メディア

「情シスの属人化は必ずしも悪ではない」 クラウドネイティブ齊藤氏が示す、正しい属人業務のつくり方Digital Leaders Summit Vol.3 2025 冬 イベントレポート

情報システム部門における業務の属人化や人材不足などの課題は深刻化している。しかし、株式会社クラウドネイティブの齊藤愼仁氏は「属人化は悪ではない」と考える。同氏の考える、正しい属人化とはいったいどういったものだろうか。

» 2025年02月28日 07時00分 公開
[平 行男合同会社スクライブ]

 情報システム部門(以下、情シス)が抱える課題の1つに業務の「属人化」がある。アンケート調査によると半数以上の企業が課題としており、人材不足や技術ノウハウの不足とも相まって、その解決方法を見いだせずにいる。

 多くの企業で問題視されるこの属人化だが、全ての属人化を本当に排除すべきなのだろうか?

 株式会社クラウドネイティブの代表取締役社長で文部科学省最高情報セキュリティアドバイザーを務める齊藤愼仁氏はアイティメディア主催「Digital Leaders Summit Vol.3 2025 winter」の基調講演において属人化の是非を問い直し、業務自動化による課題解決の道筋を示した。

株式会社クラウドネイティブ 齊藤愼仁氏

情シスの属人化が必ずしも悪ではない理由

 アイティメディアが実施した情報システム部門向けのアンケート調査では、情シスが抱える課題が浮き彫りとなった。以下の7つの課題が特に深刻とされている。

  • 第1位: 属人化している業務がある(51.7%)
  • 第2位: 人材不足(41.7%)
  • 第3位: 技術要素のノウハウ・知見が不足している(41.4%)
  • 第4位: 業務量が多い(36.6%)
  • 第5位: セキュリティの知識が不足している(33.4%)
  • 第6位: 人材育成が難しい(32.8%)
  • 第7位: ヘルプデスク業務が多く、コア業務に専念できない(22.8%)

 これらの課題は相互に密接に関連している。人材不足は業務量の増加を招き、技術ノウハウの習得機会を減少させるなどの例が挙げられる。その結果、特定の担当者への依存度が高まり、さらなる属人化が進行するという悪循環に陥りやすい。しかし、齊藤氏は属人化そのものを否定することには慎重な立場を示す。

 「極端な例で言えば、医師や弁護士といった専門職には高度な専門知識と経験が必要不可欠で、むしろ特定の人物に業務が集中した方が、より効率的かつ質の高いサービスを提供できます。つまり属人化が進むことでメリットが生じるケースもあるということです」

 属人化のメリットは多面的だ。専門性の高い業務への対応が可能になり、高品質なアウトプットを維持しやすくなる。さらに、担当者の責任感とモチベーションが向上し、業務のスピードアップにもつながる。

 一方で、看過できないデメリットもある。業務の停滞や断絶のリスク、チーム全体の成長阻害、変化への対応力の低下、そして組織全体のリスク増大などが懸念される。特に、担当者の突然の離職や長期休暇によって業務の継続が損なわれる可能性がある。従って、属人化そのものを否定するのではなく、属人化によって生じる具体的な課題に着目して解決することが重要になる。

属人化対策としての標準化と自動化

 齊藤氏は、属人化による課題を解決するアプローチとして、「標準化」と「自動化」という二つの軸を示した。「標準化」は、業務プロセスや手順、仕様、ルールを統一して明確化することで、担当者が変わっても同じ品質とスピードで業務を遂行できる体制を整えることを指す。

 標準化を効果的に進めるためには、業務手順のマニュアル化やシステム設定の統一、ドキュメントテンプレートの共有、そして権限管理やアクセスルールの共通化などが必要だ。これらの取り組みを支援するツールも充実しており、目的に応じて適切に選択できる環境が整っている。

 しかし、標準化にも留意すべき課題がある。過度な標準化は業務の柔軟性を損なう可能性があり、標準化されたプロセスの維持には相応の労力とコストが必要となる点だ。

 そのため齊藤氏は、標準化の範囲と程度を慎重に見極めることを推奨する。ミスが許されないコア業務については徹底的な標準化をする一方で、状況に応じた柔軟な対応が求められる業務については、最低限のルールを設定した上で担当者の裁量を認めるなど、バランスの取れたアプローチが重要だ。

iPaaSによる業務自動化の実践

 標準化と並んで、もう一つの重要な施策が「自動化」だ。これは、人手に頼っていた業務やプロセスを機械やソフトウェアに置き換えることで、作業の正確性と効率性を飛躍的に高める取り組みだ。

