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ワークフローの利用実態 「押印リレー」から逃れる方法はやっぱりAIなのか?ワークフローの利用状況(2025年)/前編

AI機能を搭載した「AIワークフロー」への期待が高まる一方で、導入はまだ全体の5%程度にとどまり、正確性や運用面での課題が浮き彫りに。ワークフローツールの「×AI」はまだ時期尚早なのか。

» 2025年09月18日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 業務のデジタル化が進む今、ワークフローツールもAI機能の実装によって新たな進化の段階に移りつつある。アイ・ティ・アール(ITR)の調査によれば、2023年度のワークフロー市場は前年比46.9%増と大幅に拡大し、今後も堅調な成長が予測される。

 この流れを受けて、キーマンズネットでは3年ぶりにワークフローツールの利用状況に関するアンケート(実施期間:2025年9月1日〜12日、回答件数:224件)」を実施した。本稿では、ワークフローツールの導入割合に加えて、AIワークフローが企業現場でどこまで浸透しているのか、そして導入障壁はどこにあるのかを探る

メールと紙からの脱却進む ワークフローの導入割合は62.5%

 自社の書類や申請案件の社内回覧・承認方法を尋ねたところ、「ワークフローツール(専用申請・承認システム)」と回答した割合は62.5%となり、次いで「メールでの回覧・承認」(35.3%)、「紙の書類回覧」(26.8%)、「グループウェアのワークフロー機能」(26.3%)、「ExcelやWordファイルを共有・送付」(24.1%)が続いた(図1)。

図1 書類や申請案件を社内で回覧・承認する方法(従業員規模別)

 この結果を従業員規模別で見ると、1001人以上の大企業では7〜8割が専用のワークフローツールを利用しており、約3割が社内ポータルやイントラネットの申請フォームを利用している。一方で、約3割の企業が紙文書やメールなどによる旧来の申請方法を採用している。この差は単なるIT投資の規模だけでなく、業務慣習や現場の抵抗感、システム導入のノウハウ不足など多様な要因が絡んでいると考えられる。

 2022年8月の前回調査と比較すると、グループウェアのワークフロー機能や「Excel」「Word」ファイルによる申請が大幅に減少する一方で、専用ワークフローツールの利用は約20ポイントも増加している。この動きは、従来の汎用(はんよう)ツールからより専門的で高機能なシステムへとニーズがシフトしていることを示している。

 導入形態に関しては、「クラウド型(SaaS)」が61.5%と最多であり、特に従業員数が少ない企業で主流となっているのに対し、大企業ではオンプレミス型や自社開発型の割合が高い。これは、中小企業が初期投資を抑え、スピーディーに導入できるクラウドサービスを選好している一方で、大企業は自社の業務にカスタマイズした高度な管理・運用を求めているためと考えられる(図2)。

図2 勤務先で利用しているワークフローツールの形態(従業員規模別)

 この傾向は、ワークフローツールの市場が成熟し、企業の多様なニーズに応じて選択肢の多様化が進んでいることを意味している。今後は、クラウドの利便性とオンプレミスの柔軟性をどう両立させるかが、ツールベンダーと企業双方にとって重要な課題となるだろう。

「製品×AI」の時代でも、現場から支持されないAIワークフロー

 かつては「紙をなくす」「ハンコをやめる」といった目標がワークフロー導入の動機となっていたが、現在は「実際にどれだけ業務がラクになるか」「現場の生産性がどれだけ向上するか」といった、より現実的・定量的な成果が導入判断の基準になっているということだ。

 こうした企業ニーズの変化を受けて登場してきたのが、AI技術を取り入れた「AIワークフロー」と呼ばれる新たな製品ジャンルだ。

 AIワークフローは、従来のルールベース型システムでは対応しきれなかった曖昧(あいまい)な入力や複雑な判断を、AIによって自動的に処理する仕組みだ。例えば、申請内容の不備検出や、過去の処理履歴を基に承認ルートを自動最適化する機能など、従来ツールでは実現が難しかった高度な自動化が可能になる。

