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従業員監視ソフトを導入した企業 「高い満足度」の正体内部不正と従業員監視の実態調査(2025年)/後編

テレワーク中の生産性向上を目的とした従業員監視ソリューションのニーズは鈍化したものの、内部不正対策などセキュリティリスクへの懸念から監視の目的が変化した。導入企業の約9割が全従業員を監視対象としている。調査の結果分かったのは満足度の高さだ。

» 2025年10月16日 10時00分 公開
[キーマンズネット]

 モバイルワークや在宅勤務の普及を背景に、企業が従業員の職務遂行状況から生産性、情報セキュリティリスクの把握や管理をするニーズが高まっている。各社は従業員監視ソリューションをどのように利用しているのだろうか。従業員はこのようなソリューションに不満を抱いているのだろうか。

 Fortune Business Insightsが2025年9月に発行した「Employee Surveillance and Monitoring Software Market」*によれば、従業員監視・モニタリングソフトウェアの世界市場規模は、2024年に5億8780万ドルであり、2025年の6億4880万ドルから12.3%の年平均成長率(CAGR)を遂げ、2032年には14億6520万ドルに成長すると予測されている。日本市場もこの流れに追従すると見られている。

 そこでキーマンズネットでも2年ぶりとなる「内部不正と従業員監視に関するアンケート」(実施期間:2025年9月17日〜10月3日、回答件数:287件)」を実施した。本稿では、前編に続いて企業における従業員監視の現状を紹介する。

Employee Surveillance and Monitoring Software Market Size, Share & Industry Analysis, By Software Type (Standalone, Integrated), By Deployment (On-premise & Cloud), By Type (Remote Employee Monitoring & Premises Employee Monitoring), By Enterprise Type (Large Enterprises & SMEs), By Application (Productivity Monitoring, User & Entity Behavior Analytics, Application & Website Monitoring, Insider Threat Detection & Prevention) By Industry (BFSI, IT & Telecom, Manufacturing, Retail, Energy & Utility, Government), Regional Forecast, 2025 - 2032(Fortune Business Insightsによる市場予測)

生産性向上を目的とした従業員監視ニーズは下火傾向か

 まず、従業員監視ソリューションは監視する対象や機能によって幾つかの種類に分類されるのが一般的だ。前編で取り上げた内部不正対策のために従業員の行動を検知・分析する、主に情報システム部門やセキュリティ対策部門が利用するソリューションがある。

 他には人事・管理部門などが生産性向上を目的として利用する監視ソリューションがある。従業員がPCで実作業にあたっていた時間をトラッキングしたり、アプリケーションやWebサイトの利用状況や従業員のPC画面を自動記録したりする機能を持ったソリューションなどだ。今回は主に後者を対象に利用実態を調査した。

 はじめに従業員監視ソリューションの導入状況を尋ねた(図1)。

図1 従業員監視ソリューションの導入状況

 「導入済み」(15.0%)、「導入予定」(5.9%)となり、「導入する予定はない」(44.3%)や「分からない」(34.8%)が大半を占めた。導入済みという回答は2023年9月に実施した前回調査からほぼ変化がなく推移していた。主に1001人を超える大企業で利用されている傾向にも変わりはなかった。

 導入が鈍化している要因の一つは、2023年5月から新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが「5類」に移行したことが挙げられるだろう。法律に基づいた外出自粛要請がなくなったことで、テレワーク中の従業員の監視ニーズは落ち着いた。コロナ禍に社内外で業務が可能なハイブリッドワーク環境が整備されたこともあり、代わりに内部不正やアクセス管理といったセキュリティリスクへの懸念が高まった。このため冒頭で挙げた「前者」に分類される従業員監視ソリューションにニーズが移ったと考えられる。

導入企業の9割超が全従業員を監視対象に

 次に、従業員監視ソリューションの導入企業に対し監視対象の範囲を尋ねた。その結果、約9割が「全従業員」(90.7%)と回答した。次いで「特定の部門の従業員」(7.0%)、「テレワーク中の従業員」(2.3%)だった(図2)。前回調査との比較では「テレワーク中の従業員」が6.8ポイント、「特定の部門の従業員」が5.1ポイントそれぞれ減少する代わりに「全従業員」が11.9ポイントと大きく増加した。

図2 従業員監視ソリューションによる監視対象

 このような変化が起きた要因として幾つかの仮説が立てられる。前述の新型コロナウイルスの5類移行以外では、組織全体の課題を特定、改善するために「包括的なデータ収集が必要だ」ということが挙げられるだろう。そもそも生産性向上を導入の目的としていることもあり、全従業員からデータを収集することで職種や部署、経験年数に応じた客観的なベンチマークが設定できたり、部門間で生じる作業効率の差などからベストプラクティスを導き出したりすることもできるだろう。

 全従業員を対象にしたほうが特定の部署や従業員だけを監視対象にすることによる不公平感や不満が高まるリスクの回避も期待できる。

ソリューション満足度は90.7% 2年前から急増

 最後に、導入済みの従業員監視ソリューションについて満足度を尋ねたところ「満足している」(37.2%)と「どちらかといえば満足している」(53.5%)を合わせて90.7%と高い評価が得られた(図3)。前回調査比でも17.9ポイント増加しており、今回「不満」とした回答は0件だった。

図3 従業員監視ソリューションの満足度

 そこで満足の理由を尋ねたところ「長時間労働の是正とサービス残業の防止」(56.4%)、「セキュリティインシデントからの自己防衛」(51.3%)、「業務負荷の客観的な証明」(38.5%)が回答の上位に挙がった(図4)。管理者による監視に重点が置かれていたコロナ禍に比べて、現在はデータ活用によって従業員の働き方改善に寄与するソリューションという認識に変わってきている点も背景にあるだろう。利用者側のニーズ変化に対し、生成AIによる生産性スコアの自動分類や集計データの分析機能の向上など、ソリューション側が機能充実を進めてきたことも要因だ。

図4 「満足」と回答した理由

 以上、企業における従業員監視ソリューションの導入実態について調査結果を紹介した。外部環境の変化に合わせて監視の目的が変化する中、生成AIなどを活用したソリューション側も常に改善を続けている様子が垣間見えた。今後も従業員監視を取り巻く動向を定期的に報告する。

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