値検証を進めた。

図1 価値検証のフロー図(出典:トーカン提供の資料)

 動画の活用を進めるに当たってPoV(Proof of Value:価値実証)推進チームを組成し、各部門の若手従業員もメンバーとして参加した。ワークショップでは課題を具体的に列挙して、動画の活用によってどのような効果が見込めるかを分解して考えながら、評価指標を設定した。

 内藤氏は「動画はさまざまな場面で活用できるため、多数のアイデアが生まれました。曖昧(あいまい)な動画活用を整理できました」と振り返る。

 価値検証の終了後、PoV推進チームは役員に対して動画活用の検討理由やPanoptoの製品概要、コストなど社内プレゼンテーションを実施した結果、無事承認を得た。内藤氏は「今や動画は私生活の中では当たり前のものですが、当社にも動画で情報を循環させる動画文化を定着させたい」と動画の効果や有用性を強調した。

 一部の部門に限定せず動画の活用を広く進めたいとの考えから、営業サポート部門や量販店営業部、自社ブランド営業部、コンビニ営業部、外食営業部、人事・総務部門、バイヤー部門など、各部門でアンバサダーを選任し、動画の活用を推進した。内藤氏は「動画の活用シーンは無限にあります。一定の部門や業務に限定するのではなく、全従業員に周知と活用を促すのが重要です」と説明する。

面倒な工程マニュアルや社内研修も動画化、新アイデアの創出も

 Panoptoの導入後、動画の需要がある部門から段階的に強化月間を設けて活用事例を積み重ねた結果、連鎖的に活用が広まった。さらに、製造物流現場の工程マニュアルを動画化したことで理解度が高まったとの効果も耳にするようになった。他にもメニューの提案やセンター庫内の案内、教育研修資料、防災訓練時の事前説明、新入社員用の部門説明など、さまざまなシーンで動画の活用を進めていった。動画の有用性を高めるために、各部門とアンバサダーは2カ月に1度の頻度で会議を実施し、展開事例や各部門からの要望、活用性を高める議論を重ねていった。

 導入後は細かな展開計画や効果指標を決めるのが一般的だが、トーカンではそれらの過程を踏まず、個別展開段階、全社展開段階、グループ展開段階と大まかな計画を立てながら、活用を進めていった。導入年の年度末までに従業員の2割が動画を作成するという目標を掲げただけだ。

 若手従業員の育成やコミュニケーションを目的に動画活用の機会を増やしていった。新入社員の研修で自己紹介の動画制作を組み、スキル研修受講前に動画を見ながら予習をしてもらい研修で得たスキルやアウトプットを動画で共有するなど、積極的に動画の活用を進めていった。そうすると、若手従業員から活用アイデアが自然と寄せられるようになった。従業員が役員に対して新規取り組みや施策などを突撃インタビューする動画では「四角い(硬い)内容を“丸く”伝えられた」と内藤氏は語る。

 Panoptoを導入した2021年12月から2023年3月までに制作した動画は学習・教育系動画は323本、取引先企業や消費者を含めたコミュニケーション動画は105本、総計1269本に上る。

図2 やってよかった活用事例(出典:トーカン提供の資料)

 内藤氏はコロナ禍で発生した課題が動画で解決できたと述べ、「従業員の企画力向上や、インタビューや動画編集に明るい従業員の発掘につながりました」と利点を語った。また、経営層のメッセージを発信する機会も増え、従業員との距離も縮まった。当初は導入3年目で継続利用の判断を下す予定だったが、内藤氏は「もう継続の見込みはできています」と言い切った。今後は動画の活用場面に着目し、視聴する価値の創造やグループ企業を含めた活用を目指すとの考えだ。

本稿は「アシストフォーラム 2023」のセッション「『なぜ動画なのか?』情報の循環が証明した動画活用の価値」の講演内容を編集部で再編集した。

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