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「不便だ」「それはわがまま」 開発 vs. 情シスバトルの状態から協力関係を築けた話

NTTドコモビジネスは社用PCの仕様変更をする際、現場サイドと情シスがぶつかってしまった。そんな状況から各部門が協力関係を構築できたエピソードを、同社の小林泰大氏が語った。

» 2025年12月22日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 NTTドコモビジネスは2018年に、社用PCの仕様変更に向けて部門横断の取り組みを実施した。しかし、開発部門と情シスがぶつかり、このプロジェクトは荒れてしまった。

 同社の小林泰大氏(社内認証基盤プロダクトオーナー)は2025年11月に開催された「Business Technology Conference Japan」で登壇し、当時の状況と、プロジェクトが“いい方向”に進むまでの道のりを語った。

便利で不自由な事務PC、自由で不便な開発PC

 小林氏は同社の研究開発部門で長年セキュリティなどを担当してきた。2025年にはセキュリティ部門に異動し、現在は社内認証基盤の開発に従事している。社内のサイドワークとして、コロナ禍に「リモートワークハンドブック」の共同執筆を手がけたり、開発者ブログを執筆したりしている。

 同社は「事務PC」と「開発PC」の2種類に分けて従業員向けPCを管理していた。事務PCは社員が日常の業務で使うアプリが搭載されており、強固なセキュリティで守られている。「この事務PCが整備されていたおかげで、2020年のコロナ禍で他社よりも早くテレワークに移行できたのは、当時の情シスの貢献によるものと考えています」と小林氏は語る。

 一方の開発PCは、事務PCでは対応が難しいエンジニアのニーズに応えるための構成で、管理者権限が必要な作業ができるなど自由度が高い代わりに、社内ネットワークへのログインや、業務用のアプリの使用が認められていなかった。

 その結果、開発部門のエンジニアは社内のコミュニケーションや事務的な業務は事務PC、メインの開発業務は開発PCを使うという2台持ちが必要だった。開発部門に所属していた小林氏も、これに不満を抱えていた。

ぶつかり合いから協力ムードに

 この状況を変えるため、開発部門と情シスとの間で対話の場を設けることになった。実は開発部門では過去に人事部門との「対話」をしたことがあり、それを覚えていた部内の有志が今度は情シスとの対話の場をセットしたのだ。

 小林氏が内心ハラハラしながらも参加してみると、案の定、対話の場は荒れてしまった。エンジニアが「2台持ちは不便なので、1台にしたい」というと、情シスのマネジャーからは「それはエンジニアのわがままだ」と返され、互いに引かない状態。平行線のまま閉会した。

 ところが後日、その様子を見ていた開発部門の部門長が、なぜか「面白かったから、もう一度やってみよう」と発言した。今度は情シスとは別組織である情報セキュリティ部門と、そのトップも参加することになった。小林氏らはしぶしぶ、「開発×情シス×情報セキュリティ」という3者が集まる会議に参加した。

 「前回と同じように『開発はPC2台持ちが不便〜』と話をしたのですが、情報セキュリティのトップは『それについてはこちらも問題だと思っていて、なんとかしたいと考えていた』と言ったのです。耳を疑いました」(小林氏)

 急展開した話に驚きつつも、3つの部門は、開発PCについて全社統一した枠組みを作りたいという方向性は同じ、ということが確認された瞬間だった。小林氏は「話してみないと分からないことがある」と振り返る。

 ここから、3者は具体的な仕様作りに向かっていく。まず、開発部門が考える仕様をぶつけてみると、情シスは大筋では了承しつつも、「実際に開発するリソースがないので、開発部門で作ってもらえないか」と反応した。

 「こちらも曲がりなりにもエンジニアですから、じゃあやってみようということになった。事務PCの仕様と矛盾せず、同等のセキュリティを実現するという条件だったので、最初は事務PCのセキュリティ要件について、聞いて回るところから始めた」(小林氏)

 ほしい情報を情シスに要求するときも、トップの合意ができているのですぐに情報が出てくるようになり、小林氏らは「見える景色が全く変わった」と驚いたという。

とうとう完成した便利な開発PC

 開発を始めて2週間後、新しい開発PCの原型が出来上がった。小林氏らは情シスに「デモをさせてほしいと」と頼むと、今度は情シスが驚きを示したという。「情シスからは『自分たちがやったら3カ月はかかった』と言われました。感謝もされましたが、ここから情シスが開発PCの問題をジブンゴト化して捉え、奮闘してくれるようになりました」と小林氏は話す。

