ここからIT系BPOサービスを選ぶ際のポイントを解説する。
サービス選定の第一歩は、自社が抱える課題を正確に把握し、自社のコア業務とノンコア業務を区別することから始まる。企業規模によってコア業務の認識は大きく異なる。自社の強みを活かせる業務に集中し、標準化しやすい業務や専門性が求められる業務を外部委託するという視点が欠かせない。
ジョーシスは「BPOサービスの検討プロセスではどの業務を外注し、どの業務を自社で実施するかの振り分けから始まる。この業務整理のプロセス自体が、ユーザー企業にとって業務見直しの大きなメリットになる」と副次的効果を指摘する。
サービス提供事業者を選ぶ際には、幅広い実績と豊富な経験を持つ企業を選ぶことが重要だ。ジョーシスは「PCキッティング一つとっても、OSやアプリケーションの設定は企業ごとに大きく異なる。経験の少ない事業者に任せると、かえって初期導入コストや時間が増大するリスクがある」と語る。
日立システムズも「実際に外注してみないと(懸念点が)分からない業務も多い。経験豊富な事業者であれば潜在的な業務要件を事前に洗い出し、導入後のトラブルを未然に防げる」と説明する。
キーマンズネットの調査では、サービスの利用者が不満に思う理由として「IT知識が不足しており、対応に時間を要する」「対応レベルがあまり高くない」といった回答が挙がった。こうした失敗を避けるため、契約前に以下の点を確認したい。
まず、営業担当者だけでなく、実際に作業する運用担当者と話す機会を事前に設けることだ。技術的な質問への回答の的確さや、自社業務への理解度を事前に確認できる。次に、多くの事業者が提供する無償トライアルサービスの活用も考慮に入れたい。実際の運用環境でサービスを試し、設定内容やサポート対応を確認することで、「こんなはずではなかった」という事態を防げる。
単純な作業代行だけでなく、業務改善や最適化を提案できるコンサルティング的な役割を担えるかどうかも事業者選びのポイントだ。ITSMなどのツール導入と比較した場合、BPOサービスでは業務整理や標準化のプロセスを専門家と一緒に取り組める点が大きな違いだ。
日立システムズでは、ヘルプデスクの運用代行サービスにおいて、ユーザーからの問い合わせ内容を収集・分析し、改善提案に結びつけている。ジョーシスでは、SaaS管理のポリシー設計から運用までを一貫してサポートする。「ポリシー設計や運用、棚卸しの3つを回すことが重要。導入時に完璧なポリシーを作るのはほぼ不可能なので、まずはポリシーを作って実際に運用し、漏れを防ぐための棚卸しをしっかり回していくことが求められる」(ジョーシス)
もちろん、全てのIT系BPOサービス事業者がコンサルティング機能を提供しているわけではない。日立システムズは「業界的には業務の効率化や標準化を目指す価格重視型の事業者の方が多い」と説明する。
多くの企業が懸念するブラックボックス化を防ぐための対策が整っているかどうかも重要な判断基準だ。
日立システムズは運用マニュアルや手順書の整備を徹底することでブラックボックス化を防止しているという。「業務開始に当たり、運用マニュアルや運用手順書などのドキュメントを提供してもらう。もしくは一緒に作成するところから始める。運用後に出てきた改善内容を盛り込んでアップデートすることで、ブラックボックス化は防げる」(日立システムズ)
一方、ジョーシスはBPOとSaaSを組み合わせたアプローチで可視化を図る。「作業をマニュアル化してやるべきことを明確にすることと、実際に作業する際の進捗状況を可視化することの2つが必要だ。BPOとSaaSを組み合わせることで可視化が進むだろう」(ジョーシス)
IT系BPOサービスの利用を検討している企業が最も気になっているのが価格感だろう。IT系BPOサービスと一言にいってもその内容はさまざまで価格も千差万別だ。とはいえ、中小企業が尻込みするような水準ではないようだ。
ジョーシスでは「PCキッティングやデバイス保管、SaaSのアカウント発行といった個別業務であれば月額数万円からの利用も可能」だという。日立システムズも「中小企業の案件も多く受けている。電話対応の代行などは予算規模に関わらず需要があり、ヘルプデスクサービスは24時間対応が必要な企業が利用している。(こうしたピンポイントの業務委託サービスは)成長期の中小企業にもフィットしやすい」と語る。
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