 だが、現時点での導入および認知状況を見ると、普及にはまだ距離がある。調査ではAIワークフローを「聞いたことがあるが、詳しくは知らない」と回答した企業が42.9%と最多であり、「ある程度理解している」または「よく知っている」と答えた企業は合わせて21.0%にとどまった(図3)。

図3 AIワークフローの認知度(従業員規模別)

 この結果は、AIワークフローが期待はされているが、まだ実際の導入には至っていない段階にあることを示している。全社的な導入には「業務フローの可視化・標準化」や「部門間での連携設計」といった前提条件が不可欠であり、そのハードルは依然として高い。

 とはいえ、カスタマーサポート部門での問い合わせ対応の自動化や、人事部門における採用業務の最適化など、AIワークフローを活用した先進事例は徐々に広がっている。こうしたケースに共通するのは、特定業務に対してスコープを絞り、段階的に導入を進めている点だ。

 今後、AIワークフローの導入が進むかどうかは、企業がどれだけ自社の業務を可視化・分析し、その中にAIをどう位置付けるかにかかっている。そのためには、ツール選定の前段階での業務整理こそが、最も重要なステップとなるだろう。

導入はまだ1割未満、Aiワークフローの普及にはまだ時間が

 企業の関心が高まりつつあるAIワークフローだが、実際の導入はどの程度進んでいるのでだろうか。

 今回の調査によると、「現在、活用している」と回答した企業はわずか1.3%、「一部の業務で試験的に導入している」は4.0%にとどまり、合わせても5.3%だ。導入企業は全体の1割にも達していないのが現状だ(図4)。また、「導入は検討していない」(41.5%)、「分からない」(31.3%)と、慎重または消極的な企業が過半数を占める。

図4 AIワークフローの導入状況(従業員規模別)

 一方で、従業員規模が1001人以上の中堅・大企業では、「導入していないが、関心があり情報収集中」「今後導入したい」と回答した割合が他の規模帯よりも多く、「分からない」という回答は約半数に上った。このことから、現時点では判断を保留している段階にあるものの、今後の検討次第では導入が進む可能性も十分に考えられる。

 AIワークフローが市場で話題先行となっている背景には、AI技術に対する根強い懸念があるようだ。

 2025年8月にキーマンズネットが実施した調査「生成AIの活用状況と課題(2025年/下半期)」では、生成AIを「業務に活用できるレベルではない」とする理由として、「成果物の正確性に対する懸念」や「スキル・経験の不足」が多く挙げられた。

 今回の調査でも同様に、「AIワークフローの導入にあたって不安を感じる点」を尋ねたところ、最多となったのは「AIの判断の正確性・信頼性に不安がある」(51.8%)という回答だ(図5)。AIに処理を任せることによる業務ミスや判断ミスに対するリスク意識が、企業の導入ハードルを高くしていることがうかがえる。

図5 AIワークフローで懸念していること(従業員規模別)

 フリーコメントでは、AIの可能性を認めつつも、現実的な運用への不安が多数寄せられた。

 「人間が行っている判断を適切にAIができれば有効だが、その精度に懸念がある」「AIは高性能だと思うが、結局は使う人のスキルに依存する」「AIの判断ミスの責任の所在が不明確」「AIを信用していない上層部が導入に消極的」という声からは、単なる技術的な問題だけでなく、組織文化やガバナンス、人的リソースの不足といった、AI導入に伴う周辺課題がAIワークフロー普及のボトルネックになっていることが読み取れる。

 特に「AIの判断ミスに誰が責任を持つのか」といった声は、今後企業がAIを業務に組み込む際に避けて通れない課題だ。ワークフローにおける意思決定の責任の所在をどう設計し、AIとの協業体制をどう築くか。この点は技術的な整備以上に、経営・業務設計の観点での対応が求められる部分だ。

 ここまで、ワークフローツールの導入状況や企業ニーズの変化、そしてAIワークフローへの関心とその課題について紹介してきた。後編では、実際にワークフローツールを導入している企業に焦点を当て、「導入の成果」「現場の満足度」「改善の余地」など、より実践的な視点から企業のリアルな声を深掘りしていく。

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