 具体的には、この開発PCをどう運用するかという部分の設計を、情シスが急ピッチで構築してくれたのだ。

 「仕様だけ決まっても会社で使えるわけではありません。例えばユーザーが開発PCを要求したり、不要になったときにどういうオペレーションになるか、ユーザーが変更になったときはどうするかなど、泥臭い運用の部分は、情シスが全て引き受けてくれました」(小林氏)

 こうして出来上がった新しい開発PCのフレームワークは、次のようになっている。

 従来は社内で開発PCを使う場合、社内ネットワークにログインができなかったため、使用者は自前でインターネット回線を用意しなければいけなかった。新しい開発PCは、ユーザーがマシンのOSや、必要なアプリなどを自由に選べるところは変わっていないが、EDRなどセキュリティを司る部分については、情シスがMDMを使って管理する。

 このフレームワークにより、セキュリティのベースラインを情シスが確保することで、開発PCのインターネットへのアクセスを認める運用が実現した。現在までに、約3000台の開発PCが稼働している。

部門横断で課題を解決するための3ステップ

 現在は情シスに異動した小林氏は、このプロジェクトを通じて3つの学びを得たと話す。

 1つ目は「話さないことには分からない」である。「開発部門と情報セキュリティ部門の方向性は同じでした。もちろん組織ごとに大事にしていることは異なりますが、同意はできなくても、互いがなぜそうしたいかは理解できるはずです。しかしそれは、話さないと分かりません」(小林氏)

 話ができない状態のまま思い込みで推論してしまうと、他部門のことを「わがまま」などと決めつけてしまう。

 2つ目は「一緒にやる」だ。「情シスに何でも頼んでいるだけでは、『面倒を持ってくる連中』と思われても仕方ありません。逆に『やらせてください→できました』から信頼関係が生まれました。『同じ釜の飯を食う』といいますが、その通りでした」(小林氏)

 また、情シスが「張り切りすぎない」ことも大事だと小林氏は指摘する。「現場の事情を知らずに情シスが想像だけで開発してしまうと、現場に浸透しないケースが非常に多いです。例えばそれが商品の場合は売れないだけで済みますが、社内で使うツールの場合は何年も現場が不満を抱えながら使うことになり、最悪、ユーザーが会社を辞めます。その損失は計り知れません」

 そうならないためにどうするか。情シスは事業部門から依頼を受けたときに、「詳しくは分かりませんが、よかったら一緒にやりませんか?」と、課題に応える姿勢を見せつつ、「テイカー」を諌めていかなければいけない。双方から歩み寄ることで、互いのリソース、知見を持ち寄った開発が可能になると小林氏は提案する。

 加えて、情シスの評価は、減点だけでなく加点も考慮する組織になってほしいと語る。「金銭的な報酬や昇格などが難しければ、事業部門はせめて感謝を口にしてあげてほしいです。特に上長がアピールすることで、会社全体が情シスの貢献を評価する風土に変わると思います」(小林氏)

 3つ目は、「バックオフィスのチャレンジを応援する」だ。これは情シスに限らず、総務や人事など、顧客に直接相対しない部門を全て含むという。「今回の例のように、各部門が協力してバックオフィスの新しい試みをスピーディに構築できれば、結果としてフロント側のサービスが超高速になり、お客様への価値提供も早くなるはずです。私は今、その仮説を新しいプロジェクトで実践しながら検証しています」と小林氏は言う。

 自分たちが使うものであれば、それを情シスなど他の人に完全に下駄を預けてはいけない。そのために、他部署とより深く話し合い、互いの活動を応援する組織にならなければいけないと、小林氏は最後に語った。

 事業環境の変化は激しさを増しており、企業は俊敏に動く組織をつくらなければいけない。部門の縦割りを解消するための対話と協業は、そのために不可欠である。NTTドコモビジネスのような大企業で、部門横断のプロジェクトを動かすためには大きなエネルギーが必要だ。しかし小林氏の講演は、それを実現したときに得られる価値の大きさと、求心力の向上を示してくれた。

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