 齊藤氏は、組織全体での効率的な自動化を実現するツールとして、クラウドベースの統合プラットフォームであるiPaaSを挙げた。中でも、低コストで導入できる「Make」(旧名称Integromat)を具体例として、その実用的な活用方法を示した。

 MakeのようなiPaaSを活用すると、複雑な条件分岐を含むワークフローも視覚的な操作で構築できる。例えば、受信した電子メールの内容に応じた処理の分岐や、エラー発生時の代替処理の自動実行など、従来は高度なプログラミングが必要だったフローをノーコードで実現できる。

 また、自動化プロセスのテストも効率的に行える。特定の部分だけを切り出してテストできるため、全体の動作確認をする必要がなく、問題の早期発見と修正がしやすい。

 実行中のワークフローを止めずに修正できるのも利点の一つだ。従来は修正のたびに一度停止して再稼働させる必要があったが、リアルタイムで変更できれば業務の中断を最小限に抑えられる。

 さらに、実運用を見据えた管理機能も備えている。ワークフローの稼働状況や自動化による時間削減効果を可視化できるほか、認証情報の一元管理や詳細な監査ログの確認など、セキュリティとガバナンスを考慮した機能も標準で利用できる。

自動化検討のプロセスと優先度

 自動化すべき業務をどのように選定し、どのような順序で取り組むべきか。この課題に対し、齊藤氏は自社での取り組みを例に、具体的な判断基準と検討プロセスを示した。

 検討例として齊藤氏が挙げたのは、従来手動で行っていた「セキュリティインシデント対応における証跡保存用フォルダの作成」という業務だ。このような業務の自動化検討に際して、同社では「発生頻度」「労力」「機微さ」の3つの評価軸を設定。以下の基準で点数を付け、客観的な判断をしている。

  • 発生頻度: 月1回以上(5点)、年1回以上(3点)、年1回未満(1点)
  • 労力: 作業完了まで2時間以上(5点)、1時間以上(3点)、1時間未満(1点)
  • 機微さ: コンフィデンシャル情報(5点)、社外秘情報(3点)、パブリック情報(1点)

 これら3要素の合計点で8ポイント以上となった業務を「自動化必須」と位置付ける。特にヘルプデスクのFAQ対応や定期バックアップなど、繰り返し発生する業務を優先して検討すべきだと助言した。

段階的な導入とツール選定

 自動化には段階的なアプローチが不可欠だ。一度に全ての業務を自動化しようとするのではなく、スコープを徐々に広げていくべき、というのが齋藤氏の考えだ。その際、業務内容やスケールに応じた適切なツール選定も成功の鍵となる。単純作業にはRPA、データ連携にはiPaaS、大規模運用には「Ansible」や「Terraform」など、各企業が重視するポイントに合わせてツールを選択する必要がある。

 採用するツールのセキュリティ体制については、自組織の要件に照らして定期的な監査と評価が必要だ。また、自動化を持続的に推進するには人材育成も欠かせない。スクリプト作成やツール管理に対応できるスタッフの育成を計画的に進めることで、持続可能な自動化体制を構築できる。

 自動化を導入した後は、モニタリングと改善のサイクルを確立することが不可欠だ。自動化の最適化はもちろん、そもそもその業務の自動化が本当に必要だったのかという本質的な議論まで可能になる。

 自動化における安全性や透明性の確保については、「ドキュメントのアクセス権限管理」「属人化に関する課題の進捗可視化」「自動化された業務プロセスの効果測定」「採用ツールのセキュリティ体制の定期的な評価」の4つの観点で注意を払うべきだという。

 情報システム部門の業務には属人化しやすい要素が多分に含まれている。しかし、全ての属人化を排除するのではなく、「生かすべき属人化」と「解消すべき属人化」を見極めることが重要だ。標準化と自動化を効果的に活用し、かつ透明性を確保しながら進めることで、専門性と効率性を両立した次世代の情シス体制を構築できるだろう。

 最後に齊藤氏は、組織文化の重要性を強調した。「エンジニア以外の従業員からも自動化の提案が日常的に上がってくる文化を持つことが大切です。自動化を当然の選択肢として捉える文化が根付くことで、組織全体の効率化が加速するのです」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。